冬の薬膳

Eye-catching image featuring a snowy winter night scene with a pedestrian bridge, overlaid with the text “Winter Dietary Therapy” and “From Winter Solstice to the Beginning of Spring.” 季節ごとの養生

陰陽二元論(陰陽論)

今日は冬至。一年でいちばん日照時間が短くなる日です。
中医学では冬至を「陰の気がピークに達し、陽の気がもっとも弱まる日」と捉えます。

中医学には、自然界のすべてのものが『陰』と『陽』という二つの相反するエネルギーによって成り立ち、互いにバランスを取り合いながら存在している、という考え方があります。

ぬん
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これを「陰陽二元論(陰陽論)」と呼びます

この考え方を象徴的に表したのが『陰陽対極図』。一度は目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

A hand-drawn yin-yang (taijitu) diagram illustrating the concepts of yin and yang, such as day and night, activity and rest, warmth and cold, and the idea of continuous balance and transformation known as “yin-yang waxing and waning.”
The yin-yang diagram represents how nature and the human body consist of opposing qualities—yin and yang—that continuously change and maintain balance. This dynamic process is known as “yin-yang waxing and waning.”

冬は陽の気が弱まり、陰の気が強くなる季節です。
人間も自然の一部なので、冬場は体内の陽気が衰えやすくなります。

冬の養生

1️⃣無理をしない

『陽』には「活動する」「温める」といったエネルギーがあります。

そのため、陽気が衰えやすい冬の養生では、「温めて、無理をしない」工夫が基本になります。具体的には、しっかり睡眠をとること、過労を避けること、腰や足元を冷やさないことなどです。

冬は『閉蔵』の季節といわれ、「何かを足す」よりも「持っているものを閉じ込め、減らさない」ことが大切だと考えられます。新年になると「一念発起して何かを始めよう!」という気持ちが湧く方も多いかもしれませんが、中国最古の医学書『黄帝内経』にも冬の過ごし方として、「夜は早く寝て、朝は日が昇るのを待って起きる。あれこれと意志や感情を巡らせず、心を煩わさないように」といった趣旨の教えが記されています。冬は頑張りすぎず、ゆるやかに過ごしましょう。

2️⃣気血のめぐりを良くする

これまでのブログでもたびたび登場している中医学のキーワードに、『六淫の邪気(風・寒・暑・湿・燥・火)』があります。これらは本来『六気』と呼ばれる自然界の正常な気候ですが、適応範囲を超えて人体に悪影響を及ぼすようになると『邪気』となります。冬はこの中でも『寒邪(かんじゃ)』への対策が重要になります。

ぬん
ぬん

『寒邪』には『凝滞(ぎょうたい)』『収引(しゅういん)』という性質があります。

凝滞

『凝滞』とは、文字通り滞ること。とくに影響を受けやすいのが『気血』のめぐりです。中医学では「『気血』のめぐりが悪くなったところに痛みが生じやすい」と考えられており、これを『不通則痛(ふつうそくつう)』といいます。頭痛や腰痛、肩こり、手足のしびれなどに加え、しもやけも末端の血流が滞ることで起こる症状のひとつです。

また、気のめぐりが悪くなると、「初冬の薬膳」で触れた『衛気』も弱まりやすくなります。その結果、外からの『邪気』が侵入しやすい状態ーつまり免疫力が低下した状態となり、風邪を引きやすくなります。

ぬん
ぬん

『気』のめぐりを良くするには『理気(りき)』、『血』のめぐりを良くするには『活血(かっけつ)』の食材を取り入れるのがおすすめです。

うに
うに

無理のない範囲での運動(ウオーキングやヨガ、ストレッチなど)や、入浴で身体を温めることも『気血』の流れを整える助けになります。

収引

『収引』とは、閉じたり収縮したりする性質のこと。寒さで身体が縮こまったり、筋がつりやすくなるのは、この『収引』の影響によるものです。毛穴も閉じやすくなるため、冬場は汗をかきにくくなります。

3️⃣『腎』を養う

五臓のうち『腎』は五季の「冬」に属し、冬の寒さの影響を受けやすいと考えられています。

五行五臓五季
土用または長夏

『陰』と『陽』のバランスは、人の身体の中にも存在しており、『五臓(肝・心・脾・肺・腎)』にもそれぞれに陰と陽の働きがあります。

『陽』は、動かす・めぐらせる・発散させる働き。
『陰』は蔵する・蓄える・溜めておく働きを担います。

なかでも『腎』は、生命のエネルギーを蓄える源であり、寒さに対する抵抗力を支えてくれる重要な存在です。『腎』は冷えや過労に弱いため、体を冷やさないように心がけ、十分な休養をとって腎を養うことが、冬の養生の要になります。

中医学の『腎』とは

中医学における『腎』は、西洋医学でいう単なる「腎臓」とは異なり、成長・老化・生殖・水分代謝・呼吸など、生命活動の土台を支える重要な臓腑として考えられています。

ぬん
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『腎』の働きは中医学の中でもやや複雑なため、「ここまで詳しくなくても良い」という方は、目次から「『腎』の働き:要点」へ読み飛ばしてください。

