このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2025年11月7日(立冬)〜12月22日(冬至)の期間を『初冬の薬膳』としてご案内しています。
美肌の食材”白きくらげ”
白きくらげは身体を潤す薬膳の代表的食材です。
中国では古くから不老長寿の食材として珍重され、楊貴妃や西太后も好んで食べたと言われています。薬膳に触れたことがある方なら、一度は白きくらげを甘く煮た“美肌デザート”を作ったり食べたりした経験があるのではないでしょうか。

私も薬膳の勉強を始めた頃、美肌に良いと知って毎日のように白きくらげを食べていました。
しかし、次第に締め付けられるような頭痛に悩まされるようになったのです。
『水湿(痰湿)体質』と白きくらげ
頭痛を抱えたまま過ごしていたところ、当時の先生から「顔色が黄色い。何か症状が出ているのでは?」と指摘があり、ようやく理由が分かりました。
顔色がくすんだような黄色になるのは『脾虚』でよくみられる『萎黄(いおう)』という状態です。
五臓にはそれぞれ苦手なものがありますが、『脾』が苦手なものは「冷え」と「過剰な水分」。
『脾』は消化吸収や栄養の代謝をつかさどる働きを担っており、脾が弱ると『気血』を作り出すことができず『気虚』や『血虚』を引き起こします。
さらに「梅雨の薬膳」の記事で触れたように『脾』の『運化』機能が低下すると水のめぐりが滞る『水湿内停(すいしつないてい)』の状態となりやすく、むくみ、重だるさ、頭痛や頭重感、めまいなどの症状をもたらします。
私が感じた締め付けるような頭痛は『水湿』が気血のめぐりを阻害し、『気滞』や『血瘀』を招いたものだと思われます。
薬膳を学ぶうちに分かったのですが、私はもともと『脾気』が弱く『内湿』を生じやすい『水湿(痰湿)体質』。白きくらげのような”潤す食材(=過剰な水分)”は『内湿』を生む原因となるため、私の体質とは相性が良くありません。実際、白きくらげを控えたところ頭痛はすっかり治まりました。
白きくらげの雑学
白きくらげの成分
白きくらげの”潤い”の正体は、シロキクラゲ多糖体と呼ばれるゼリー状の成分です。水に溶けやすく高い保湿力を持つことから、「植物由来のヒアルロン酸」のような存在としてスキンケア化粧品にも使われています。ベタつきが少なく、乾いたあとにつっぱりにくいのも特徴です。
この成分は食品分野でも、脂肪の吸収をゆるやかにしたり、腸内フローラを整えたり、胃の粘膜を保護する作用があるとして注目されています。
また低粘度なのに水分をしっかりキープでき、冷凍と解凍にも強いという性質から、“食感をよくする隠し役”としても活躍。冷凍食品を解凍したときのパサつきを防いだり、パン生地に加えてしっとり感を出したりと、さまざまな食品に利用されています。
さらに、白きくらげ特有の“ぬめり”には、水溶性と不溶性、両方の食物繊維が含まれています。これはなめこのぬめり成分と同じタイプの粘液多糖体で、粘膜を守り、コラーゲンのように肌の潤いをサポートする働きがあると報告されています。
白きくらげと白「い」きくらげ
白きくらげは中国の四大食用キノコ「四珍(やまぶしたけ、きぬがさたけ、白きくらげ、冬虫夏草)」のひとつに数えられ、透き通るような見た目の美しさから「銀耳(ぎんじ)」と表記されます。
かつては四川省の特産品として金と同じくらいの価格で取引されていたそうですが、現在では中国各地で栽培が進み、日本でも乾燥品を手軽に購入できるようになりました。
白きくらげは黒きくらげと混同されがちですが、実はまったく別の品種です。白きくらげはシロキクラゲ科シロキクラゲ属に分類され、半透明の白色と、ぷるんとしたなめらかな表面が特徴。一方の黒きくらげはキクラゲ科キクラゲ属で、表面に細かい産毛のような毛があります。

