このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2025年11月7日(立冬)〜12月22日(冬至)の期間を『初冬の薬膳』としてご案内しています。
湯葉の雑学
湯葉とは
湯葉は、豆乳を温めたときに表面に現れる薄い膜です。
加熱すると表面の水分が蒸発し、タンパク質が熱で変性しながら脂質と結び付き、自然と皮膜が形成されます。これは「ラムスデン現象」と呼ばれ、一般に50〜60℃前後から始まり、温度が高くなるほど短い間隔で膜が現れます。

実際の湯葉づくりでは、豆乳を70℃〜90℃に保ちながら静かに加熱を続けます。一枚ができるまでおよそ10〜15分ほど。つくり手によってはさらに長い時間をかけることもあります。高温の中で行われる作業はとても大変ですが、その手間ひまがあるからこそ、あの繊細で美しい湯葉が生まれているのです。
湯葉の種類
湯葉は大きく「生湯葉」と「乾燥湯葉」に分けられます。
生湯葉
豆乳を温め、できたそばから引き上げて食べる「引き上げ湯葉」や、醤油やわさびなどを添えて食べる「刺身湯葉」などがあります。
ラムスデン現象では、膜の形成が中央付近から始まり、徐々に全体へ広がっていくとされています。そのため生湯葉のなかでも最初にできる膜はきれいな形に整えにくいのですが、この段階の膜にはとくに濃い成分が集まりやすく、コクと旨みが凝縮されているのも特徴です。これをそっとすくい上げたとろとろのものを「汲み上げ湯葉」と呼び、より濃厚な味わいを楽しむことができます。
乾燥湯葉
引き上げた湯葉をシート状やロール状にして乾燥させたものや、それらを油で揚げたものなど、種類はさまざまです。乾燥させたものは日持ちしやすく、常温で保管できる商品も多く見られますが、揚げ湯葉のなかには要冷蔵で保存期間が短いものもあります。
わが家では常に「乾燥割れゆば」をストックしており、味噌汁やスープ、和え物、酢の物などに利用しています。
湯葉の歴史
湯葉の伝来
湯葉の起源は、豆腐と同じく中国にあると考えられています。中国では「豆腐皮(ドウフーピー)」や「腐皮(フーピー)」などと呼ばれ、揚げ物や炒め物など古くから日常の食材として親しまれてきました。
日本への伝来については「平安時代に最澄が唐から持ち帰った」とする説や、「鎌倉時代に中国から禅宗が伝わり、禅寺の精進料理とともに広まった」とする説が知られています。

禅宗とは、鎌倉時代に中国(宋代)から日本へ伝わった、坐禅(ざぜん)を中心とした修行で悟りを目指す仏教の一派です。

代表的な宗派として、栄西が伝えた「臨済宗」と道元が伝えた「曹洞宗」があるね。

肉や魚を避ける修行僧にとって、禅寺の精進料理に欠かせない豆腐や湯葉は、貴重なタンパク源として重宝されました。
文献に豆腐が登場するのは、1183年の奈良・春日大社の記録です。供え物の一覧の中に記された「唐府(唐符)」が、豆腐を指す最古級の例とされています。一方、湯葉が文献に現れるのはそれより少し後の安土桃山時代。茶会記録『松屋茶会記』に「うば」と欠かれているものが、湯葉に関する最古級の史料と考えられています。
湯葉と湯波
湯葉と聞くと、まず京都と日光を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
京都では、膜の端に串を入れて一重にすくい上げるため、薄く繊細な口当たりとなるのが特徴です。一方、日光では膜の中央に串を入れ、二つ折にするような形ですくい上げるため、2枚の間に豆乳が残って厚みと弾力が生まれます。
形状や表面にできるちりめんのような細かいしわから、「葉」の字を当てて葉脈に見立てたり、「波」をイメージしたり。どちらも日本的な感性が表れた、とても美しい名前だと思います。

