蓮の花の雑学
福岡市内で蓮の花鑑賞
福岡市では、舞鶴公園(福岡城跡)周辺のお堀で、毎年7月下旬〜8月頃に蓮の花を鑑賞することができます。規模は大きくないものの、都会の中で蓮の咲く静けさや、非日常的な雰囲気を味わえるおすすめの散歩コースです。
※画像は7月末:午前7時半頃の様子です。


蓮の花を楽しむなら午前中(7〜9時頃)がおすすめです。蓮は日の出とともにゆっくりと花を開き始め、8〜9時頃に満開を迎えます。その後はまたゆっくりとしぼみ、蕾のような姿へと戻ります。それを3〜4日間繰り返したのち、花びらが散って花托だけの姿になります。
開花時に音が鳴る?
ちなみに、蓮の花は開花時に「ポンッ」と音が鳴ると言われることがあります。
この開花音の有無については、古くから人々の間で論議されてきましたが、1935年、大賀一郎博士の観察により「音を立てない」ことが実証されました。
とはいえ、「開花音を聞けば悟りが開ける」「成仏できる」といった言い伝えもあり、人々の「聞いてみたい!」という願望が「蓮は音を立てて咲く」というロマンを生んだのかもしれません。
蓮の品種は100種類を超えるとも言われています。もしかすると、なかには「音を立てて咲く蓮」もあるのかも…。と、曖昧なままにしておいた方が、ロマンチックな気がします。
蓮と睡蓮の違い
蓮によく似た植物に睡蓮がありますが、蓮はハス科ハス属の植物、睡蓮はスイレン科スイレン属の植物であり、まったく異なる分類に属しています。

蓮の実の雑学
蓮の実の成り方
蓮の花が開くと、中央に緑色の「花托(かたく)」があります。

この花托には、穴ひとつひとつに「子房(しぼう)」が存在しており、受精によって子房が成熟すると「果実(蓮の実)」になります。花托は花弁(花びら)が落ちたあと「果托」と呼ばれるようになり、次第に肥大していきます。開花からおよそ3週間ほどで、実が収穫できる大きさまで成長します。
次の画像は、実の成長過程を示したものです。
果托の見た目はよく「トライポフォビア(集合体恐怖症)」の例として挙げられます。穴が不規則かつ密集して開き、そのひとつひとつに種子(蓮の実)が目玉のように埋まっている様子は、確かに人によってはゾッとするビジュアルかもしれません。
※集合体の画像が苦手な方は、上の目次から次の項へスキップしてください。

蓮の実の産地
未熟な緑色の実は、生のままでも食べることができます。中国・ベトナム・タイ・インドなど、アジア各地では古くから軽食やおやつとして親しまれており、現在でもスナック感覚でよく食べられているそうです。
花托から青々とした実を取り出し、薄い皮を剥くと、なかから白い実が現れます。さらにその実を二つに割ると、中心に鮮やかな黄緑色の芽(胚芽)が入っており、これを取り除いてから食べます。
私はまだ食べたことがありませんが、この白い実はシャキシャキした食感とほんのりとした甘さがあり、とても美味しいのだそうです。
実は成熟が進むと黒っぽく硬くなり、乾燥させて保存食に加工されるのが一般的です。
日本では、主にこの乾燥タイプの蓮の実が流通しており、未熟な実をそのまま食べる文化や流通はほとんどありません。
というのも、未熟な実が収穫できる期間はごくわずかであり、果托を摘み取る際に地下の蓮根(れんこん)を傷つけてしまう可能性があるためです。
蓮根栽培が盛んな日本では、実の収穫はあまり行われておらず、国内で蓮の実を生産している地域は限られています。徳島県(鳴門市周辺)や愛知県(愛西市など)で一部栽培されていますが、主に業務用・研究用に限定されることが多いです。
おすすめの蓮の実
私のおすすめは、愛知県を拠点に展開する漢方薬局グループ「草漢堂」さんの蓮の実です。
このブログでも何度もご紹介していますが、生薬を購入するときは、ほとんどこちらを利用しています。
「草漢堂」さんは公式オンラインショップのほか、楽天市場やYahoo!ショッピングでも購入可能。店舗での対面相談に加え、LINE・電話・Zoomによるオンライン相談にも対応しており、初めての方にも安心です。
「草漢堂」さんで取り扱っているのは、中国福建省:建寧県の伝統的な特産品である「建寧蓮(けんねいれん)」。世界最大級の「棚田蓮池」で知られる地域です。高山に囲まれた広大な棚田に朝日が昇り、少しずつ蓮の花が開いていく様子はとても美しいのだとか。
この「建寧蓮」は、
✔️ 粒が大きく(約1.5cm)
✔️ 形がそろっていて白く美しい
という特徴をもち、えぐみや苦味が少なく、ホクホクした食感とほのかな甘味が魅力です。
日本向けにも高級食材として安定的に流通しています。
私は蓮の実が大好きなので、200g入りを購入しても1ヶ月もたないのですが、初めての方は30g入りがおすすめです。少量から、ぜひお試しください。
楽天市場とYahoo!ショッピングで購入できるリンクを貼っておきますので、ぜひ一度お試しください!
蓮の実の下処理
乾燥加工された蓮の実は、そのままでは食べられません。やわらかく戻すために、以下のような下処理が必要です。
①軽く洗う
②一晩水に浸ける
③茹でこぼす(アク取り)
④15分ほど茹でる
②の「水に浸ける」工程を省略する場合は、④の茹で時間を延ばしてください(30分くらい)。
なお、「草漢堂」さんの蓮の実はエグ味が少ないため、私は③も省略しています。
また、実の中心に「蓮心(れんしん)」が入っている場合は④の茹でた後で取り除きますが、これまで私が購入した「草漢堂」さんの蓮の実で「蓮心」入りに当たったことはありません(きれいに処理済みのようです)。
食感と薬膳的な観点から
茹で時間はあくまで目安です。シャキシャキした食感が好きな方も多いですが、薬膳的にはホクホクとしたやわらかさのほうが消化吸収がよく、薬効も得やすいとされています。
薬膳での使い方
薬膳では、下処理した蓮の実を甘いシロップに浸けデザートスープとして食べるレシピが人気です。私は甘くするのがあまり好みではないため、スープやおかゆに加えることが多いです。
眠りを誘う薬膳レシピ①:蓮の実のおかゆ
蓮の実には、夏場に高ぶりがちな『心』を落ち着かせ、安眠へと導く作用があるとされています。
夜ごはんをおかゆにすることで、満腹感を得ながらも胃腸への負担が少なくなり、寝入りが良くなるだけでなく翌朝の目覚めもスッキリすると言われています。また、蓮の実は温かい状態で食べることで、より効果を得やすいとされています。