『主蔵精(しゅぞうせい)』

『腎』は『精』を蔵します。

『精』とは、成長や発育、生殖に関わる”生命の源”のようなもの。『精』には父母から受け継いだ「先天の精」と、日々の食事から得られる「後天の精」があり、これが不足すると、子どもでは発育不良、成人では老化の促進につながると考えられています。
また、『精』は生殖機能とも深く関わっており、不足すると不妊や精力減退、インポテンツなどの症状が現れるとされます。

『腎精』は『腎陰』と『腎陽』の源ともなります。

『濡養温煦(じゅようおんく)』

『濡養』とは、身体を潤し栄養する働きのこと。
『腎精』から生じる『腎陰』は「命門の水」とも呼ばれ、身体を潤し、すみずみまで栄養を与えます。不足すると皮膚や髪の潤いが失われてシワや白髪が目立つようになったり、筋肉や関節の潤滑が失われて痛みやこわばりを生じます。また『陰虚』の症状(のぼせ、手足のほてり、寝汗、口の渇きなど)も現れやすくなります。

また、『腎精』には骨髄や脳髄を濡養する『生髄・充脳(せいずい・じゅうのう)』の働きもあるため、不足すると、骨がもろくなる・足腰が衰える・脳が養われず記憶力が低下するといった症状を引き起こします。西洋医学でも腎臓が造血ホルモン(エリスロポエチン)を分泌して骨髄の造血を促すことが知られていますが、中医学では『腎精』が髄(骨髄・脳髄・脊髄)の生成元であると考えられています。

『温煦』とは、身体を温め、生理機能を促進する働きのこと。
『腎精』から生じる『腎陽』は「命門の火」とも呼ばれ、身体を内側から温め、各臓腑の活動を推進する働きがあります。不足すると基礎体温が低下して冷え性になりやすくなるほか、倦怠感、代謝機能の低下などが現れやすくなります。

『主水(しゅすい)』

『腎』は『津液(しんえき=体内の水分の総称)』の貯水槽としての役割も担います。
『肺』の『粛降(しゅくこう)』作用によって送られてきた『津液』を、再利用したり排泄したりすることで、体内の水分量を調整しています。

この働きが弱くなると水分がうまく処理されず、むくみや頻尿といった症状を引き起こします。

『主納気(しゅのうき)』

呼吸は主に『肺』が担いますが、取り込まれた清気を受け入れ、深く安定した呼吸を保つのは『腎』の働きによるものです。この働きが弱くなると呼吸が浅くなり、咳込みや息切れが起りやすくなるほか、『気短(きたん=せっかち、怒りっぽい、おちつかない)』といった状態も現れやすくまります。

『腎』の働き:要点

1️⃣『腎精』は生命の源

『腎』は成長・老化・生殖・水分代謝・呼吸など、生命活動の土台を支える重要な臓腑として考えられています。『腎』に蔵される『精』には父母から受け継いだ「先天の精」と、日々の食事から得られる「後天の精」があります。

『腎精』が不足すると…
  • 子どもの場合…発育不良
  • 成人の場合…老化の進行・生殖機能の低下(不妊・精力減退・インポテンツなど)
『腎陰』が不足すると…

『腎精』から生じる『腎陰』は「命門の水」とも呼ばれ、身体を潤し、すみずみまで栄養を与えます。不足すると皮膚や髪の潤いが失われてシワや白髪が目立ちやすくなり、筋肉や関節の潤滑が悪くなって痛みやこわばりを感じるようになると考えられています。また『陰虚』の症状(のぼせ、手足のほてり、寝汗、口の渇きなど)も現れやすくなります。

『腎陽』が不足すると…

『腎精』から生じる『腎陽』は「命門の火」とも呼ばれ、身体を内側から温め、各臓腑の活動を推進する働きがあります。不足すると基礎体温が低下して冷え性になりやすくなるほか、倦怠感、代謝機能の低下などが現れやすくなります。

ぬん
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「命門」とは生命活動の根幹を支える部位を指します。

2️⃣『腎』は水をつかさどる

『腎』は『津液(しんえき=体内の水分の総称)』の貯水槽として、体内の水分バランスを調整しています。この働きが弱くなると、水分代謝が滞り、むくみや頻尿といった症状が現れやすくなります。

『腎』を養うには

他の臓腑と異なり、『腎』の働きが過剰になることはほとんどありません。
そのため、『腎』は常に「不足しないように養う」ことが大切だと考えられています。

「先天の精」は、広い意味では「体質」と言い換えることもでき、基本的には変えることができません。けれども「後天の精」によって補い、強めることはできますし、反対に生活習慣によって弱めてしまうこともあります。

ぬん
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『腎』を養うことはエイジングケアの基礎ともいえます。

『補腎』に役立つ食材や、五色で『腎』に対応する「黒」の食材をとると良いとされますが、同じくらい意識したいのが「身体を冷やさない」こと。
『腎』は五行で「水」に属し、『陽』の気を保つのが苦手で、冷えの影響を受けやすいという性質を持ちます。体温より低いものはなるべく避け、できれば温かい状態(目安として65℃以上)の食べ物や飲み物を意識して取り入れたいところです。

