このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2025年11月7日(立冬)〜12月22日(冬至)の期間を『初冬の薬膳』としてご案内しています。
杏仁の雑学
杏仁豆腐でおなじみの「杏仁(きょうにん)」は、実は咳止めなどに使用されてきた生薬でもあります。

中国最古の薬学書『神農本草経』(1~2世紀頃)には「杏核仁」として登場し、呼吸器系の不調に用いられてきたことが記されています。また、三国時代の医学書『傷寒論』(3世紀)にもその名があり、風邪の引きはじめに使われる「麻黄湯」の構成生薬のひとつとして紹介されています。
杏仁の原産地
杏仁はアンズの種子です。アンズはバラ科サクラ属の植物で、同じ仲間には桃やすもも(プラム)、梅、アーモンドなどがあります。福岡では桜より少し早い3月頃に花を咲かせ、6下旬〜7月上旬頃に実をつけます。

アンズは長らく”Prunus armeniaca”という単一種として扱われ、現生地はアジア西部(アルメニアやアナトリア半島周辺)と考えられてきました。そのため日本の在来種を含む東アジアのアンズは、すべてその変異種、あるいは栽培品種とみなされていました。
しかしその後、日本の果樹園芸学者・菊池秋雄氏がこの分類に異論を唱え、形態や分布、遺伝的特徴をもとに、アンズを以下の3つの独立した種に分類する考え方を提唱しました。この分類は現在、国際的にも主要なアンズ分類の基盤となっています。

1️⃣ホンアンズ(Prunus armeniaca)
世界各地で栽培されているアンズの基本となる種で、 原生地は中央アジア周辺とされます。そこから東へ栽培・帰化域が広がり、日本の在来種もこの系統に含まれると考えられています。
2️⃣モウコアンズ(Prunus sibirica)
中国北部から内モンゴル・シベリアにかけて分布する純粋な野生種です。−30℃にも耐える強い耐寒性を持ちますが、果肉が薄く硬いため食用としての利用はありません。
3️⃣マンシュウアンズ(Prunus mandshurica)
中国東北部から朝鮮半島北部に原生する種で、山地の冷温帯林に自生します。果実が小さく硬いため、こちらも食用には向いていません。
アンズの構造
杏仁はアンズの果実にある「核(硬い殻)」の中に入っている、種子の中身(仁)の部分です。

アンズは果肉が核から離れやすい「離核性」という性質を持つため、比較的簡単に核を取り出せます。そして、その核を割った内側に、杏仁のもとになる”仁”が入っています。
おすすめの甜杏仁と杏仁豆腐レシピ
おすすめの甜杏仁
杏仁には大きく「苦杏仁」「甜杏仁」の2種類があります。
一般に、苦杏仁は生薬として”咳止め”など呼吸器症状に用いられることが多く、甜杏仁は美肌や便秘解消などを目的とした”薬膳スイーツ”で登場することが多い杏仁です。
甜杏仁は、主に「杏仁霜」または「甜杏仁パウダー」の形で販売されています。
杏仁霜は、甜杏仁を粉末化したものに糖類やデンプン、乳成分、香料などを加えて溶けやすく調整した加工品。お湯や牛乳に混ぜやすく、手軽で失敗が少ないのが魅力です(商品によっては“杏仁茶”として売られていることもあります)。
甜杏仁パウダーはよりシンプルな配合のものが多く、薬膳やレストランなどの本格的な中華料理に向きます。杏仁霜より自然な風味を楽しめる一方で、扱いがやや難しく、仕上がりが粉っぽくなることもあります。
私のおすすめは無添加の甜杏仁パウダー。楽天市場のリンクを貼っておきますので、ぜひご参照ください。
甜杏仁パウダーを使用した杏仁豆腐レシピ
甜杏仁パウダーは、油脂・タンパク質・繊維を含むため、性質としては「ナッツ粉」に近い存在です。そのため水に完全に溶けるというより、粒子が液体の中に分散して”懸濁(けんだく)”するイメージ。攪拌が足りなかったり、比重の違いで粒子が沈んだりすると、固まったあとにザラつき=粉っぽさとして感じられることがあります。
なめらかに作るためのポイントは以下の3つ。
- 少量ずつ入れて、しっかり攪拌する
- 弱火で加熱し、少しトロッとするまで混ぜ続ける
- できるだけ目の細かいフィルターで濾す

