このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2025年11月7日(立冬)〜12月22日(冬至)の期間を『初冬の薬膳』としてご案内しています。
大豆の歴史
中国史
大豆の原産地は中国北部とされてきましたが、遺跡の分布が広いことから、中国東北部〜朝鮮半島〜シベリア南部まで含む、より広い地域一帯を起源とする見方もあります。

周の時代(紀元前11世紀頃)にはすでに広く栽培されていましたが、中医学(生薬学)では古くから黒大豆が主に用いられ、大豆(黄豆)の働きが体系的に整理されたのは16世紀の『本草綱目』以降。ここで示された「健脾利水(脾胃の働きを整え、水代謝を促す)」「通便(排便をスムーズにする)」といった作用が、現代の中医学・薬膳における大豆の基本的な位置づけにつながっています。
日本史
日本では縄文時代に中国から朝鮮半島を経て大豆が伝わり、弥生時代に栽培が本格化したと考えられています。当初は煮豆や炒り豆など大豆そのものを食べる形が中心でしたが、飛鳥・奈良時代に仏教が伝わると肉食を避ける風潮が強まり、大豆加工が発展していきました。
とくに日本では「殺生を避ける」という教えに「血=穢れ」とする神道の考え方も重なり、僧侶だけでなく一般の人々の間にも肉食忌避が広がったそうです。その結果、大豆は貴重なタンパク質源として重宝されるようになりました。

大豆農業が抱える課題
食料自給率
日本人の食生活は、大豆なしには語れません。味噌・醤油・豆腐・納豆など、気づけば一日のあちこちで大豆を口にしています。ところが、その大豆のほとんどは外国頼み。大豆の食料自給率は全体の約6%で、残りの約94%はアメリカやブラジルからの輸入に支えられています。
「せめて食べる分だけでも国産に」と油糧用や飼料用を除いた食用大豆だけで見ても、自給率は約20〜30%程度。食用分を国産で賄うことすら難しいのが現状です。

日本の大豆生産は、小規模な「個々の農家による栽培」に支えられています。広大な農地で機械化された農業を行うアメリカなどと比べると、生産コストは約5〜10倍にまで跳ね上がると言われています。加えて、生産者の高齢化や栽培面積の減少も進んでおり、今後も自給率の低下が続く可能性が高いと考えられています。
さらに健康志向やヴィーガン人口の増加により、世界的にも大豆の人気は右肩上がり。日本が頼りにしている輸入大豆も、今後ますます値上がりしたり、欲しいタイミングで手に入りにくくなったりすることが予想されます。
遺伝子組み換え(GMO)技術
世界では多くの大豆がGMO(遺伝子組み換え)作物として栽培されており、主要生産国では大豆の約7割以上がGMO品種という報告もあります。

日本でGMO大豆にネガティブな印象が強いのは、長期的な健康リスクが完全には解明されていないことが大きいと感じています。
大豆に限らず、じゃがいもやとうもろこしなどのGMO作物には、除草剤耐性や害虫抵抗性といった「自然界にはない性質」が遺伝子操作によって付与されています。「除草剤をまいても枯れない植物」「虫が食べたら死んでしまう植物」──。
科学的には一定の安全性が確認されているものの、「本当に食べて大丈夫なの?」と不安になるのは、ごく自然な感覚だと思います。
一方で、GMO技術には明確なメリットもあります。たとえば、収穫量が上がり栽培効率が良くなれば、世界的な食糧不足の緩和につながります。さらに、効率よく収穫できるようになれば新たな農地を開く必要も減り、農地拡大や森林伐採の抑制といった可能性も高まります。
現状、多くの国でGMO大豆の生産が続けられているのは、健康リスクへの懸念よりも、こうしたメリットのほうが重視されているからだと思われます。
おすすめの国産大豆
日本に輸入される大豆の多くは家畜の飼料用や加工用に回っており、食品として販売する場合にはその原材料が「遺伝子組換え」かどうかを表示する決まりがあります。
その点、日本で栽培されている大豆はすべて”非GMO品種”です。国産の大豆は、基本的に「遺伝子組み換えでない」と考えてよい、ということになります。
私は普段から「美味しくて予算の範囲内であれば、添加物や農薬はなるべく少ないものを選びたい」というスタンスなので、大豆製品についても自分で選択できる範囲であれば国産を選びたいと思っています。安心感のためでもありますが、日本の生産者さんを少しでも応援したい、という気持ちのほうが大きいかもしれません。
とはいえ、大豆そのものを食べる習慣があるわけではありません。年齢や体質的に黒大豆を選ぶことが多く、過去の「黒大豆」の記事でもご紹介したように、黒大豆を圧力鍋で茹でて小分け冷凍しておき、常にストックを切らさないようにしています。