冬の『腎』の不調に対するおすすめの薬膳食材

おすすめの食材:身体を温めるもの

身体を温める食材は、大きく『補陽(ほよう)』と『温裏(おんり)』に分けて考えられます。
『補陽』は陽気を補って”身体全体のエネルギー”を底上げするイメージ。
『温裏』は身体の芯ーつまり内臓を中心に温めるイメージです。

身体を温める食材

🫚乾姜・シナモン・クローブ・八角・胡椒
🧄ニンニク・ネギ・ししとう・ヨモギ・エゴマ・ニラ・かぼちゃ
🥩鶏肉・羊肉
🦐海老・フグ・アンコウ・ニシン・アジ・鮭
🥛甘酒
🧂味噌・黒砂糖

ワイン・日本酒・焼酎などの酒類も一時的に身体を温めてくれますが、摂りすぎると『腎陰』を損ねやすくなるため、”ほどほど”を意識したいところです。

また、冬は寒邪に侵されやすい季節でもあるので、状況によっては体内に入りこんだ寒さを追い払う『散寒』の食材が役立つこともあります。ただし『散寒』は身体の表面についた寒邪を発汗によって外に出す作用があるぶん、使いすぎると逆に身体を冷やしてしまうことがあります。日常的に摂るというよりも、寒い屋外に長時間いたあとや、冷たい風に当たってゾクッとしたとき、風邪のひき始めで「いつもと違う寒気」を感じるときなど、ピンポイントで使うイメージです。

『散寒』の食材

🫚生姜・シナモン・唐辛子・八角・胡椒
🧄ネギ
🧂黒砂糖
🍶日本酒・焼酎

おすすめの薬膳食材:腎を養うもの

『腎』を養う食材

【補腎陽】栗・くるみ・うなぎ

【補腎陰(精)】黒ごま、山芋、すっぽん、豚肉

貝柱・ひじき、昆布、わかめなどの海産物も腎陰を補いますが、身体を冷やすので注意が必要です。

また、以下のような食材でサポートするのもおすすめです。

【補血で腎精を助ける】プルーン・ブルーベリー・鶏レバー
【抗酸化作用によりエイジングケアにつながる】カリフラワー・ブロッコリー・キャベツ

もちろん胃腸が元気でなければ食べた物をエネルギーに変えることができないので、『脾』をいたわる食材も必要な要素です。

おすすめの薬膳食材:『気血』のめぐりを良くするもの

種が雪の下でじっと冬を越すように、エネルギーや体温を温存して過ごすのも大切ですが、動かさなすぎると『気血』は滞りやすくなります。ウォーキングやストレッチなどの適度な運動で代謝を促し、あわせて気血のめぐりを助ける食材を取り入れることで、身体の陽気がほどよくめぐり、冬の強い陰気とのバランスが整いやすくなります。

『理気』の食材

🫚八角・茴香(ういきょう=フェンネルシード)・サンザシ
🫑玉ねぎ・ピーマン
🍊陳皮・柑橘類
☕ジャスミン・玫瑰花
🍷ワイン・甘酒
🌾米麹

『活血』の食材

🌰黒豆・納豆・カカオ・サンザシ
🥬菜の花・ニラ・パセリ・クレソン・玉ねぎ
🍇クランベリー・プルーン・ブルーベリー
🐟️サバ・いわし・鮭
🧂黒砂糖・サフラン・酢
🍶甘酒

毛細血管まで血液を行き渡らせるにはビタミンEが効果的です。
アーモンド・あん肝・魚卵・うなぎ・たまご・海苔など

おすすめの薬膳書籍

薬膳を実践していると、よくぶつかるのが「書籍によって効能の記載が違う」という問題です。なぜそんなことが起こるのでしょうか?

それは、薬膳が人間の経験の積み重ねによって発展してきた学問だからです。最初にまとめられた『神農本草経』をはじめ、今日に至るまでのおよそ3,000年(説によっては4,000年)もの間、たくさんの人が薬膳を実践し、自分の身体で効果を感じ取り、解釈し、時には新たな薬膳書を書き記してきました。いわば、今私たちが目にする書籍たちは、中国3,000年の実戦データの集大成と言えます。

そのため、ある本では「寒性」とされている食材が、別の本で「温性」と書かれていたり、「平性」とされているものが実は熱を冷ます作用を持っていたりすることもあります。そんなときは、古代から伝わる複数の書籍を参照することで、その違いの根拠が見えてきます。

こちらの書籍『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』は、まさにそんな場面で頼れる一冊。

この本は、古典を含む複数の薬膳所に記載されている効能を一覧化しており、タイトルのとおり「食品群(穀類、野菜類など)」や「食材名」、「効能(解表、通便など)」から検索できる辞典です。収録されている食材は、なんと1,184種類!迷った時にすぐ調べることができ、薬膳を実践するなら手元に置いておきたい一冊です。


先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版

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