①ゼラチン5gを大さじ2の水でふやかしておきます。
②鍋に甜杏仁パウダー80gを入れ、水100ccを少しずつ加えながら、しっかりと混ぜてなじませます。
③鍋を弱火にかけ、ダマにならないよう混ぜ続けます。粉っぽさが落ち着き、少しとろみがついてきたら牛乳200ccを少しずつ加えて全体の温度を下げ、①のゼラチンを加えて混ぜ溶かします。
※ゼラチンは50~60℃程度の温かい液体に加えてゆっくり溶かすのがポイントです。
④ゼラチンが溶けたら火を止め、豆乳200ccを加えます。
⑤目の細かい濾し器でこしてから、容器に入れて冷やし固めます。

甜杏仁パウダー80gに対して液体500ccの配分なのですが、液体の構成はお好みで調整してください。水→豆乳→牛乳→生クリームの順で、脂肪分が多いほどよりなめらかな仕上がりになります。

ほんのり甘みがあるので、私は砂糖は加えません。今回は冷凍保存しておいたいちじくのコンポートに枸杞を加え、ソースにしてみました。杏仁豆腐を作るのがちょっと面倒…という方は、ヨーグルトに甜杏仁パウダーを混ぜるだけでも「身体を潤す薬膳スイーツ」になります。
杏仁の薬膳効能

杏仁には「咳をおさえる」「スムーズな排便を促す」作用があるとされています。
私の薬膳の先生によると、薬効が似ていることから、中国では苦杏仁と甜杏仁をあまり厳密に区別せず、まとめて「杏仁」として扱うことが多いそうです。成分や用途というよりは、採取される地域に合わせて「苦杏仁=北杏」「甜杏仁=南杏」と認識し、杏仁豆腐に使用する杏仁も好みに応じて使い分けているとのことでした。
一方、日本では「(杏仁豆腐などの)食品に使えるのは甜杏仁のみ」とされており、苦杏仁は食品への使用が認められておらず、医薬品成分・生薬として位置付けられています。
苦杏仁とは
苦杏仁の主な原料はモウコアンズです。マンシュウアンズの仁も苦杏仁の原料となりますが、採取量が少ないため利用されることはあまり多くありません。
アンズの種子には脂質やタンパク質、炭水化物などが含まれていますが、咳止めなどの薬効に関するのは青酸配糖体の一種「アミグダリン」という物質だと考えられています。
アミグダリンは腸内で分解される過程でシアン化水素 (HCN) を生じます。これはサスペンスドラマでおなじみの「青酸」と呼ばれる物質で、多量に摂取すると頭痛・吐き気・呼吸困難などの中毒症状を引き起こす可能性がありますが、適切な量であれば呼吸や咳に関わる中枢を穏やかに抑え、鎮咳効果を発揮するとされています(その後は解毒され、尿として排泄されます)。

風邪や咳の漢方薬として知られる「麻黄湯」や「五虎湯」にも苦杏仁が配合されています。
生薬として用いられる苦杏仁は、薬典で「アミグダリン含有量がおおよそ3%以上であること」が品質基準の一つとされ、通常は1日3〜9gの範囲で使用されます。この用量であれば、体内で生じるシアン化水素はごく微量で、解毒機構が十分に働くため、一般的には安全に鎮咳・去痰作用が期待できます。
※使用にあたっては、体格や体調に応じて医師や専門家の指示に従ってください。
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甜杏仁とは
甜杏仁の主な原料は、栽培されたホンアンズです。甜杏仁はアミグダリンの含有量が低く、ほのかな甘味と芳香があり、日本では食用途で用いられます。
甜杏仁には脂質が多く含まれますが、アンズに含まれる脂質の多くはオレイン酸などの不飽和脂肪酸です。これらは腸管の粘膜を潤し、便をやわらかくしてスムーズな排便を促す働きがあるとされています。
| 苦杏仁 | 甜杏仁 | |
| 主目的 | 生薬(主に止咳平喘) | 食品(主に潤腸通便) |
| アミグダリン | 3%以上(薬典基準) | 0.1%未満 |
| 脂肪油(オレイン酸・リノール酸など) | 約35〜50%目安 | 約35〜50%目安 |
甜杏仁に含まれるアミダグリンの量は少量ですが、熟す前の青い果実を生のまま食べたり、極端に大量摂取したりすると、青酸中毒を招く恐れがあります。取り扱いや摂取量には十分注意してください。
おすすめの薬膳書籍
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