市場では、黒きくらげの一種「あらげきくらげ」の突然変異で白くなったものを「白いきくらげ」として販売しているケースもありますが、これは正式な白きくらげ(学名:Tremella fuciformis)とは別物です。もちろん白いあらげきくらげにも”潤す”作用はありますが、薬膳でいう「銀耳」とは違うものです。
日本国内で白きくらげ(Tremella fuciformis)を栽培している事例はまだあまり多くありませんが、岡山県の「ビナン食販」さんでは岡山理科大学との共同研究により日本初の人工栽培に成功したそうです。興味のある方は、ぜひ公式ホームページをのぞいてみてください。
白きくらげのレシピ
私は『水湿(痰湿)体質』のため、普段は”潤しすぎる”食材を控えているのですが、空気が乾燥する初冬〜春先だけは特別。いつもは避けているヨーグルトやはちみつ、いちじくや杏仁など、量をセーブしながら楽しんでいます。そちらを優先しているので、白きくらげはここ数年食べていません。そこまで好きってわけでもないので…笑
毎日のように食べていた頃は、デザートよりもスープやお粥に入れることが多かった気がします。クセがなく、ほんのりとろみがつくので使いやすいんですよね。
①たっぷりの水に1〜3時間つけて戻します。
※戻すと5〜10倍に膨らみます。
②根本の硬い部分を取り除き、流水で汚れと乾物特有の匂いをサッと落とします。
1〜2分茹でてザルに上げ、冷めたら水気をしっかり拭き取ります。
ジッパー付き保存袋に入れて冷凍すれば、スープやお粥など必要なときにポキポキ折って放り込めるので便利です(1ヶ月程度保存可能)。

白きくらげはサッと茹でると海藻のようなコリコリした食感に、30分〜1時間ほど煮込むとぬめり成分が溶け出してトゥルントゥルンになります。
白きくらげの薬膳効能

白きくらげには「身体を潤す」作用があるとされています。
中医学で”潤す”働きは、大きく『生津』と『滋陰』の2つに分けて考えます。
『生津』とは、その名の通り『津液』を生み出す働きのこと。
『津液』は体内の水分の総称で、『肺』がスプリンクラーのように全身に散布し、皮膚や粘膜をしっとり保っています。不足すると唇・肌・目・喉など身体の”表側”が乾燥しやすくなります。
『滋陰』とは『陰液』を補う働きのこと。
『陰液』とは『津液』『血』『精』を含む”潤いの総合パック”のようなもので、どれかひとつでも不足すると『陰虚』と呼ばれる状態に傾きやすくなります。
中医学には、自然界のすべてのものが「陰」と「陽」という二つの相反するエネルギーで成り立ち、互いにバランスをとりながら存在しているという「陰陽二元論(陰陽論)」の考え方があります。
『陰』は「潤す・冷ます」要素、『陽』は「温める・動かす」要素を担っているため、『陰』が不足すると相対的に『陽』が強くなり、体内に余計な熱がこもります。
その結果、ほてり、のぼせ、寝汗といった症状が現れやすくなりますが、このような『陰虚』からくる熱症状には『清熱』よりも『滋陰』が治法の中心となります。

白きくらげには『生津』と『滋陰』の両方の作用があるとされるため、食材の中でも潤す力がトップクラスに高いと言えます。
栄養素的には、本文でも触れたように、
- 水に溶けやすく、高い水分保持能を持つシロキクラゲ多糖体
- コラーゲンのように皮膚や粘膜の潤いを守る粘液多糖体
といった成分が含まれており、水を飲むだけでは満たされない“深い渇き”に潤いを届けてくれると考えられています。さらに食物繊維も「不溶性:水溶性=2:1」と理想に近いバランスで含まれており、整腸作用も期待できます。
ただし、体質によっては摂りすぎに注意が必要な場合もあります。私のような『水湿(痰湿)体質』の方は、季節や体調と相談しながら、上手に付き合っていきたい食材です。
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