熊本の酒蔵
熊本は「水の国」と呼ばれるほど水が美味しい地域です。阿蘇山に降った雨が、地層を通って長い時間かけてろ過され、ミネラルバランスが整ったまろやかで澄んだ水になります。
美味しい水があるところには、美味しいお酒も生まれるもの。熊本にも、個性豊かな酒蔵が点在しています。ちなみに熊本酒造組合が公表している清酒蔵は以下の10蔵です。
- 千代の園酒造(山鹿市)
- 花の香酒造(玉名群和水町)
- 熊本県酒造研究所(熊本市中央区島崎)
- 瑞鷹(熊本市南区川尻)
- 亀萬酒造(葦北郡津奈木町)
- 河津酒造(阿蘇群小国町)
- 宝原合名会社(阿蘇群南小国町)
- 美少年(菊池市)
- 山村酒造(阿蘇群高森町)
- 通潤酒造(上益城郡山都町)
今回は、その中から「千代の園酒造(ちよのそのしゅぞう)」をご紹介します。
千代の園酒造
千代の園酒造は、熊本県山鹿市にある老舗の酒蔵です。阿蘇外輪山から湧き出す菊池川の伏流水を仕込み水として使用し、豊かな自然に恵まれた土地で酒造りを行っています。
創業は1896年(明治29年)。もともと米問屋だった初代・本田喜久八さんが、米に対する強いこだわりをもとに酒造りを始めたそうです。米に精通した蔵ならではの、ユニークなスタートですよね。
戦後、普通酒が主流となっていた1968年(昭和43年)には、全国に先駆けて純米酒造りに挑戦(普通酒と純米酒の違いについては「千徳酒造」をご参照ください)。祝いの席でその純米酒を大盃に注いでまわし飲みしたことから、「朱盃(しゅはい)」と名付けられました。以来、この「朱盃」が千代の園を代表する銘柄となっています。
うしじま酒店
出張で熊本に行く機会があったので、仕事終わりに熊本駅ビル「肥後よかモン市場」1階にある角打ち店「うしじま酒店」さんに立ち寄りました。

酒屋さんが直営しているお店で、店内には熊本の地酒や焼酎がずらりと並んでいます。角打ちコーナーにはビールや軽いつまみも揃っていて、新幹線の待ち時間に立ち寄るのにぴったりなお店です。飲み比べセットもあるため、試飲しながらお土産を選ぶのにも重宝します。

純米酒「朱盃」(税込400円)を注文したら、可愛らしいくまモンの枡で提供されました。この枡も購入することができます(税込800円)。

「朱盃」はまろやかな口当たりで、するりと身体に馴染む味わい。表記上は+1〜+4の辛口ですが、キレというより水のようにスッキリとした印象です。冷たくして飲んでも、米の旨みたっぷりでツマミ要らず。個人的には、ぬる燗でさらに旨みを引き出して飲むのがおすすめです。
住所 熊本市西区春日3-15-30(熊本駅直結「肥後よかモン市場」1F)
電話 096-288-3934
定休日 施設に準ずる
営業時間 9:00〜20:00(角打ちは19:30L.O※フードは19:00まで)
熊本神力ペアリング
晩酌用には「熊本神力(くまもとしんりき)」を購入しました。
酒米「神力(しんりき)」とは
神力は、明治から昭和初期にかけて西日本一帯で広く栽培されていた米です。従来米の約1.25倍と収穫量が多く、しかも性質が原始米に近いため交配親として優れており、多くの酒米の交配に使われてきました。そのため「好適酒造米の元祖」とも呼ばれています。しかし大正時代に栽培しやすく品質も安定した「旭(のちの朝日)」が普及したことで、神力は次第に姿を消しました。
現在では、農家や大学に保存されていた種子を活用し、多くの酒蔵が神力の復活に取り組んでいます。神力をもとにした新しい酒米も生み出されており、千代の園酒造も約30年前に「九州神力」という独自の品種を開発しました。その米で仕込まれたのが「熊本神力」です。
【人吉駅弁やまぐち】栗めし
熊本の酒には熊本の食べ物でしょう!ということで、「人吉駅弁やまぐち」さんの「栗めし」を用意しました。見かけたら必ず購入している、大好きな駅弁です。
人吉名産の和栗をたっぷり使ったホクホクの栗ごはんに、地元らしい濃いめのおかずが栗型の容器にぎっしり詰め込まれています。

