このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2025年12月22日(冬至)〜2月4日(立春)の期間を『冬の薬膳』としてご案内しています。
味噌の雑学
味噌の中国史
味噌のルーツは古代中国にあります。
中国では「塩で発酵保存したペースト状食品」を総称して 醤(jiàng/ジャン)と呼んでいました。当時の醤は、調味料というより「保存技術」。冷蔵庫のない時代、塩と発酵は食生活を支えるための命綱でした。
春秋戦国から漢代にかけて、醤はすでに体系化されており、
- 肉醤
- 魚醤
- 草醤(野菜・果実)
- 穀醤
などに分類され、国家が管理する重要な食品でもありました。

なかでも重視されたのが大豆を用いた穀醤です。大豆は量産・保存が容易なため、安定供給できるタンパク源として広く活用されました。大豆をすりつぶして発酵させた「豆醤(dòujiàng)」は唐〜宋代にかけて洗練され、のちの「甜麺醤(テンメンジャン)」や「豆板醤(トウバンジャン)」につながる多彩な醤文化を生み出しました。
味噌の日本史
醤は飛鳥〜奈良時代にかけて、仏教文化とともに日本に伝わりました。
当時の日本にも塩蔵や自然発酵による保存食は存在していましたが、中国から伝わった醤は発酵を意図的にコントロールして作られた、”完成度の高い発酵食品”。なかでも仏教の肉食忌避の広がりを背景に、動物性原料を用いない穀醤が重んじられ、これが味噌文化の芽生えとなりました。
記録として最初に登場するのは、奈良時代の『大宝律令』(701年)に見られる「未醤(みしょう)」です。これは発酵が未完成の醤を指す言葉で、のちに「みそ」の語源になったと考えられています。
鎌倉時代になると、留学僧・心地覚心(しんちかくしん)が宋に渡り、径山寺(きんざんじ)の精進料理とともに高度な醸造技術を日本に持ち帰りました。この製法で作られた「なめみそ」は、現在の和歌山県の特産品「金山寺味噌(きんざんじみそ)」の原型となっています。

やがてこの技術が日本各地に伝わり、既存の「未醤」と融合することで、より洗練された日本独自の味噌文化が形成されました。その後、室町〜戦国時代にかけて味噌は戦陣食としても重用され、地域ごとの特色を反映しながらさらに全国に広がっていきました。
味噌の作り方と地域味噌の誕生
味噌は、今ではスーパーなどで既製品を購入するのが当たり前になっていますが、かつては各家庭で仕込むのが普通でした。自分のことを自慢する「手前味噌」という言葉は、「うちの味噌がいちばん美味しい」と客人に振る舞う行為から生まれた言葉です。

「家庭で作るもの」から「買うもの」へとシフトしたきっかけは、第一次世界大戦前後に始まる近代的な醸造技術の発達です。軍需や工場の大量消費向けに、科学的な品質管理のもとで味噌を大規模生産するようになりました。昭和30年代〜40年代の高度経済成長期には流通も整い、保存性と品質が安定した市販味噌が主流となり、現在に至ります。
最近では逆に「食の安全」や「発酵ブーム」の影響から、あえて家庭で手作りを楽しむ人も増えています。
味噌の作り方
味噌の材料は、驚くほどシンプル。
- 大豆
- 麹(米・麦・豆)
- 塩
これだけです。そして工程も、実はとても原始的。

ment over time. It is a collaborative process between human hands, microorganisms, and time.
① 大豆を蒸す(または茹でる)
しっかり浸漬させた大豆をやわらかくなるまで蒸します。これにより、大豆のタンパク質が麹の酵素で分解されやすい状態になります。
② 乾燥麹と塩を混ぜる
麹と塩を混ぜて「塩切り麹」を作ります。麹はデンプンを糖に、タンパク質をアミノ酸に分解する“発酵のエンジン”です。麹の種類(米・麦・豆)によって味や香りの方向性が変わります。

麹を自作する場合は、蒸した穀物(米・麦・豆)に麹菌(コウジカビ)をまぶし、時間をかけて繁殖させます。
③ 大豆を潰し、塩切り麹を混ぜる
蒸した大豆を潰し、②の塩切り麹を投入して混ぜます。