① 蓮の実10粒を軽く洗い、500mlの水に8時間以上浸けます。
② 米50gを軽く洗い、鍋に入れます。
③ ①をすべて入れ、強火にかけます。
④ 沸騰したら弱火にし、鍋底からやさしく米をはがすように混ぜます。
⑤ 少しずらして蓋をし、30分煮ます。
※煮詰まると焦げやすくなるため、慣れるまではときどき様子を見るのがおすすめです。
⑥ 好みのとろみになったら火を止め、蓋をして5分蒸らします。
お好みで塩をひとつまみ加えるのも良いですが、私は「ごはんのおとも」をいろいろ準備して、味変しながら食べるのが好きです。

眠りを誘う薬膳レシピ②:蓮の実茶
お茶としていただくときは、蓮の実だけだと味気ないため相性の良い菊花や枸杞子(クコの実)をブレンド。目や神経の疲れを癒し、心を穏やかに整えるレシピです。

① 蓮の実2粒を軽く洗い、500mlの水に8時間以上浸けます。
② ①をすべて鍋に入れ、中火で15分ほど茹でます。
③ 耐熱グラスに菊花と枸杞子を入れ、②を茶こしで注ぎ入れます。
④ 5分ほど蒸らし、菊花を取り出したら完成です。
蓮子(蓮の実)の薬膳効能
蓮子(れんし=蓮の実)には「下痢止めする作用」や「安眠をもたらす作用」があるとされています。
蓮の実は、生薬では「蓮子(れんし)」とよばれ、『収渋薬(しゅうじゅうやく)』に分類されます。
蓮子の薬性は「甘味」と「渋味」。
甘味には主に「補う」作用があり、蓮子は『脾気』を補い、『腎精』を養うとされています。
いわゆる「精が強い」食材なので、食べ過ぎるとお腹を壊すことも。少量から始めて、慣れても1日に10粒程度を目安に取り入れるのがおすすめです。
私自身は、7〜9月の期間、週2〜3日のペースで1日10粒の蓮の実を食生活に取り入れています。
「渋味」には『収渋』という作用があります。これは”漏れ出るものを引き締めて引き締めて止める”という働きで、下痢、不正出血、失禁、遺精(精液の漏れ)、帯下(過剰なおりもの)といった症状を防ぐと考えられています。
『気』の働きのひとつに『固摂(こせつ)』という作用があり、これは”必要な体液を体内に留め、調節する”働きなのですが、『気』が不足して『気虚』になると『固摂』が弱まり、「漏れ」の症状が現れやすくなります。
『脾気虚』となると→下痢や不正出血など
『腎気虚』となると→失禁、遺精、帯下など
こうした症状のときには『収渋』作用を持つ食材で「引き締める」ことが薬膳の基本的な考え方になります。

逆に、収渋薬は便秘の方には不向き。便が出にくくなる可能性があります。
また、蓮子には『心』を落ち着かせて安眠をもたらす作用もあるとされています。この効果は、蓮子よりも中の胚芽部分「蓮心(れんしん)」のほうがより強いと言われています。
「蓮心」を取り出して乾燥させたものは、古くから「蓮心茶」として親しまれてきました。生薬では『清熱瀉火薬(せいねつしゃかやく)』に分類され、『心火(しんか=精神的な興奮や熱っぽさ)』を静めて精神を安定させる作用があるとされます。
「目を閉じても頭が冴えて寝付けない」という夜(交感神経が優位な状態)に自然な眠りを促してくれるため、夏にぴったりのお茶です(詳しくは「夏の薬膳」をご参照ください)。
…が、すっごく苦いです(笑)。
私自身、体質的には蓮心茶が合っていると分かっているものの、どうしても美味しいと思えず、昔何度か試したきり。今では効果が穏やかな蓮子の方をコツコツと食べるスタイルに落ち着いています。
はちみつや氷砂糖を加えて苦味を和らげるレシピもありますので、苦味が得意な方や、よりしっかりと安眠作用を得たい方は、一度試してみても良いかもしれません。
おすすめの薬膳書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。

先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版
コメント