このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2026年2月4日(立春)〜3月20日(春分)の期間を『早春の薬膳』として、冬・早春・春におすすめの食材をご案内しています。
酒蔵開き
日本酒は寒い時期の自然環境を生かして、主に11月〜2月頃に造られます。これを「寒造り」と呼び、できた日本酒は1〜4月頃にかけて「新酒」として出回ります。
新酒の時期になると、多くの蔵では新酒の完成を祝うとともに、その年の日本酒のお披露目を兼ねた「蔵開き」というイベントが開かれます。新酒の試飲はもちろん、会場によっては酒饅頭や粕汁が振る舞われたり、屋台やキッチンカーが並んだり。大規模な会場ではステージイベントが行われることもあり、日本酒好きにとってはちょっとしたお祭りのような一日になります。

2026年酒蔵開放リスト(福岡酒造組合)
参考までに、福岡酒造組合による2026年の酒蔵開放リストと、各蔵のホームページのリンクを貼っておきますので、ご参照ください。
- いそのさわ 2月7日(土)〜11日(水・祝)
- 勝屋酒造 2月21日(土)・22日(日)
- 林龍平酒造場 3月1日(日)
- 玉水酒造 3月8日(日)
- 溝上酒造 3月14日(土)・15日(日)
- 菊美人酒造 3月14日(土)・15日(日)
- 若竹屋酒造場 3月28日(土)・29日(日)※たのしまる春まつり参加
- 山口酒造場 4月18日(土)・19日(日)
- 山の壽酒造 4月18日(土)・19日(日)
- 片岡酒造 4月26日(日)
日本酒造りについて
個人的には、春に出回るフレッシュな日本酒よりも、秋〜冬にかけて出回る熟成した日本酒のほうが好みです。そのため蔵開きの楽しみは新酒よりも日本酒造りの副産物である酒粕にあるかもしれません。
日本酒ができるまで
日本酒が造られる過程は、ザックリいうと次のようになります。

① 米麹造り
蒸し米に麹菌をまぶして繁殖させ、米麹を作ります。
② 酒母(しゅぼ)造り
水に①の米麹を加えて「水麹」をつくり、そこに蒸し米と酵母菌を合わせて酒母を作ります。
このとき雑菌の繁殖を抑えるため、酸性の環境を整える方法として、現在主流となっている速醸酛(そうくじょうもと)では乳酸を添加し、昔ながらの生酛(きもと)・山廃(やまはい)では乳酸菌を自然に増殖させます。
③ もろみ造り
②の酒母に蒸し米・水・①の米麹を三段階に分けて加え(三段仕込み)、もろみを作ります。
④搾り(しぼり)
もろみを搾った液体が日本酒で、残った固形分が酒粕です。
一般的には、使用した米の20〜30%ほどが酒粕になるといわれています。
日本酒造りに関わる微生物
微生物が有機物を変化させる現象を「発酵」と呼び、その発酵を利用して食品や飲料を製造することを「醸造」と呼びます。日本酒の醸造では、主に2つの微生物が働いています。
麹菌(Aspergillus oryzae)米のデンプンを糖へと分解します。
酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)その糖をアルコールへと変えます。

もろみの発酵が進みアルコール濃度が高くなると、微生物の数は次第に減少していきますが、酒粕にはそんな微生物たちが生み出した酵素や、それらの働きによって生成されたアミノ酸・ビタミンB群などの栄養素が豊富に含まれていることが知られています。
微生物たちは自らの生存のために活動しているにすぎませんが、その働きを人が巧みに利用することで、米と水というシンプルな原料から日本酒や酒粕という豊かな発酵食品が生まれるとはーー醸造という技術の奥深さを感じますね。
おすすめの書籍
微生物や日本酒造りに興味のある方は、石川雅之さん著『もやしもん』がおすすめです。
とてもわかりやすく、大学の授業で紹介されることもある作品です。なにより、菌のキャラクターたちがかわいい!日本酒造り編は主に11・12
・13
巻に収録されています。
酒粕の種類と活用方法
酒粕の種類
酒粕は、搾り方やその後の加工方法によって、いくつかの種類に分かれます。

板粕
自動圧搾機で搾った場合に多く見られる、板状の酒粕です。
ばら粕
板状にならず、ほろほろと崩れた状態の酒粕。やわらかく溶けやすいのが特徴です。
練り粕(踏み込み粕)
板粕やばら粕を練り合わせて熟成させたもの。時間が経つにつれて色は茶色に変わり、味噌のような深いコクが生まれます。奈良漬けなどに使われるのがこのタイプです。
生酒粕
搾りたてのフレッシュな酒粕です。水分を多く含んだペースト状で、香りも華やか。アルコール感が強く残ることもあります。
日本酒の伝統的な搾り方
自動圧搾機を使わない伝統的な搾り方である「槽(ふね)搾り」や「雫搾り(袋吊り)」などでは、酒粕は板状になりにくく、水分を多く含んだやわらかな状態で残ることが多くなります。

