このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2026年2月4日(立春)〜3月20日(春分)の期間を『早春の薬膳』として、冬・早春・春におすすめの食材をご案内しています。
ふきの雑学
新春(立春〜啓蟄)の季語である「下萌(したもえ)」は、雪の下から芽生えようとする草木の若芽を指します。この時期になると、「下萌」の名を冠した白と緑の和菓子をよく見かけます。雪のなかで冬を越し、雪解けとともに顔をのぞかせる植物というと、私はまっさきにふきのとうを思い浮かべます。

ふきの成長過程
ふきのとうは日本原産のキク科の多年草で、ふきの花芽にあたる部分です。春いちばんに地上へ顔を出し、やがて30〜80cmほどの高さにまで成長します。雄株は花を咲かせたあと早々に枯れてしまいますが、雌株は綿毛をもつ種を風に乗せて飛ばします。

ふきのとうより少し遅れ、4〜6月頃になると地下茎の先から葉柄が伸び、丸く大きな葉を広げます。食卓でよく見る「ふきの煮たの」は、この葉柄を調理したものです。
流通の多くを占めるのは、愛知県知多半島で栽培される「愛知早生(あいちわせ)」。明治時代から栽培される伝統野菜で、秋から春にかけて出荷されます。

ふきの旬は春〜初夏ですが、愛知早生は夏に冷凍保存した根株を8月頃に植え付けることで、植物に”春がきた”と勘違いさせる促成栽培が行われています。

だから旬ではない秋〜春の収穫が可能になるんだね。
つわぶき
ふきによく似た植物に「つわぶき」がありますが、こちらは冬でも枯れず、一年を通して緑の葉を保つ常緑植物である点が大きな違いです。観賞用としても人気があるらしく、街なかのいたるところに植えられており(福岡だけ?)、秋になると菊に似た黄色い花を咲かせます。
強い苦味をもつため「ふきの煮たの」のような薄い味付けには向かず、もっぱら佃煮の「きゃらぶき」として親しまれています。

きゃらぶきの「伽羅」とは黄色みを帯びた褐色のこと。キャラメルと同じく「カラメル」に由来するといわれています。

ふきのとうのレシピ
ふきのとう、菜の花、つくし、タラの芽etc…。居酒屋で山菜の天ぷらが楽しめるのはだいたい1月中旬から長くても3月いっぱいくらいまで。この時期になると、わが家は自然と外食が増えます。ほろ苦い山菜は日本酒によく合いますね。梅が咲き桜が咲き、あちこちの蔵から新酒が出され、酒飲みにとってこれほど楽しい季節はないように思えます。

先日よく利用する糸島直売所でふきのとうが3個180円で販売されていました。天ぷらは外で食べた方がおいしいので、家では毎年ふき味噌を作ります。

ふき味噌

① つぼみを半分に切り、熱湯でさっと茹でこぼして冷水にとり、冷まします。
② 水気をしっかり絞り、 粗めのみじん切りにします。
③鍋にごま油を敷き、弱火で炒めます。
④ 味噌80gに対して酒・みりん・砂糖大2を合わせて混ぜ、③に加えて汁気がなくなるまで炒り付けます。
ふき味噌は冷蔵保存で長く楽しめますが、五十嵐大介さん著「リトル・フォレスト(1巻)」にも描かれているように、美味しいのですぐに食べきってしまいます。いちばん合うのは炊きたての白いごはんですが、意外と相性が良いのが乳製品。たまに目先を変えてクリームパスタやスープに使用します。

款冬(かんとう)と蜂斗菜(ほうとさい)
ふきやふきのとうの代表的な薬膳効能のひとつとして『止咳(しがい)』、つまり咳を鎮める作用が挙げられますが、これは「款冬(かんとう:フキタンポポ)」の知識が混同された結果である可能性が高いと思われます。
フキタンポポとは中国原産のキク科の植物で、中国最古の薬学書『神農本草経』にも登場する伝統的な生薬です。古くから呼吸器症状をやわらげる作用が知られており、西欧でも古代ギリシャやローマ時代から咳止めの薬として用いられていました。現代の研究でも、粘膜を保護する粘液質や抗炎症成分が確認されています。