【豆・雑穀の専門店すずや】北海道産黒大豆・大豆
【豆・雑穀の専門店すずや】さんは、40種類以上の豆と20種類以上の雑穀を取り扱う日本有数の穀物専門店です。スーパーではなかなか手に入らない珍しい豆や雑穀まで豊富にそろっていて、見ているだけでも勉強になります。3,980円以上の購入で送料無料になるのもうれしいポイント。品質に差が出やすい緑豆のような豆類でも状態がとても良く、信頼しているお店です。
お正月が近いため、令和7年産の黒大豆は売り切れ続出。あわてて在庫を確保しました。大豆も黒大豆と同様、北海道産のものが人気のようです。
【中山大吉商店】熊本県産大豆、煎り大豆
【中山大吉商店】さんは熊本県玉名市で百年以上、味噌と麹を作り続けてきた老舗です。大豆そのものを購入したことはないのですが、味噌がとても美味しいため、原料となる大豆もきっと良質なのだろうと感じています。
大豆の品種としておすすめしたいのが「フクユタカ」。次回の「豆乳」記事で詳しくご紹介する予定ですが、この大豆から作られた豆乳はどれも本当に美味しいんです!
そして、こちらのお店でぜひ一緒にチェックしてほしいのが「煎り豆」。収穫した大豆を乾燥させたあと、直火や機械で炒り上げて水分を飛ばし、そのままポリポリ食べられるように仕上げたものです。スーパーでは節分の時期にしか見かけませんが、わが家では一年中ストックしています。おつまみやおやつにはもちろん、スープに入れると大豆の出汁がじんわり出てとても滋味深い味わいになります。
【レシピ】大豆の茹で方と活用方法
高山なおみさん著『日々ごはん(3)』に、料理アシスタントの方が「大豆の茹で汁でスープを作ってくれた」という描写があり、ずっと気になっていました。のちに発売されたレシピ本『今日のおかず 季節も食べる!
』で「ゆで汁のポタージュ」としてきちんとレシピ化されているのを見つけて、すぐに作ってみた一品です。
もとのレシピは大豆の茹で汁を牛乳でのばし、味噌を溶いて黒胡椒をふるというシンプルなもの。『今日のおかず 季節も食べる!』では茹で大豆とバターが加わり、よりポタージュ寄りのスープになっていました。詳しい分量などは、ぜひ本のレシピを参考にしてみてください。

高山さんも『日々ごはん(3)』のなかで書かれていましたが、大豆の茹で汁は本当に美味しいんです。豆からこんなに美味しい出汁が出ることが分かったので、ふと節分の残りの煎り豆をスープに入れてみたところ、これが大ヒット。茹で大豆で作るスープにはやさしいミルク系がありますが、煎り大豆で作るスープは香ばしさが加わるため、トマトスープやコンソメ系のような少しはっきりした味つけと相性がいいように感じています。

大豆の薬膳効能

大豆には「脾気を補い、腸内環境を整える」作用があるとされています。
「初冬の薬膳」で豆乳や湯葉を、「真冬の薬膳」で味噌や納豆を取り上げる前に、まずは“大豆そのものの性質”を押さえておきたいと思い、このセクションを先に入れました。
ざっくり言うと、大豆の主な働きはこのあたりです。
- 脾気を補い、疲れにくい強い身体をつくる
- ほどよく乾燥を潤す
- 便通をととのえる
タンパク質や脂質を多く含む大豆は、それ自体に「身体を養い、潤す」要素を持っていますが、加工の仕方によって性質の出方が少しずつ変わっていくのが面白いところです。
大豆そのものを食べるときは、いわば“コロコロ固形の補気食材”。ここから浸水して水を含み、すりつぶして中の成分が水に溶け出すことによって、どんどん“サラサラ液体の潤い飲料”に近づいていきます。
どの段階でも大豆本来の
- 「補気(気を補って元気をつける)」
- 「潤燥(乾きすぎたところをほどよく潤す)」
という性質は共通していますが、
- 固形に近いと「補気」の要素
- 液体に近いと「潤い」の要素
というふうに、比重が少しずつ変わっていくイメージで捉えています。
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生の大豆は、そのままでは『脾』を補うどころか、ほかの栄養素の吸収を邪魔してしまう成分を含んでいます。タンパク質の消化を妨げる「トリプシン阻害物質」や胃腸に刺激を与える「レクチン」、カルシウムや鉄分などミネラルの吸収を阻害する「フィチン酸」など。そのため大豆を食べるときは長時間水に浸して戻したうえで、十分に加熱してから食べることが大切です。これらの成分はいずれも、そのような下ごしらえによって大幅に減らすことができるとされています。
「黒大豆」の記事でも書きましたが、私は戻し汁ごと加熱し、茹で汁もすべていただく派です。ただし、お腹が弱い方や子ども・高齢者には「戻し汁は一度捨てて新しい水で煮る」「茹で汁は控える」など体質や年齢に合わせた調整をおすすめします。
また、しっかり下ごしらえした大豆であっても、こうした成分がある程度残っていること、そして何より食物繊維が豊富なことから、食べすぎるとお腹の張りや下痢などの症状が出る場合があります。体の反応を見ながら、少量ずつお試しください。
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栄養の面から見ても、大豆はかなり優秀な食材です。乾燥大豆100gはタンパク質約35%・炭水化物約30%・脂質約20%で構成され、ビタミンやミネラル、ポリフェノールなども豊富に含まれます。まさに「天然のバランス栄養食」です。
- タンパク質
必須アミノ酸をバランス良く含み、吸収の良い「大豆ペプチド」が基礎代謝や疲労回復をサポートします。 - 炭水化物
食物繊維が豊富で、「大豆オリゴ糖」はビフィズス菌のエサとなり、腸内環境を整えてくれます。 - 脂質
脂質は多めですが、ほとんどが不飽和脂肪酸。コレステロール値を改善したり血液をサラサラにする効果があるとされます。また「大豆レシチン(リン脂質)」は脳や神経の機能維持にも関係します。 - ビタミンB群
三大栄養素の代謝を助け、疲労回復をサポートします。 - ミネラル
鉄分、カルシウム、マグネシウム、カリウムなどを多く含み、貧血や骨の健康、むくみの改善などに関わります。 - ポリフェノール
イソフラボンがエストロゲン様作用を持ち、更年期障害の緩和や骨粗鬆症予防への効果が報告されています。 - サポニン(配糖体、苦味成分)
脂質の酸化を抑え、代謝を促進するとされます。ポリフェノールとの相乗効果で抗酸化効果も期待できます。
おすすめの薬膳書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。

先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版




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