槽(ふね)搾り
もろみの入った袋を積み重ね、ゆっくり圧力をかける搾り方。酒粕はばら粕状、またはやわらかな状態で残ります。
• 雫搾り(袋吊り)
袋を吊るし、圧力をかけず自然に滴り落ちる酒だけを集める方法。残る粕は水分が多く、とろりとしたクリーム状になることもあります。
酒粕の活用方法
酒粕は旨味成分であるアミノ酸を多く含み、やわらかな甘みを感じられるのが特徴です。板粕はトースターで軽く焼き、おやつやおつまみとして食べるのも一般的です。
スーパーでも一年中購入できますが、私が酒粕を購入するのは蔵開きの時期だけ。先日ご紹介したシナモンと同様に、朝晩が冷え込む時期には「ちょい足し」で身体を温められる食材としてとても重宝します。

酒粕甘酒よりも麹甘酒のほうが好みなので、酒粕で甘酒を作ることはめったにありませんが、薬膳で「身体を温める作用がある」とされる黒砂糖で甘みをつけるのが私の定番です。
また粕汁も「今日は粕汁にしよう!」というようなきちんとしたレシピはなく、「酒粕が手に入る時期のお味噌汁には酒粕を足す」といった感覚。味噌と酒粕を同じくらい(やや酒粕を少なめに)加えるだけで、ぐっとコクのある汁物になります。

蔵元で購入する酒粕は、スーパーなどで販売されているものよりフレッシュな状態を保ちやすいため、酵素が比較的活性の高い状態で含まれていることもあります。酵素の働きを最大限に活かしたい場合は、なるべく加熱せずに食べるのがおすすめ。保存は冷凍で行い、1〜2ヶ月以内に使い切るのが理想的です。

酒粕には5%~8%前後のアルコールが含まれていることもあるため、お酒に弱い方や運転前、子どもが食べる際には、甘酒や粕汁など十分に加熱してアルコール分を飛ばすレシピがおすすめです。
おすすめの酒粕
「酒粕を試してみたいけれど、どこで買えばいいの?」という方は、ぜひ「酒乃竹屋」さんのサイトを覗いてみてください。上記でご紹介した「城島酒蔵びらき」が開催される酒どころ、福岡県久留米市城島町で50年近く酒粕卸を続けている老舗です。
一番人気は純米酒から取ったしっとりタイプのばら粕。米・水・米麹だけで造られる純米酒は、醸造アルコールを使用しないのが特徴です。そのため酒粕もやさしい米の旨みが感じられ、マイルドでクセの少ない味わい。生食から加熱まで、幅広く利用できます。
私のイチオシは「山口酒造場」さんの「庭のうぐいす」から取れる純米吟醸酒粕。
「庭のうぐいす」は福岡で大人気の日本酒銘柄です。麹米には糸島産の山田錦、掛米には地元産の夢一献をメインに使用し、筑後川の伏流水を仕込み水に使った日本酒から生まれる酒粕は、米の旨みがしっかり感じられ、ほのかに吟醸香が漂います。加熱するより、混ぜるだけのディップや、スムージーにひとかけら加えて撹拌するのもおすすめです。
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酒粕の薬膳効能

酒粕には「身体(とくにお腹)を温め、めぐりをよくする」作用があるとされています。
酒粕には冷えやすいお腹まわり(消化器系)を内側から温め、胃腸の働きを助ける作用があるとされています。また身体を温める食材は血行を促すと考えられており、冷えによる不調のケアにも役立つとされています。
温暖な九州では、酒粕甘酒や粕汁など、酒粕を使った料理はあまりメジャーではありません。実は私も酒粕を初めて口にしたのは社会人になってからでした。けれど50歳近くなった今では、寒暖差の激しい三寒四温の時期に、身体を温める「ちょい足し」食材として手放せなくなっています。
そして、これはあくまで個人的な体感なのですが、私の場合はシナモンや酒粕を摂ると花粉症の症状がやわらぐように感じます。薬膳では「辛味には発散する作用がある」と考えられており、上焦(じょうしょう:胸から上)にたまった余分な水分を発散させる働きと関係しているものだと思われます。
栄養学の観点から
酒粕には、アミノ酸やビタミンB群といった栄養素が豊富に含まれています。これらは体内の代謝に関わる栄養素とされ、疲労回復や肌・粘膜の健康維持に役立つと考えられています。
また、麹菌が生み出すコウジ酸には、メラニン生成に関わるチロシナーゼの働きを抑える作用が知られており、美白成分として化粧品などの美容分野で活用されています。「杜氏の手が美しい」といわれる背景には、こうした発酵由来成分の影響も関係しているのかもしれません。
さらに、酒粕由来のペプチドには血圧の上昇を緩やかに抑える作用が報告されており、レジスタントプロテインは食物繊維に似た性質を持つことから、腸内環境を整える働きが期待されています。こうした成分が複合的に含まれていることから、酒粕は生活習慣病を予防する可能性のある発酵食品のひとつとしても注目されています。
おすすめの薬膳書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。

先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版


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