現在の福岡の気候
本日11月7日は立冬。七十二候では「山茶始開 (つばきはじめてひらく)」、ツバキ科の山茶花(さざんか)が咲き始める頃です。
福岡では10月後半、秋土用や霜降のあたりになってようやく秋の気配を感じられます。
11月初旬の現在は、ようやくちらほらと紅葉がはじまったところ。あちこちに金木犀の香りが漂い、低い陽射しがまぶしく、18時にはもう日が落ちて真っ暗になります。

一般的に、最低気温が8℃以下になると木々が色づき始めるといわれていますが、福岡では11月でも日中は20℃前後まで上がることが多く、市街地では紅葉しきれずに立ち枯れのようになってしまうことも。
とはいえ朝晩は10℃を下回る日もあり、寒暖差による疲労を感じやすい時期です。空気が乾燥して冷えを感じやすくなるため、初冬の養生では「寒暖差をなくすこと」と「乾燥から身を守ること」がポイントとなります。
初冬の養生
1️⃣寒暖差をなくす
人の身体は気温差が7℃を超えると自律神経のバランスが乱れやすくなり、いわゆる“寒暖差疲労”を感じるといわれています。とくに冷え性の人や加齢・運動不足によって筋肉量が落ちている人は影響を受けやすい傾向にあります。
本来、私たちの体には体温を一定に保つ「ホメオスタシス(恒常性)」という働きがあります。暑ければ汗をかいて体温を下げ、寒ければ血流を抑えて熱を逃さないように調整しています。
けれども昼と夜の温度差が大きいと、自律神経がそのたびに全力で働くため、エネルギーを余分に消費して疲労が蓄積してしまいます。
また自律神経のオーバーワークにより体のあちこちに不調が出やすくなります。どこに出るかは人それぞれですが、自律神経は全身に張り巡らされているため、一般的には自分の“弱い部分”に現れます。
からだのサイン
倦怠感(だるさ・疲れやすさ)/頭痛/めまい/吐き気/肩こり/手足の冷え(末端が冷えやすい)/食欲低下など
こころのサイン
イライラ・不安感/気分の落ち込み/睡眠障害(眠れない・途中で目が覚める・早朝に起きてしまう )など
放っておくと慢性的な自律神経の乱れや“冷え体質”につながるため、早めのケアが大切です。
目安として、前日より気温差が5℃以上あると影響を受けやすくなるといわれていますので、まずは天気予報をこまめにチェックして対策しておくと安心です。

太い血管が通る部位(とくに手首・足首・首の「3首」)を温めると、温まった血液が全身をめぐりやすくなります。手袋、厚手の靴下、マフラーやネックウォーマーなどを活用して、身体に寒暖差を感じさせない工夫をしましょう。
2️⃣乾燥から身を守る
これまでのブログでもたびたび登場している中医学のキーワードに、『六淫の邪気(風・寒・暑・湿・燥・火)』があります。これらは本来『六気』と呼ばれる自然界の正常な気候ですが、適応範囲を超えて人体に悪影響を及ぼすようになると『邪気』となります。
秋から冬にかけては、『燥邪』=乾燥への対策がポイントです。
『燥邪』には以下の特徴があります。
- 『温燥』と『涼燥』がある
『温燥』は秋のはじめの暑さを伴う乾燥、『涼燥』は秋の終わりから冬にかけての冷たさを伴う乾燥です。ここ数年は季節の進み方が不規則で、福岡では『温燥』を体感しにくいことが多くなりました。
- 『津液』を傷つける(潤いを消耗させる)
『津液』とは、身体の水分の総称です。潤いが失われ、皮膚や粘膜の乾燥を引き起こしやすくなります。
- 『肺』に影響を及ぼしやすい
これまでのブログ内でもご紹介してきましたが、臓腑にはそれぞれ苦手なもの(負担となる要因)があり、『肺』が苦手なものは「乾燥」です。
このため、「乾燥から身を守る=身体に潤いを与える」ことが、そのまま『肺』のケアにもつながります。
中医学の『肺』とは
『肺』には『主気(しゅき)』と『通調水道(つうちょうすいどう)』という働きがあるとされています。
主気
肺は五臓のなかで唯一、外気と直接触れ合う臓です。呼吸を通して外の気を取り込み、体内の気と交換しながら『気』のめぐりをコントロールします。そのため、「肺は気を司る」といわれています。
この働きが弱まると全身に『気』が行き渡らなくなり、だるさや息切れ、免疫力の低下などが起こりやすくなります。

あれ?『気』をめぐらせるのは『肝』の『疏泄(そせつ)』機能じゃなかった…?

