このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2025年5月5日(立夏)〜6月11日(入梅)の期間を『初夏の薬膳』としてご案内しています。
セロリについて
世界におけるセロリの歴史
セロリの原産はヨーロッパ〜地中海沿岸地方。野生種は湿地帯に自生するため、「強い香りがある水辺の植物」という意味で「apium graveolens」という学名が付けられています。
古代では主に薬として用いられ、1世紀頃の文献『ディオスコリデスの薬物誌』には「栽培種のアピウム(セロリ)の葉は、コエンドロ(コリアンダー)と同じ薬効を持つ」と記されています。目の炎症の外用薬として使われたり、生食して胸焼けや利尿に効果があるとされていました。
食用としての栽培が広まったのは17世紀以。肉の臭み消しとして、古くから煮込み料理やスープのベースに使われてきました。伝統的なコンソメスープのレシピには、玉ねぎ・人参・セロリの「ミルポワ(基本の香味野菜)」が登場します。
日本におけるセロリの歴史
日本には16世紀末ごろ、中国から朝鮮半島を経て伝わったと言われています。豊臣秀吉の朝鮮出兵時、加藤清正が人参と間違えて日本に持ち帰ったという説もありますが、それを裏付ける文献は確認されていません。ただしセロリを「清正ニンジン」と呼ぶ伝承は各地に残っています。
江戸時代にはオランダ船で西洋種が長崎に伝わり、明治時代には改良種が導入されましたが、独特の強い香りのため、普及には至りませんでした。食用として一般に普及したのは昭和30年代以降、食生活の洋風化が進んでからです。
セロリの旬と生産地
セロリの産地は長野と静岡で全体の6割以上を占めますが、実は福岡も全国3位の産地です。
セロリは主にハウス栽培されるため一年中流通していますが、福岡では2〜3月頃、路地栽培された巨大な株も出回ります。セロリの旬は春なので、5月中頃まで安価で流通しますが、あの巨大株が入手できるのは2〜3月頃だけです。来年は写真に収めたい!
葉と茎の活用方法
茎はシャキシャキした食感が魅力ですが、コンソメの要の材料というだけあって、煮込み料理に向いています。セロリの香り成分「アピイン」はポリフェノールの一種で、加熱しても失われにくく、スープや煮込み料理に使うと味に深みやコクを加える働きがあります。煮込めば煮込むほど旨味をしっかり出すため、セロリを加えると出汁が不要になる程です。「パセリ」でもご紹介しましたが、私はセロリの葉とパセリの茎をセロリの茎に詰め込み、タコ糸で縛ってブーケガルニ代わりに使っています。
葉はサラダはもちろん、細かくみじん切りにしてタルタルソースなどに加えるのもおすすめです。市販品でも、このひと手間でぐっと風味が増します。ベータカロテン、ビタミン、食物繊維葉など、葉は茎よりも豊富に栄養素を含みます。また、血液をサラサラにして血行改善に役立つとされる香り成分「ピラジン」は、葉にしかふくまれていません。ぜひ捨てずに活用してください。
本日のレシピ:セロリとさきいかの和え物
私はセロリが大好物なので、レシピも豊富にあるのですが、今回はセロリ嫌いの同居人にもおかわりを要求される「セロリとさきいかの和物」をご紹介します。いちおう計量してみましたが、分量は毎回適当です。何かが多くても少なくても美味しくなります。

① セロリの茎を斜め薄切り、葉をざく切り、さきいか30〜40gを食べやすい長さに切り、ボウルに入れます。計量したところ、セロリは全体で200gでした。
② 食塩不使用のナッツ(アーモンドでもくるみでも、何でも構いません。今回はミックスナッツを使用しました)60gを軽く砕いて小鍋に入れます。
③ ②に油(サラダ油でも米油でもオリーブ油でも、何でも構いません)大さじ3を加え、ナッツが色付いて香ばしくなるまで弱火でゆっくり加熱します。加熱が足りないと仕上がりが油臭くなるので、④でかけた時にジュッと音がするくらい、熱々に加熱してください。
④ ③が熱いうちに①にまわしかけ、塩胡椒を加えて混ぜ合わせます。密着するようにラップをかけ、セロリが少ししんなりしたら完成。そのままでも冷やしても美味しく召し上がれます。

おすすめの調味料
どんなレシピでも、「塩胡椒」を「極上スパイス 喜(よろこび)」に置き換えると一気にプロの味に近づきます。宮崎県都城市の精肉店『肉のふくしま』が手がけるスパイス塩なのですが、宮崎空港で購入できるため、出張に行くたびに大量に買いだめしています。
アウトドアブームの際、このようなスパイス塩がたくさん販売されましたね。仕事柄いろいろなものを試しましたが、これが断トツでした。友達や親族に配りまくったところ、全員が手放せなくなり、「近所で購入できないのにどうしてくれるんだ」と怒りの声をもらうほどです。
粉末醤油に塩・胡椒・ガーリック・パプリカ・レッドオニオンなど15種類をブレンドし、ステーキ、サラダ、パスタなど何にでも使用できます。これと酢と油があればいくらでも生野菜が食べられるので、我が家ではドレッシングも購入しません。
セロリの薬膳効能

セロリは肝の高ぶりを鎮め、気のめぐりを良くする効果があると言われています。
セロリは肝の『疏泄(めぐらせる)』機能を助ける代表的食材です。
「初夏の薬膳」でもご紹介したように、初夏は肝の『疏泄』機能が失調しやすく、『気滞(肝気鬱結)』を招きやすい季節です。
セロリは独特の香り成分で気をめぐらせる、まさに「食べるアロマテラピー」。頭に昇った気を降ろす働きもあるので、ガンガンする頭痛や目の充血、高血圧にも用いられます。
突出した栄養素はカリウムくらいですが、約40種類の香り成分が含まれています。主な成分のアピイン(フラボノイド系ポリフェノール)やセネリン(セスキテルペン類)には、神経を鎮めてリラックスさせたり、食欲を増進させる作用があるとされています。
また、本文でもご紹介したピラジンは、ほうじ茶やコーヒー、ローストナッツの香ばしさのもととなる成分で、血流を改善する働きのほか、副交感神経を優位にし、心身を穏やかにする働きもあると考えられています。
おすすめの薬膳書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。
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