中国の本草学が日本に取り入れられる過程で、「春に出る、見た目のよく似た苦味のある花芽」であるふきのとうと結びつけて理解され、「款冬=ふき・ふきのとう」と誤って認識されるようになったと考えられます。
ちなみにふき・ふきのとうは日本を含む東アジアに分布する植物で、中国では「蜂斗菜(ほうとさい)」と呼ばれ、生薬というよりは食材として扱われています。
ふき・ふきのとうの薬膳効能

ふき・ふきのとうには「苦味で余分なものを排泄し、辛味と独特の香りでめぐりを整える」作用があるとされています。
ふき・ふきのとうに咳止めの作用はある?
ふき・ふきのとうの苦味成分であるポリフェノールには、抗酸化作用や抗炎症作用をもつフキノール類が含まれています。またフラボノイドの一種であるケンフェロールには、抗炎症作用や抗アレルギー作用が知られており、これらの成分によって気道の炎症がやわらぐ可能性は考えられます。
ただし、フキタンポポに含まれるような喉の粘膜を保護する粘液質は主成分として確認されておらず、医学的に「咳止め」としての作用が確立しているわけではありません。
とはいえ、ふき・ふきのとうを食べることで呼吸器の違和感が軽くなったと感じた人々が多かったのも事実です。そのような経験的知識が民間療法として語り継がれるうちに、「款冬」との混同が重なり、やがて『止咳』という効能として伝えられるようになったのかもしれません。
なぜ咳に良いとされる?
中医学では、立春から春にかけての今頃はちょうど芽吹きの季節にあたります。芽吹きとは、言い換えれば”上昇する気の流れ”です。
こちらの記事でご紹介したように、気の流れをつかさどるのは『肝』の『疏泄(そせつ)』作用によるものです。この機能が低下すると気のめぐりが滞って『気滞(肝気鬱結)』となったり、逆に過剰に働くと『肝陽上亢』の状態となって、気が上に昇りすぎてしまいます。
中医学では「人体はすべてつながっている」と考えるため、ひとつの臓腑が不調になると、ほかの臓腑にも影響が及びます。『肝』の働きが乱れると、とくに影響を受けやすいのが『肺』と『脾胃』。春先に長く続く咳は、上昇しすぎた『肝気』によって、『肺』のもつ『粛降(気を下ろす作用)』作用がうまく働かなくなっているサインかもしれません。
日本には古くから「春の皿には苦味を盛れ」という言葉があります。薬膳でも、苦味には余分なものを外へ出し、気を降ろす作用があるとされています。
ふき・ふきのとうは咳そのものを直接止めるというよりも、苦味によって冬の間に溜め込んだものをゆるやかに排泄し、辛味と独特の香りでめぐりを整えることで、春に昂りやすい気を穏やかにし、結果として身体全体のバランスを整える食材といえるでしょう。冬から春へ、身体を目覚めさせてくれる山菜ですね。
温性?寒性?
ふき・ふきのとうの食性については、身体を温める「温性」とする説と、冷やす「寒性」とする説があり、文献によって記述が分かれています。これは古典に統一された記載が存在しないためです。ふき類は本草学において主要な薬材として体系化された植物ではなく、後世の経験的解釈によって食性が分類されてきました。

地域で食べられていた”経験”が蓄積され、のちに本草理論で性味が割り当てられたパターンだね。

理論より生活が先だったってことね。
一般に、苦味を持つ食材には『清熱作用』をもつものが多いとされます。しかし、ふき・ふきのとうは抗酸化作用をもつ成分が豊富に含まれ、血のめぐりが良くなることで身体が温かく感じられる場合もあります。
薬膳は人々の経験の積み重ねの上に成り立つ学問です。現代に至るまで見解が統一されていないということは、「苦味による清熱」と「めぐりの改善による体温の上昇」という両方の側面があり、その感じ方が人それぞれ異なるということなのかもしれません。
ちなみに「めぐり」を意識するなら、ふきの葉もおすすめです。強い抗酸化作用をもつポリフェノールなどのファイトケミカルを豊富に含みます。熱湯で1分ほど茹でてから冷水に1〜2時間さらし、塩をまぶして2〜3日おくと、よいごはんのお供になります。
なお、ふき・ふきのとうには微量の ピロリジジンアルカロイド が含まれており、肝毒性の可能性が指摘されています。そもそも大量に食べるものではありませんが、体調に合わせて適量を楽しむのがおすすめです。
おすすめの薬膳書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。

先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版

コメント