『肺』は呼吸を通して外の気を取り込み、体内の気を入れ替えながら“気の循環”を管理しています。一方、『肝』は取り入れられた気が体内で滞らないよう、“気の流通”を管理しているんです。

なるほど。両者は補完関係にあるんだね。

その通り。『肺』が新鮮な気を送り出し、『肝』がその流れをスムーズに保つ。この連携で、私たちの気のバランスが保たれているんです。
通調水道
『通調水道』とは、『宣発(せんぱつ)』と『粛降(しゅくこう)』という二つの作用によって、『気』や『津液(しんえき)』を全身にめぐらせる働きのこと。この働きには、水分代謝の調整も含まれます。

宣発
『宣発』には大きく3つの働きがあります。
①津液や栄養を全身に散布・拡散させる働き
『脾から運化された水穀精微』は、『肺の宣発作用』によって全身に散布されます。この働きによって、体のすみずみまで潤いが行き渡ります。
②不要な津液を体外に排出する働き
西洋医学でいえば、皮膚や汗腺の働きに近いものです。汗だけでなく、呼気からも水分が放出されます。
③衛気をめぐらせる働き
『気』にはいくつかの種類がありますが、『衛気(えき)』は外からの『邪気』を防ぐバリアのような存在です。西洋医学でいう免疫機能や抵抗力に近く、体表を守って病邪の侵入を防ぐ役割を担っています。
粛降
『粛降』は、気や津液を内側・下方へと降ろし、『腎』や『膀胱』に送る作用です。
『宣発』によって全身に散布された津液は、通路を清めながら下へと送られ、『腎』に蓄えられます。『腎』にためられた津液は再び『肺』へ送られて再利用されたり、『膀胱』へ送られて尿として排出されます。このようにして全身の水分量を調整しているのが、『肺』の『通調水道』の働きです。水分量が少ないと『津液不足』となり喉の渇きや皮膚の乾燥、多すぎるとむくみなどが生じやすくなります。

『肺』は“水をめぐらせる”役割で、『腎』は“水を貯蔵して必要に応じて排出する”役割、ってことだね?

そう。両者が協調することで体内の水分バランスが保たれています。
『肺』と乾燥
中医学では「肺喜潤・肺悪燥」といわれ、五臓のなかでも『肺』はとくに乾燥を嫌います。
『肺』の乾燥には、体外的な要因(空気の乾燥)だけでなく体内的な要因もあります。夏〜秋にかけて汗をかきすぎたり、食欲不振や睡眠不足による『血虚』をそのままにしておくと、『陰虚』に傾きやすくなるため注意が必要です(詳しくは「夏の薬膳」をご参照ください)。
また辛いものが好きな人、エアコンをよく使う人も『津液』不足になりがちです。
『肺』が乾燥する状態は『燥邪犯肺(そうじゃはんはい)』と呼ばれ、次のような症状があらわれやすくなります。
- 空(から)咳:痰が絡まない、もしくは少量で吐き出しにくい咳
- しゃがれ声
- 口、鼻、喉の乾燥
- 皮膚の乾燥、髪のパサつき
- 乾燥性の便秘
- 体表の乾燥により外邪が侵入しやすくなる(抵抗力の低下)

鼻や喉の粘膜が乾燥すると『病邪』が侵入しやすくなるね。

そうそう。まずは「百病の長」と呼ばれる『風邪(ふうじゃ)』が特攻隊長となって侵入してくるよ。
さらに乾燥が進み『肺陰虚』になると、上記に加えて次のような症状があらわれます。
『燥邪犯肺』の症状に加えて…
- ほてり・のぼせ感
- 手のひらや足の裏のほてり
- 寝汗
- 不眠
- イライラ