地域によっては、潰した大豆をおにぎりのように丸めて「味噌玉」を作り、一晩〜十日ほど置いてから塩切り麹と合わせます。自然の微生物を取り込み、発酵を安定させるための工程です。
④ 容器に詰めて、寝かせる
空気が入らないようギュッギュッと容器に詰め、重石をのせて半年〜一年ほど熟成させます。

その間、人がすることはほぼありません。味を作るのは微生物と時間。味噌は、「作る食品」じゃなく「育つ食品」と言えるでしょう。
地域味噌の誕生
作り方から分かる通り、味噌は「時間」と「場所」に左右されやすい発酵食品です。そのため日本には風土に根ざしたさまざまな特色の味噌が生まれました。
味噌の多様性を生む要因
1.気候・風土
寒冷な地域 → 発酵がゆっくり → 長期熟成→ 色が濃く香り高い(赤系味噌)
温暖な地域 → 発酵が早い → 短期熟成→色が淡く甘い(白系味噌)
2.原料
東北・北陸地方→米の生産が多い→米麹
中国・四国・九州地方→麦作地帯→麦麹
中部地方(特に愛知・岐阜・三重)は戦国時代に戦乱が続いた土地でした。そのため味噌には「保存性」と「栄養価」が強く求められ、タンパク質が豊富で長期熟成・保存が可能な豆麹が選ばれました。

3.食文化・嗜好の違い
東日本では味噌汁中心の食文化が根づき、塩味や香りを重視する赤系味噌系が発達しました。一方、西日本では味噌汁に加えてタレや和え物など調味料として幅広く味噌を使う文化があり、味の好みに合った甘い味噌が発達しました。
信州味噌(長野県など)
寒冷地で作られる長期熟成型の米味噌。
塩気と旨味が強く、保存性が高い。武家の戦陣食(携帯食)としても重用されてきました。
八丁味噌(愛知県岡崎市など)
大豆のみを原料とする豆味噌。
徳川家康の居城であった岡崎城(当時の軍事拠点)から、西へ「八丁(約870m)」離れた八丁村周辺で作られ、保存性の高さから兵糧としても重用されてきました。
西京味噌(京都府など)
米麹を贅沢に使用(大豆の2倍以上)した短期熟成の白味噌。
上品な甘みとまろやかさが特徴。宮中(天皇家・公家)の祝い事や茶懐石、精進料理などに重用されてきました。
九州の味噌
九州では本州の中心部に比べて平地が少なく、開墾が進みにくい地域も多かったため、山間部でも栽培しやすい麦作が盛んでした。限られた平地は主に稲作に充てられ、米は年貢として納める貴重な作物だったことから、味噌作りに用いられることはほとんどありませんでした。こうして麦麹を使った麦味噌が生まれ、農家の自家用味噌、いわゆる「田舎味噌」として定着していきます。

その後、開墾が進んで米の生産量が増えた後も、九州では二毛作が盛んに行われ、麦作の文化が受け継がれました。そのため麦味噌は日常の味として親しまれ続けましたが、近年では米麹を加えた「合わせ味噌」が主流となっている地域も多く見られます。
福岡・佐賀・熊本などの北部九州では合わせ味噌を好む傾向にあります。福岡の郷土料理「がめ煮」に代表されるように、かつては砂糖や醤油をしっかり使った濃く甘い味付けが好まれていましたが、現在の福岡では「出汁をきかせたやや甘めの味」が主流となっています。
麦麹だけで仕込む味噌は香ばしさと甘みが強く、主張が前に出過ぎることがあるのですが、米麹を加えることで味わいが軽やかになり、出汁の風味を引き立てる味噌へと変化します。