京都の湯葉は精進料理だけではなく、茶の湯文化が花開くなかで懐石料理の食材としても用いられるようになり、やがて一般家庭へと広がっていったといわれています。
一方、山岳信仰の聖地とされる日光では、寺社仏閣への供物や精進料理の食材として湯波が作られるようになり、次第に家庭の食卓でも親しまれるようになりました。今では「日光といえば湯波」といわれるほど、地元の食文化を代表する存在です
いつか伺ってみたい憧れの専門店に、京都の【湯葉半老舗(1716年創業)】さんと日光の【海老屋長造(1872年創業)】さんがあります。どちらも長い歴史を受け継ぐ老舗で、それぞれの土地ならではの「湯葉/湯波」の魅力を味わえるお店です。リンクを貼っておきますので、興味のある方はぜひ覗いてみてください。
👉️【京都】湯葉半老舗 はこちらから
👉️【日光】海老屋長造 はこちらから
【福岡】おすすめの湯葉
私は湯葉が大好きで、誕生日や記念日などには必ず自分用に湯葉を用意します(同居人は好きでも嫌いでもないそうです)。平尾の【豆藤】さんや三瀬の【鳥飼豆腐】さんなどいくつかお気に入りのお豆腐屋さんがあるのですが、とくに大好きな湯葉がある2件をご紹介します。
荒木豆腐店
福岡市城南区の住宅街の中にある、子どもの頃から大好きなお豆腐屋さんです。福岡市内を中心に卸売事業を展開されていますが、店頭で小さく直接販売もされています。お豆腐や豆乳ももちろん美味しいのですが、私のお目当てはやっぱり湯葉!「汲み湯葉」は「名水のたましずく」で、「さしみ湯葉」はお浸しと豆乳鍋にしていただきました。

店舗情報
住所 福岡市城南区長尾4-15-26
店休日 日曜・祝日
営業時間 7:30〜13:00
※営業時間や定休日は変更になる場合があります。お出かけの際は、事前に最新情報をご確認ください。
湯葉と豆腐の店 梅の花
レストランや小売店など全国に展開しているチェーンですが、実は創業は福岡県久留米市。
先日、母と一緒に西の丘店へランチに行ってきました。「生麩田楽」や白身魚のすり身を湯葉で巻いて揚げた「湯葉揚げ」など、お腹いっぱいいただいたのですが、“湯葉欲”のほうはまだ満たされていなかったようで(笑)、後日デパ地下で「湯葉揚げ」を再購入。自宅で心ゆくまで堪能しました。

店舗情報
住所 福岡県 福岡市西区西の丘2-1(車での来店が便利です)
店休日 年末年始
営業時間 【平日】昼 11:00~15:30(L.O.14:30)/夜 17:00~21:30(L.O.20:30)
【土日祝】昼 11:00~16:00(L.O.15:00)/夜 17:00~22:00(L.O.21:00)
※営業時間や定休日は変更になる場合があります。お出かけの際は、事前に最新情報をご確認ください。
湯葉の薬膳効能

湯葉には「弱った身体への栄養補給」や「咳をやわらげ、痰を出しやすくする」作用があるとされています。
湯葉 はタンパク質や脂質など、豆乳の“濃い部分”が濃縮された食材です。
「大豆」の記事でご紹介したように、大豆製品(豆乳・おから・湯葉・豆腐)には、どの段階でも大豆本来の
- 「補気(気を補って元気をつける)」
- 「潤燥(乾きすぎたところをほどよく潤す)」
という性質が共通しています。
状態が固形に近いほど「下焦(下腹や腸)に作用する」「補気」の要素、液体に近いほど「上焦(肺)に作用する」「潤い」の要素が強くなりますが、湯葉はその中間地点にあり、「上焦(肺)に作用する」「補気」の要素を併せ持つ食材だと考えられます。
濃厚な栄養素を吸収しやすい形で摂り入れられるので、消化吸収機能が弱った方の体力回復にもぴったり。風邪を引きやすい、暑くないのに汗が流れる、寒がりで疲れやすいといった『肺気虚(肺の気が不足し、呼吸機能や免疫力が弱まる証)』のサインが出ている方にには、意識して取り入れたい食材のひとつです。
さらに、肺を潤す作用もあるため、「豆乳」でご紹介したような『燥痰(乾燥・熱・津液不足などが原因の、粘ついて出にくい痰)』をやわらげて出しやすくする『化痰(かたん)』の働きも期待できます。
一方、乾燥湯葉になると「下焦(下腹や腸)に作用する」「補気」の要素がより強まります。肺を潤す作用をねらうのであれば生湯葉の方がおすすめです。さらに消化機能が弱っている時には汁物に入れるなど温かい状態でいただき、少量をよく噛んで食べるとより身体にやさしい養生になります。
おすすめの薬膳書籍
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