このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2025年5月5日(立夏)〜6月11日(入梅)の期間を『初夏の薬膳』としてご案内しています。
陳皮について
陳皮とは
陳皮(ちんぴ)は、みかん類の果皮を乾燥させた生薬です。
中国では4000年前からみかん類の栽培が行われ、陳皮も生薬として利用されてきました。1〜2世紀頃にまとめられた「神農本草経」や、16世紀の薬物書「本草綱目」にも、その効能が記されています。
一般的には「陳皮」として知られていますが、正式名称は「橘皮(きっぴ)」です。「陳」には「古い」という意味があり、時間をかけて熟成させた「橘皮」を特に「陳皮」と呼んで区別します。
中国薬典によると、「ミカン科のオオベニミカン、コベニミカン、およびその他同属植物(いずれもマンダリンオレンジの一種)の成熟果皮」と定義されていますが、実際にはそこまで厳密に品種が限定されているわけではありません。
柑橘類の多くは、気のめぐりを良くする『理気』作用を持つとされますので、私はザックリ以下のような分類で良いと考えています。
🍊未成熟なみかん類の果皮=青皮(せいひ)
🍊成熟したみかん類の果皮=橘皮(きっぴ)
🍊橘皮を熟成させたもの=陳皮(ちんぴ)
ただし、橙(だいだい)の果皮だけは「橙皮(とうひ)」として別に扱われます。「橘皮」と「橙皮」には以下のような違いがあります。
- 橘皮…温性。『理気』作用により、穏やかに気をめぐらせます。
- 橙皮…微寒性。『理気』より強い『破気』作用があり、気滞を打ち破る働きがあります。
ちなみに橙の未成熟果実は「枳実(きじつ)」、成熟果実は「枳殻(きこく)」という生薬になります。
日本における陳皮の歴史
日本薬局方(国が定めた医薬品の公的な規格基準)では、陳皮は「ウンシュウミカンまたはマンダリンオレンジの成熟果皮」と定義されています。
陳皮の原料となるみかん類(マンダリンオレンジなど)は、奈良時代に中国から伝わりました。当時は食用としてではなく、薬用(陳皮)としての利用が主でした。
みかん類が食用として広く普及するようになったのは、紀州(現在の和歌山県)で温州みかんの栽培が盛んになったことがきっかけです。
温州みかんは江戸時代に薩摩(現在の鹿児島県)で自然交配によって偶然生まれたと言われています。種がほとんどないことから当時は「不吉」とされることもありましたが、手で簡単に皮がむけ、甘みも強いため、次第に人気が高まり全国に広がりました。
その後、陳皮にも温州みかんの果皮が使われるようになり、庶民の間でも家庭薬として親しまれるようになりました。
陳皮の選び方
これまでご紹介してきたように、「陳皮」は「橘皮(きっぴ)」を時間をかけて熟成させたものです。
中国では一般的に、熟成期間が1年未満のものを「橘皮」、1年以上熟成させたものを「陳皮」と呼びます。特に3年以上寝かせたものは「老陳皮(ろうちんぴ)」とされ、より薬効が高いとして重宝されます。中には10年以上熟成させた老陳皮が、非常に高値で取引されることもあります。
※ちなみに、未成熟果皮である「青皮(せいひ)」は、新しいものほど良いとされています。
以下は、あくまで筆者個人の感想です👇
🍊 橘皮
- 香りがフレッシュで、ややビターな印象
- お茶の香り付けにぴったり
- 粉末をヨーグルトに混ぜたり、塩と合わせて料理のスパイスにも◎
🍊 陳皮
- 香りが落ち着き、ほんのり甘く感じる
- 煮込み料理におすすめ
- アクセントというより“コク出し”に使うイメージ
陳皮の成分
陳皮の香りは、リモネンやテルピネンなどの精油成分です。
栄養素としては食物繊維を豊富に含むほか、ポリフェノールの一種であるヘスペリジンなども含んでいます。
🍊 リモネン
柑橘類の皮の表面にある「油胞(ゆほう)」に多く含まれる精油成分です。みかんの皮をむいたときに手につく、ベタベタした液体の主成分。皮をむいた時に広がるフレッシュな香りそのものです。
- リラックス作用(自律神経のバランスを整える)
- 整腸作用(腸の蠕動運動を促進)
- 抗菌・抗酸化作用
- 油脂をよく溶かす性質があるため、洗剤などにも利用されています
🍊 γ-テルピネン(ガンマ・テルピネン)
柑橘類やハーブ(タイム、ティーツリーなど)にも含まれる香り成分のひとつで、やや樹脂のような香りが特徴です。
- 抗酸化作用やリラックス効果があるとされ、一部では自律神経を整える可能性も示唆されています(ただしヒトでの明確な効果はまだ研究段階です)。
🍊 ヘスペリジン
柑橘類の皮やスジ(白い部分)に多く含まれる、フラボノイド系ポリフェノールの一種です。ビタミンP様物質とされ、特に温州みかんの陳皮に多く含まれます。
- 毛細血管を強化し、血流を改善
- 抗酸化・抗炎症作用
- 免疫機能の維持に寄与(風邪・インフルエンザ予防への効果が期待されるが、ヒトでの明確な証明は限定的)
私のおすすめ陳皮と使用方法
私は、しっかり熟成された「陳皮」よりも、フレッシュでややビターな風味が残る「橘皮」の方が好みです。おそらく、国産みかんの皮の多くは、1年未満の熟成である「橘皮」ではないかと思います。
陳皮は香りが命なので、開封後に風味が飛ばないよう小分けタイプで販売されているものを選ぶのがポイントです。
🍊 愛媛産みかんフレーク|ザクザク食感の万能トッピング
愛媛県産のみかんを独自技術で低温乾燥させた商品です。
熱に弱いビタミンCも壊れにくいため、みかん本来の味と香りがしっかり感じられます。
粉末タイプもありますが、おすすめはフレークタイプ!
ザクザクとした食感が楽しく、ドレッシングやカレー、はちみつトーストなど、さまざまな料理にトッピングできます。
おやつ感覚で使える、ちょっと特別な【ちょい足し薬膳】です。
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🍊 生薬専門店のみかん皮|お手頃価格で使いやすい
私がいちばんリピートしているのは、以前「朝鮮人参」の記事でもご紹介した
「漢方薬・生薬専門店 草漢堂」さんの国産みかん皮(※おそらく橘皮)です。
肝気が高ぶりやすい私の体質には、陳皮(または橘皮)は日々の養生に欠かせない食材。 形状も価格も手頃で、日常使いしやすいところが気に入っています。
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私の日常的な陳皮の使い方
陳皮白湯
毎朝の白湯に陳皮を1〜2つまみ。5分ほど蒸らしていただきます。


