このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2025年12月22日(冬至)〜2月4日(立春)の期間を『冬の薬膳』としてご案内しています。
八角の雑学
八角の原産地
星形の姿が印象的な八角は、シキミ科の常緑樹トウシキミの果実を乾燥させたスパイスです。
原産地は中国南部からベトナム北部にかけての温暖な地域。現在も世界最大の生産国は中国で、とくに広西チワン族自治区がその大部分を担っています。

八角の中国史
八角は、もともと中国南部の先住民族が胃薬や体を温める散寒薬として利用していたと考えられています。医学の中心が置かれていた都市部では、長く「辺境のめずらしい薬」という位置づけでした。
スパイスとしての地位を確立したのは、食文化が大きく発展した宋代以降です。煮込み料理や肉料理の技法が洗練される中で、南部から運ばれてきた八角の「肉の臭みを消し、旨味を引き立てる力」が料理人たちの注目を集めるようになりました。
明代にはあらためて健胃作用や鎮痛・散寒作用が整理され、薬としての位置づけも明確になりました。これらの効能は李時珍の『本草綱目』にも記されています。
さらに後の明〜清代には、他の香辛料と組み合わされ「五香粉(ウーシャンフェン)」というミックススパイスとして体系化されました。こうして八角は薬でもあり料理の香りの核でもある存在として、中国全土の家庭や厨房に深く根づいていったのです。
五香粉(ウーシャンフェン)とは
五香粉(ウーシャンフェン)の基本的な配合は、八角・桂皮(シナモン)・丁香(クローブ)・茴香(フェンネルシード)・花椒の5種。地域や家系によって配合はさまざまで、陳皮や生姜、山椒などが加えられ10種以上に広がることもありますが、いずれも共通して「香りの調和」を大切にしています。
豚肉やアヒル肉といった脂の多い料理に欠かせない存在で、重たい油脂をすっきりとまとめてくれます。薬膳的にも、香りによって消化を促し、食後の負担を軽くする働きが期待されています。

八角の日本史
日本には八角とよく似た「樒(シキミ)」という植物が古くから自生していました。シキミも星型の実をつけますが、こちらは猛毒。平安時代には遺体の臭い消しや魔除けとして仏事や墓地に用いられていました。こうした経緯からシキミは「仏様の木=口にしてはいけないもの」という認識が深く刻まれていたそうです。

江戸時代になると長崎の出島を通じて中国から八角が輸入され、日本のシキミと区別するために「唐樒(トウシキミ)」「唐八角(トウハッカク)」と呼ばれました。貝原益軒 の『大和本草』には「唐茴香(トウウイキョウ)」として記され、「毒がなく、腹痛や冷えに効く薬」として紹介されています。用途はあくまで薬に限られ、庶民の料理に使われることはほとんどありませんでした。
八角が「香辛料」として日本の食卓に登場するのは戦後のことです。中国からの帰国者を通じて家庭でも中華料理が作られるようになり、1970年代以降の中華料理ブームも追い風となって、八角は少しずつ「料理に使うスパイス」として浸透していきました。
八角・スターアニス・大茴香
八角は「スターアニス」「大茴香」とも呼ばれます。
スターアニスはシキミ科、アニスや茴香(フェンネル)はセリ料の植物。植物としての分類はまったくの別物です。それでも香りがよく似ているのは、共通して trans-アネトール という甘く清涼感のある香り成分を含むため。八角の香りはこの成分の存在感が大きく、少量でも力強く、エキゾチックで甘い香りを放ちます。

アニスシード
アニスは地中海地方を原産とするセリ科の一年草。記録によれば紀元前2000年頃にはすでに古代エジプトで栽培されていたとされ、「世界最古級のスパイス」とも呼ばれています。
スパイスとして使われるのは乾燥させた小さな種子、「アニスシード」です。木の果実である八角と区別するため、料理の分野ではあえて草の種であることを強調して「グリーンアニス」と呼ぶこともあります。穏やかな甘い香りとスパイス特有の清涼感があり、焼き菓子やリキュールに欠かせない存在とされてきました。
また薬としても長い歴史を持ち、西洋では「アニシ・フルクタス (Anisi fructus)」 の名で薬局方にも収載されています。消化を助ける生薬として扱われ、ローマ時代には豪華な饗宴のあとに、胃もたれを防ぐ目的でアニス入りのケーキを食べる習慣があったと伝えられています。現在でも胃腸薬として用いられるほか、去痰作用があることから、咳止めシロップやのど飴などにも精油が広く使われています。
16世紀の大航海時代に中国から八角が伝わると、香りがアニスに似ていることから「星型のアニス(スターアニス)」と呼ばれるようになりました。
茴香(フェンネルシード)
フェンネルは地中海地方原産のセリ科の多年草です。地中海沿岸の野山にもよく見られる丈夫な野草で、一年草のアニスより大きく、条件が良いと2メートル近くまで成長します。