なお、南九州(宮崎・鹿児島)は合わせ味噌ではなく、甘みの強い麦味噌が主流です。温暖な気候と焼酎文化を背景に、味噌そのものの甘さとコクを楽しむ食文化が育まれてきました。
また、長崎の味噌は麦味噌を基本としながらも、海外との交流に由来する食文化の影響を受けており、「長崎味噌」として独自の位置づけを持っています。そのため卓袱(しっぽく)料理や和洋中折衷の料理など、長崎ならではの食文化に合わせる味噌として独立して区分されることが多いです。
おすすめの味噌【中山大吉商店】大吉味噌
中山大吉商店は、熊本県玉名市にある味噌蔵です。1911年の創業以来、米麹の甘みと麦麹の旨味を活かした独自の配合による伝統製法を守り続けています。初代は酒蔵で米麹造りを学び、阿蘇や島原などで醸造技術を磨いたと伝えられています。そうした歩みの中で育まれてきた味わいは、九州らしい「素朴でどこか懐かしさのある味」。わが家でもずっとこの味噌を使い続けています。
原料には熊本産の大豆と米、佐賀産の丸麦を使用。保存料などを加えず、少し甘めに仕上げられた味噌は、福岡の「出汁をきかせたやや甘めの料理」にぴったり。毎日の味噌汁はもちろん、煮物や和え物にも使いやすい優しい味わいです。
味噌の活用方法とレシピ
味噌汁やスープに
同居人と一緒に食事するのは夜ごはんだけで、朝と昼は別々です。私は昼ごはんを「おにぎりと汁物」で固定しているのですが、毎食ひとり用の汁物を準備するのは正直ちょっと面倒。そこで週の半分くらいは前日の残りを味噌汁に活用しています。おひたし、和え物、サラダ、炒め物。どんな食材でも意外と味噌汁に合います。洋風の食材には、かつお粉の代わりにコンソメと黒胡椒。サラダは電子レンジで軽くしんなりさせてから。濃くなりすぎた味噌汁には豆乳をプラス。具だくさんの汁物になり、満足感もぐっと上がります。

サザンフーズさんの本枯節かつお粉は、「味付け失敗しちゃったかな?」という料理でも最後にこれをひとふりすれば何とかしてくれるーー私にとっての救世主でもあります。
👇️Yahoo!ショッピング内の「鹿児島の鰹節屋 サザンフーズ」ストアは、サザンフーズさんが直接運営している公式直売店です。
【Yahoo!ショッピング】サザンフーズ 本枯節かつお粉味噌漬けに
「鮭とマス」の記事でもご紹介しましたが、私はよく食材を味噌漬けにします。味噌に漬けた肉や魚を焼くと、焦げた部分の香ばしさが本当に美味しいんですよね。余った味噌にゆでたまごやクリームチーズを漬けておくと、ちょっとしたおつまみにもなります。

味噌だれに
冷蔵庫が小さいこともあり、ドレッシングやたれ類はなるべく手作りしています。この味噌だれを作っておくと、味噌炒めに、ごまだれに、マヨネーズを加えてごま味噌ドレッシングにと、いろいろ使えてとても便利です。

味噌の薬膳効能

味噌には「身体を温め、脾胃の働きを高める」作用があるとされています。
味噌は、大豆を発酵させることで、栄養を消化・吸収しやすい形に変えた食品です。大豆製品には共通して「脾胃を補い、働きを整える」という作用がありますが、とくに味噌は消化を助けることで胃のつかえや食後のもたれを和らげ、気が上に逆流しにくい状態をつくると考えられてきました。
生の大豆には消化を妨げたり胃腸に刺激を与えたりする成分が含まれており、十分な下ごしらえや加熱が必要です。加熱・加工しても、食べ方によっては消化に負担がかかることがあります。
その点、味噌は発酵の過程でそれらの成分が分解・低減され、タンパク質もアミノ酸やペプチドの形に変化するため、胃腸への負担が少なく、日常的に取り入れやすい大豆製品といえます。
「一日一杯の味噌汁で医者いらず」という言葉があるように、味噌汁にすることで出汁や具材の栄養も加わり、毎日の体調管理に役立ちます。味噌汁1杯あたりの塩分は1.3gほどですが、同量の食塩摂取と比べて血圧への影響が出にくいとする報告もあります。気になる方は減塩タイプの味噌を使用すると安心です。
おすすめの薬膳書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。

先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版


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