陳皮風呂
自律神経が乱れがちなときは、湯船に陳皮を入れて入ります。

陳皮の保存方法
陳皮は、みかんの皮を干しただけのシンプルな素材なので、家庭でも簡単に作ることができます。特に温州みかんの皮は薄くてむきやすく、陰干しでカラカラになるまでしっかり乾燥させれば、自家製陳皮(橘皮)の完成です。
陳皮を長持ちさせる3つのポイント
① 湿気を避ける
陳皮はしっかり乾燥させてから保存するのが基本。湿気を吸うとカビの原因になります。手作りする場合も、完全に乾燥させることが最重要ポイントです。
② 直射日光を避ける
直射日光にさらされると、香りが飛びやすくなり、色も変色しやすくなります。保存容器や保管場所は、光を遮る素材や場所を選びましょう。
③ 適温で保存する
高温環境では精油成分が揮発しやすく、低温すぎる場所では湿気がこもる可能性があります。最適な保存場所は「乾燥した冷暗所」です。
冷蔵庫や冷凍庫での保存も可能ですが、
- 出し入れによる温度差で結露が生じるとカビの原因になります。
- 密閉容器で保存しないと、他の食品の臭いが移ることがあります。
私の保存方法
私は、チャック付きのアルミ袋に入れて、直射日光を避けて常温で保存しています。 1回に購入する量は50g程度。約1ヶ月で使い切るようにしているので、最後まで香りが変わらず楽しめます。
陳皮の薬膳効能

陳皮には「気をめぐらせて胃腸の働きを良くする」作用があるとされています。
「三つ葉」や「玉ねぎ」などの記事で『気』は『血や津液』をめぐらせる働き(『推動作用』)があると解説しましたが、臓腑の働きを推進するのも、この『推動作用』によるものです。

『推動作用』は文字通り「推して・動かす」働きです。

「何を推して・動かすのか?」の答えが、①『血や津液』など自ら動くことができないもの ②臓腑や器官 ということだね!
胃の『気』が滞る(つまり『推動作用』が停滞する)と、以下のような不調が現れることがあります。
- 食欲不振
- 消化不良
- 胃のつかえ感
- 腹部の張りやげっぷ
陳皮は気をめぐらせてこれらの『気滞』による症状を緩和し、胃腸の働きを活発にすることで、消化を助け、食欲を促進するとされています。特に、ストレスなどで胃腸が弱っているときに用いられることが多いです。
ただし、陳皮には不溶性食物繊維も豊富に含まれているため、過剰に摂取するとかえって胃に負担をかけ、消化不良や嘔吐を引き起こすことがあります。
特に胃腸が弱っている方や、虚弱体質の方は、一度に大量に摂取せず、少量から様子を見るようにしましょう。
おすすめの薬膳書籍
薬膳を実践していると、よくぶつかるのが「書籍によって効能の記載が違う」という問題です。なぜそんなことが起こるのでしょうか?
それは、薬膳が人間の経験の積み重ねによって発展してきた学問だからです。最初にまとめられた『神農本草経』をはじめ、今日に至るまでのおよそ3,000年(説によっては4,000年)もの間、たくさんの人が薬膳を実践し、自分の身体で効果を感じ取り、解釈し、時には新たな薬膳書を書き記してきました。いわば、今私たちが目にする書籍たちは、中国3,000年の実戦データの集大成と言えます。
そのため、ある本では「寒性」とされている食材が、別の本で「温性」と書かれていたり、「平性」とされているものが実は熱を冷ます作用を持っていたりすることもあります。そんなときは、古代から伝わる複数の書籍を参照することで、その違いの根拠が見えてきます。
こちらの書籍『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』は、まさにそんな場面で頼れる一冊。
この本は、古典を含む複数の薬膳所に記載されている効能を一覧化しており、タイトルのとおり「食品群(穀類、野菜類など)」や「食材名」、「効能(解表、通便など)」から検索できる辞典です。収録されている食材は、なんと1,184種類!迷った時にすぐ調べることができ、薬膳を実践するなら手元に置いておきたい一冊です。
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