今日は春分。
これからの時期は、しとしとと春の雨が降り続き、『菜種梅雨』とも呼ばれます。ちょうど菜の花が咲く季節ですね。朝晩の寒暖差に戸惑う日もありますが、日中は穏やかで過ごしやすく、桜の開花が待ち遠しくなります。
このブログでは、季節に合わせた薬膳食材をご紹介しています。
2025年3月20日(春分)〜5月5日(立夏)の期間は『春の薬膳』をお届けします。
春におこりやすい不調
春は『血虚』になりやすい
春が訪れると、気温が上がり、人は自然と活動的になります。それに伴い、新陳代謝も活発になるため、身体はより多くのエネルギーを必要とします。
体のすみずみにまでエネルギーを届けるのは、「気」と「血(けつ)」の働きによるものです。
「気」…それ自身が動く、エネルギー豊富な物質
「血」…それ自身は動かない、身体に栄養と潤いを与える物質

「血」は自ら動くことはできないため、「気」の推動作用(物を動かす力)によって全身をめぐります
春になり活動量が増えると、身体が必要とするエネルギーの量も増えます。
しかし春は『肝』の不調で血が不足しがちとなり、『血虚』という症状を招きやすくなります。
・立ちくらみ、めまい
・眠りが浅い・寝つきが悪い・日中眠い
・目のかすみ、皮膚や髪のパサつき
「春眠暁を覚えず」という言葉は「春の眠りは心地良く、朝になったことに気付かないほど熟睡してしまう」という意味ですが、夜の眠りが浅いため、朝起きるのが辛く、日中うつらうつらと眠くなる、春の『血虚』による症状とも考えられます。
中医学の『肝』の機能とは?
中医学の『肝』は、西洋医学の肝臓のような臓器(=身体の一部)を指すのではなく、生きるために大切な機能、働きを表します。

肝には『蔵血(ぞうけつ)』と『疏泄(そせつ)』という働きがあります

『蔵血』は血を貯蔵し、必要に応じて供給する働き、
『疏泄』は気血を全身にめぐらせ、必要な部位に送り届ける働きだね
例えば、『血虚』で「目がかすむ」という症状が出ている場合、目は「血」を必要としています。そのため『肝』は貯蔵している「血」から必要量を目に優先して分配し、送り届けようとします。
春の『肝』は大忙し!
春は気血を必要とする部位が増えるため、血を分配して送り届ける肝の仕事も忙しくなります。
それでなくとも、春は肝に負担がかかりやすい季節です。
「早春の薬膳」でも解説したように、春先には冬の間に溜まった邪気(病気を引き起こす要因)をデトックスしようと体が動きますが、これも肝の働きによるものです。そのため、「早春の薬膳」では苦味食材を積極的に食べて、肝をサポートをすることが重要です。
また春は新生活の季節でもあり、環境の変化による精神的ストレスがかかりやすくなります。中医学では、臓腑ごとに苦手なもの(負担となる要因)があると考えますが、肝が苦手なのはストレスです。

春はただでさえ血虚やデトックスで大忙しなのに、ストレスも加わり、肝は限界ギリギリ。すると肝の不調による症状が起こりやすくなります。
『肝』の不調による症状
蔵血機能の低下
蔵血機能が低下すると血虚が悪化し、『陰虚』へと進行することがあります。
身体の水分の総称を『陰液』と呼びますが、血も『陰液』の一部なので、血が不足すると全体の『陰液』も不足して『陰虚』になります。
・ドライアイ
・足がつる、痙攣、目のピクピク
・皮膚の乾燥や髪のパサつき
・寝汗
・潮熱(毎日一定の時間帯に発熱する症状。陰虚の場合は午後や夜間。)
・手足の火照り、頬の紅潮
疏泄機能の低下
疏泄機能が低下すると、気のめぐりが悪くなり『気滞(肝気鬱結)』へと進行することがあります。「めぐりが悪い=流れない」ということなので、全体的に滞る、詰まるといった症状が多くなります。
・イライラ、情緒不安定(感情が流れない)
・消化不良、胸焼け、胃もたれ(食べ物が流れない)
・喉や胸の閉塞感、梅核気(喉に何か引っ掛かったような感じ)
・胸脇部(肋骨の下の辺り)の張ったような痛み
春の薬膳のおすすめ食材
自分の仕事なのに、肝は蔵血が苦手です。血や陰液を補う食材を積極的に食べて、肝をサポートしましょう。蔵血機能が正常であれば、疏泄機能も円滑に働きやすくなります。
・貝類、イカ、タコ、うなぎ、カツオ、鮭、サバ、にしん
・たまご、牛肉、レバー
・枸杞、桑の実、棗、竜眼、黒豆、黒ごま
・パセリ、人参、ほうれん草、よもぎ
高級品ですが、干し鮑も肝血を補うのにとても良い食材です。
・ハマグリ、牡蠣、貝柱、イカ、白魚、すっぽん
・枸杞、桑の実、黒豆
・山芋、人参、ほうれん草
・たまご、豚肉
・チーズ、ヨーグルト
うなぎ、いちご、桑の実、干し椎茸、レバーなど。
「甘味」と「酸味」を持つ食材もおすすめです。

甘味には補う力、酸味には引き締めて閉じ込める力(収斂)があり、両方を持つ食材は蔵血の助けになります。
特に目のかすみや皮膚の乾燥が気になるときにおすすめです。ビタミンCが豊富な食材が多いので、紫外線対策にも役立ちますね。
いちご、桑の実、柑橘類、トマト、山査子(サンザシ)、チーズ、ヨーグルトなど。
酢の物や「ぬた」も良いですね。

血を補う食材を食べても、『脾(消化器官』が健康でないと血を作ることができません。温かく消化にやさしい調理方法でいただきましょう。
五行の考えに基づいた食材選び
いろいろあって考えられない!という方は、色と味だけでも把握しておくと食材選びに役立ちます。
中医学では、自然界や人体を『五行(木・火・土・金・水)』に当てはめて分類します。これを五臓・五季・五色・五味に当てはめると以下のようになります。
五行 | 臓腑 | 季節 | 色 | 味 |
木 | 肝 | 春 | 青 | 酸味 |
火 | 心 | 夏 | 赤 | 苦味 |
土 | 脾 | 長夏 | 黄 | 甘味 |
金 | 肺 | 秋 | 白 | 辛味 |
水 | 腎 | 冬 | 黒 | 鹹味 |
上の表から、肝の不調が起こりやすい春には、「青いもの(山菜やハーブなど含む緑色の野菜、青魚)」「酸味のあるもの(柑橘類、いちご、トマトなど)」を意識して取り入れるのがおすすめです。
それだけで、春の疲れやすさや情緒不安定が改善されるかもしれません。
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