『陰虚』で身体がほてるのは、カラカラに乾いた場所で火事が起こりやすくなるのと同じイメージです。

なるほど。身体の潤いが足りないと、熱を冷ます力が弱まって、ほてりや寝汗が出やすくなるんだね。
初冬の薬膳のおすすめ食材
『肺』を潤す食材
🥛豆腐、豆乳
🥣牛乳、ヨーグルト
🫘棗(なつめ)
🍄白キクラゲ
🥔れんこん(生)
🍑杏、いちじく、梅、かりん、梨、みかん、ライチ、りんご、レモン
👆️これらの食材は、体の中からうるおいを補い、喉の渇きや皮膚の乾燥をやわらげてくれます。
『生津』作用をもつ食材は夏に出回るものが多い印象。きゅうりやメロンなどのウリ類にも同じ働きがありますが、身体を冷やす力が強いのでこれからの季節はなるべく控えめに。
梨は冷えが気になる方は加熱で、陰虚によるほてりが出ている方は生でもOKです。
🥛豆腐、牛乳、ヨーグルト、チーズ
🫘枸杞、ごま(とくに黒)、大豆、黒豆、松の実
🍄白キクラゲ、黒キクラゲ、エリンギ
🥬かぶ、にんじん、ほうれん草、山芋
🍐梨
🦑いか、カキ、ホタテ、なまこ、すっぽん、鰤、鮭
🐷豚肉、たまご
🍯氷砂糖、水あめ
👆️これらは陰液を養い(滋陰)・乾きを潤す(潤燥)働きがあるとされ、乾燥が深刻化した『陰虚』の症状を改善に導く食材たちです。
加齢による肌の潤い不足には、単なる潤い食材だけでなく『血や精』を養う食材(黒ごま・黒豆・牡蠣・すっぽん・豚肉・卵 など)を。
乳製品や甘味(氷砂糖など)、果物は人によっては『内湿』の元となります。量と頻度を控えめに、自分のからだの反応を見ながら摂り入れてください。
🫘アーモンド、銀杏、松の実、落花生
🌿枸杞、杏仁
🍄白キクラゲ、エリンギ
🥔れんこん(生)、百合根、山芋
🍑杏、いちじく、梅、柿、干し柿、かりん、かぼす、すだち、梨、みかん、りんご、ぶどう
🐟しらす
🍯はちみつ、氷砂糖、水あめ
👆️口や喉の乾燥、空咳、声のかすれが気になるときは『潤肺』の食材がおすすめです。
しらすはイワシやイカナゴ、ニシンなど体色の薄い稚魚の総称です。水分量により、釜揚げしらす(約80%)としらす干し(50〜60%)に分けられます。しらすは消化にやさしく『肺』の潤い補給に向くとされ、成魚のイワシは血を養う力にすぐれると考えられています。『潤肺』目的で取り入れるときは、塩分の低い“釜揚げ”を少量から。豆腐やたまごと組み合わせると、より潤い効果が期待できます。
身体を温める食材
寒暖差による不調を改善するためには、「温める食材を足す」よりも「冷やす食材を控える」ほうが効果的とされます。涼性・寒性の食材は、たとえ温かい状態で食べても、続けて摂ることで身体が「寒」に傾いていきます。すでに不調が出ている方は、症状が落ち着くまで一度控えて様子を見るのも一案です。
温める食材を足す場合、薬味やスパイス類(辛味・芳香性)は『津液』を発散しやすいため、頻度は控えめに。
以下は潤いを損なうことなく体を温めるとされている食材たちです(体質に合わせて様子を見ながら加減してください)。
🥛甘酒
🥜くるみ
🎃かぼちゃ、よもぎ
🐟えび、鮭、にしん
🥩鶏肉、羊肉
🍲味噌
🧂黒砂糖
秋〜初冬にかけては節制を心がけて
自然界の『湿』が落ち着いて脾胃が働きやすくなり、「食欲の秋」を感じやすい時期ですが、中医学では、秋は“収斂(しゅうれん=引き締めること)”の季節。節制が養生の基本で、食べ過ぎるのはNGとされます。
「早春の薬膳」で『整体観念』について触れましたが、人間も自然の一部だとすれば、晩秋〜冬はエネルギーを内に収める時期。ここで摂り過ぎた分は、そのまま蓄えに傾きやすいと考えられます。春になればまた活動が高まりやすくなりますので、今からの時期は腹八分目+寒暖差ケア×潤いを意識して、静かに冬へ備えるのが良さそうです。
おすすめの薬膳書籍
薬膳を実践していると、よくぶつかるのが「書籍によって効能の記載が違う」という問題です。なぜそんなことが起こるのでしょうか?
それは、薬膳が人間の経験の積み重ねによって発展してきた学問だからです。最初にまとめられた『神農本草経』をはじめ、今日に至るまでのおよそ3,000年(説によっては4,000年)もの間、たくさんの人が薬膳を実践し、自分の身体で効果を感じ取り、解釈し、時には新たな薬膳書を書き記してきました。いわば、今私たちが目にする書籍たちは、中国3,000年の実戦データの集大成と言えます。
そのため、ある本では「寒性」とされている食材が、別の本で「温性」と書かれていたり、「平性」とされているものが実は熱を冷ます作用を持っていたりすることもあります。そんなときは、古代から伝わる複数の書籍を参照することで、その違いの根拠が見えてきます。
こちらの書籍『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』は、まさにそんな場面で頼れる一冊。
この本は、古典を含む複数の薬膳所に記載されている効能を一覧化しており、タイトルのとおり「食品群(穀類、野菜類など)」や「食材名」、「効能(解表、通便など)」から検索できる辞典です。収録されている食材は、なんと1,184種類!迷った時にすぐ調べることができ、薬膳を実践するなら手元に置いておきたい一冊です。



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