このお弁当を作っている「人吉駅弁やまぐち」さんは、大正12年創業の老舗。2025年の第15回九州駅弁グランプリで優秀賞を受賞しており、歴史も味もお墨付きです。
熊本神力と栗めし
まずは熊本神力を冷やでひとくち。純米吟醸酒ですが吟醸香は控えめで、繊細でやわらかな口当たりです。派手さはないものの、心をほぐしてくれるような癒やしを感じます。
続いて栗めしと合わせてみるとーー
「あれ???」
熊本神力の味が、紛れてしまいます。
まるで自らを引き立て役に徹しているかのよう。栗の甘みや辛子蓮根の辛味、しいたけの旨煮といった強い個性を、そっと受け止めて影に回ってしまいます。
これを例えるなら炊きたてのごはん。単体で食べるときには粒の甘みをはっきり感じられるのに、おかずと合わせると相手を支える存在になります。甘めで濃い味が多い熊本の郷土料理との相性は確かに良いのですが、私はまだ熊本神力そのものの魅力を掴みきれていません。このままグイグイ飲み進めるのはもったいない…!
熊本神力とあっさりおつまみ
なので、週末に改めて晩酌を楽しむことにしました。用意したのは、ささみの塩麹焼きと高野豆腐の含め煮。あえてあっさり淡白な料理をそろえてみました。

まずは冷たく冷やした状態で「熊本神力」を合わせてみるとーーこれがドンピシャ!
味付けがシンプルだからこそ、喉から鼻にぬけるやさしい吟醸香をしっかり感じられます。塩麹で甘みを引き出したささみには米の甘み、ジュワッと出汁が染み出す高野豆腐にはやわらかな酸味が重なります。喉を通ったあとには旨みが広がり、心地よく余韻が続きます。
「熊本神力」は淡白な肴でこそ本領発揮するのかもしれません。全体のバランスがとても良いお酒だと分かりました。
次はぬる燗にしていただきました。ひとくち含むと、思わず「ほ〜〜〜」とため息が。疲れがほどけていくような、じんわりした美味しさです。途中でおつまみがなくなりましたが、米の旨みたっぷりなので単体でも十分満足。冷めていく過程も含めて、最後まで楽しませてくれました。
千代の園酒造のラインナップ
千代の園酒造さんは、どのラベルを取り上げてもひと記事書けそうなくらい本当に種類が豊富です。
看板の「朱盃」に加え、県内外の酒販店(主に「くまもと酒文化の会」加盟店)と共同で展開するPB銘柄「泰斗(たいと)」も人気です。なかでも純米吟醸 泰斗は、熊本県産山田錦×熊本酵母の“オール熊本”仕込み。まろやかな辛口で、和洋中さまざまな料理と一緒に楽しめます。
今の時期はひやおろし(新酒に一度だけ火入れをし、夏の間に涼しい蔵でじっくり熟成させてから秋に出荷される日本酒のこと)も登場。「幻の米」とも称される「亀の尾」を100%使用した限定ラベルもあります。さすが、酒米に強いこだわりを持つ酒蔵ですね。
酒米で選ぶなら、熊本初のオリジナル酒米「華錦」を100%使用した「純米吟醸 朱盃 翼」もおすすめです。
酒米に力を入れる一方で、革新的な挑戦も。
日本酒では珍しいコルク栓で「びん囲い」し、時間の経過とともに移り変わる香味を楽しめる熟成型の純米大吟醸を製品化しています。代表ラベル「大吟醸 千代の園 Excel」はJR九州が運行する観光列車「ななつ星」にも採用されています。
さらに、熊本ならではの「赤酒」や本みりんといった、料理に広がりを与えるようなラインナップも。赤酒は醸造したもろみに木灰を加える“灰持酒”という古来の製法で造られ、熊本のお屠蘇や郷土料理に欠かせない存在とされています。
【熊本県・山鹿市】ふるさと納税
熊本県外での千代の園酒造の取扱店は多くなく、おとなり福岡県でもあまり購入できません。購入するなら、ふるさと納税を活用するのがおすすめです。
私のイチオシは「熊本神力」と「純米酒 くまモンラベル」のセット。
くまモンの可愛いラベルに目をひかれますが、実は「純米酒 朱盃」のラベル違い。2015年の燗酒コンテストで金賞を受賞というシブい実績もあり、これからの季節にぴったりな日本酒セットです。
楽天ふるさと納税【熊本県・山鹿市】
特別な1本をお探しの方は、ぜひ「大吟醸 千代の園 Excel」を。
精米歩合35%まで磨き上げ、全国的にもめずらしいコルク栓を使った「びん囲い」製法で造られる熟成型の純米大吟醸です。私自身は上司に連れて行っていただいた鉄板焼屋さんで「3年目」のものを口にしたことがあります。大吟醸のフレッシュな香りがそのまま熟成されたような、濃厚な香りが忘れられません。普段飲みにするには少しお高めなので、「50代で手に入れて熟成させ、60歳の誕生日に開けたい」と密かに計画しているお酒です。
楽天ふるさと納税【熊本県・山鹿市】
ちなみにふるさと納税は制度の見直しにより、2025年10月からポイント付与ができなくなる予定です。楽天ふるさと納税などでお得に寄付をしたい方は、9月30日までがラストチャンスになります。
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