スパイスとして使われるのは乾燥させた小さな種子、「フェンネルシード」です。アニスほど古い記録はありませんが、こちらも古くから活用されてきました。
フェンネルは「食欲を落ち着かせるハーブ」として、古代ギリシャで空腹を紛らわすために種子を噛む習慣があったといわれまていす。食前にフェンネルティーを取り入れることでドカ食いを防ぐことができるといわれ、日本でも一時期そのダイエット方法が話題になりました。
ただしフェンネルには女性ホルモン(エストロゲン)に似た働きをする成分も含まれているため、妊娠中や乳腺疾患がある方は飲用を控えるのが安心です。
フェンネルは交易を通じて広い地域に伝わり、中国にも比較的早い時期に伝来したと考えられています。
唐代の薬物書『新修本草』に「茴香(ホイシャン)」として記載がありますが、この名は「腐った魚や肉に混ぜると香りが回復する」ことに由来するといわれています。臭みを消し、消化を助ける香薬として受け入れられていきました。
その後、宋代に中国南部から八角が広がると、茴香よりも香りが強く、形も大きいことから「大茴香」と呼ばれるようになりました。しかし庶民の間では、効能よりも星型の姿が強く印象に残り「八角」という呼び名の方が定着。いまでも生薬では「大茴香」、料理では「八角」と呼び分けられることが一般的です。
おすすめの八角と活用方法
八角のリキュール漬け
八角は花の中心部に6〜8個ほど輪のように並んだ心皮(さや)からなる果実です。各心皮には1つずつ種子が入り、熟すと赤褐色になって堅くなります。

少し甘みのある、独特で強いエキゾチックな香りが特徴。角煮やチャーシューなどに使われる定番スパイスですが、料理に入れると香りが前に出すぎて、良くも悪くも“全部八角っぽい味”になりがちです。
なので私は主に飲み物に使います。目安はカップ1杯に対して約1/2個。ただ八角は大きさも割れ方もまちまちなので、あまり気にせず放り込んでいます。紅茶やルイボスティーのほか、コーヒーに少し加えても一味変わった風味が楽しめます。
ワインやみりん、ラムなどのリキュールに漬け込むのもおすすめです。今回はお屠蘇の残りの赤酒を使いました。スパイスを漬けたお酒は、温めた豆乳や牛乳に少し混ぜると身体がほどけるように温まり、眠りにつきやすくなります。同居人はこれを「自家製養命酒」と呼び、寝る前にお猪口一杯飲んでいます。

昔勤めていた飲食店では、上記のスパイスを漬けたワインをクランベリージュースで割って温め、オレンジの皮を添えて提供していました。りんごジュースに変えたり、はちみつを加えたり。いろいろなアレンジを試しながら、自分好みのホットワインを作るのも冬の楽しみのひとつです。
【アメ横大津屋スパイス・豆の専門店】中国産八角
八角に限らず、スパイス類は当たり外れが多いと感じます。
実際に使用してみると香りが弱く、ガッカリすることも少なくありません。本当は香りを確かめてから買いたいのですが、身近に実店舗が少ないため、私は手軽なオンラインショップを利用しています。ここでは、信頼している2店舗をご紹介します。
まずは東京・上野のアメ横商店街にある、スパイスと豆の専門店・大津屋さん。創業から60年以上の実績を持つ老舗です。
こちらの八角は中国産。中国の八角は品質の幅が広く、高級品から廉価品までさまざまといわれますが、以前実店舗で香りや状態を確認して「ここなら大丈夫」と感じて以来、オンラインショップも活用するようになりました。
大津屋さんの魅力は、なんといっても品揃えの豊富さ。少量から手頃な価格で買えるので、いろいろ試したいときに重宝します。楽天市場店では3,980円(税込)以上の購入で送料無料になるため、複数のスパイスをまとめ買いするときにも便利です。
【鎌倉てとら合同会社】鎌倉香辛料・ベトナム産八角
鎌倉香辛料は、2020年設立の「鎌倉てとら合同会社」さんが展開している、オーガニック志向のスパイス・ハーブブランド。自社開発の商品を中心に取り扱い、有機JAS認証原料を中心にしたオーガニック・無添加志向のラインナップが特徴です。
公式サイト内の直営オンラインショップのほか、Amazon、楽天市場内で取り扱っているショップもあります。
こちらの八角はベトナム産で、有機JAS認証を取得した商品です。販売ページでは、有機JAS認証の条件として「禁止された農薬・化学肥料を使用しないこと」や「遺伝子組換え技術を使用しないこと」などをクリアしている旨が説明されています。
八角の薬膳効能

八角には「身体を温め、冷えからくる不調をやわらげる」作用があるとされています。
「冬の薬膳」で『陰陽二元論』についてご紹介しましたが、中医学には”自然界のあらゆるものは『陰』と『陽』という相反するエネルギーで成り立つ”という考え方があります。人体も『陰(血・津液)』と『陽(気)』がお互いにバランスを取り合うことで健康を維持しています。
冬は自然界の『陽気』が衰える季節。人体の『陽』の側面を持つ『気』のめぐりも悪くなります。
気にはいくつかの働きがありますが、冬は『温煦作用(身体を温める)』が弱まるため冷えが生じ、『防御作用(体表を保護して外邪の侵入を防ぐ)』が弱まるため風邪を引きやすくなります。
八角には『陽気』をめぐらせて身体の隅々まで温め、内側から熱を産出させて寒さを散らす作用があるとされており、身体が冷えたときや風邪のひき始めにおすすめのスパイスです。私の薬膳の先生は八角を煮出したものにみかんの汁をしぼり、はちみつを加えた「風邪予防シロップ」を冬場に愛飲していました。
成分的には、八角の主な香り成分であるtrans-アネトールに、胃の働きを助ける『健胃作用』や痰を出しやすくする『去痰作用』があると考えられています。また八角に含まれる「シキミ酸」はインフルエンザ治療薬「タミフル」の原料となることでも知られています。

八角そのものを食べたり飲んだりしてもインフルエンザを予防/治療できるわけではありません。あくまで「製造に使われる成分を含む」という話です。
おすすめの参考書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。

先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版



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