うなぎ

A title image featuring Eel from my “Spring Dietary Therapy” series. お店紹介

このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。

2025年3月20日(春分)〜5月5日(立夏)の期間を『春の薬膳』としてご案内しています。

春の土用

今日は春の土用の丑の日。

土用とは、陰陽五行説に由来する暦の「雑節」のひとつです。

「春の薬膳」でご紹介したように、中医学では自然界や人体を「木・火・土・金・水」の五行に分類し、それを陰陽と組み合わせて『陰陽五行説』と呼びます。

日本の暦(二十四節気)もこれに当てはめられており、四季を「春(木)」「夏(火)」「秋(金)」「冬(水)」に分け、残った「土」の要素を季節の変わり目に割り当てたものが「土用」です。

土用は年4回、立春・立夏・立秋・立冬の直前約18日間ずつに設定されており、季節の変わり目を意識するための暦上の工夫とも言えます。2025年の「春土用」は4月17日〜5月4日。春土用はちょうどゴールデンウィークと重なることもあり、私は毎年この時期に衣替えを行うことにしています。コートや厚手のストールをクリーニングに出し、扇風機やエアコンの準備をして、スリッパを夏用のものに買い替えます。

春土用は暑くもなく寒くもなく、思わずベランダガーデニングでも始めちゃおうかしら?なんて思ってしまいそうなほど気候が良い時期ですが、土用の期間は「土を動かしてはいけない(耕す・穴を掘るなど)」と言われています。土用の期間は、土を司る土公神(どくしん)という神様が地上を支配しているとされ、土を動かすと怒って祟りを起こすためだと考えられています。

ただし土公神が天上に昇り、地上にいなくなる『間日(まび)』であれば土に触れる作業をしてもOK。春土用の間日は「巳・午・酉」の日です。

土用の丑の日

土用と聞いていちばんに思い浮かべるのは「土用の丑の日」だと思います。日本では明治時代初期頃まで、日にちや年月、時間、方角などを十二支で表していました。

夏土用のうなぎが有名ですが、春土用でも同じく、うなぎを食べることを習慣化している人も少なくありません。春土用は寒暖差が激しく、体調を崩しやすい時期でもあるので、ビタミン豊富なうなぎは栄養補給にぴったりの食材です。

うなぎについて

うなぎと食文化

うなぎは長らく生態が謎に包まれてきた魚です。どこでどのように産卵し、どのような回遊ルートをたどるのか、未だ十分に解明されていません。

そんな正体不明な魚であるのに関わらず、うなぎは世界中で親しまれています。日本では蒲焼きやうな重が代表的ですが、イギリスではゼリー寄せ、フランスでは赤ワイン煮込み、オランダやドイツでは燻製やサンドイッチなど、調理方法も多彩です。

一方で宗教的理由からうなぎを食べない文化も存在します。イスラム教やユダヤ教では「鱗のない魚」として食用を禁じていますし、日本国内でも三島神社や大山祇神社など、大山祇神(おおやまつみのかみ)を祀る神社では、うなぎは神の眷属とされ、社地内での捕獲や食用が禁じられてきました。明治以降、この禁忌はほとんど廃れていますが、祈願中の禁食は現在も一部で残っているそうです。

養殖と天然

近年、うなぎは世界的に不漁が続き、価格も高騰していました。
一時期は「鰻を食べられなくなる日が来るかもしれない」「ナマズで代用するしかないのでは」と話題になったこともありますが、養殖技術の進歩により、2025年現在ではシラスウナギの漁獲量が回復し、価格も下落。国内の需要を十分にまかなえる状況となっています。日本のソウルフード・うなぎに対する、執念ともいえる情熱を感じます。

一方で、天然うなぎの漁獲量は大きく減少しており、現在流通しているうなぎのうち、天然ものはわずか1%程度にとどまっています。

天然うなぎは、背側が緑色~黒色、腹側が黄色味を帯びているのが特徴で、生息環境によって脂の乗り方や味に個体差があるそうです。河口域のうなぎはカニやエビなどを食べて育つため脂が乗りやすく、渓流のうなぎは泥臭さが少ないとのだとか。私にとっては今までも、そしてこれからも、口にする機会のない高級食材です。

関東・関西の違い

武家文化の根強い関東では、切腹のイメージを避けるため背開きにし、白焼き後に蒸してから、最後にタレをつけて焼くため、身がふっくら柔らかくなります。商人文化の根強い関西では、腹を割って話すイメージから腹開きにし、蒸さずにそのまま焼き上げるため、皮がパリッと香ばしく、身はしっかりとした食感になります。

また関西地方では、鰻を腹開きにし、頭を付けたまま蒲焼きにするのが伝統的な調理方法です。鰻の頭は「半助」と呼ばれ、豆腐やネギと一緒に煮る「半助豆腐」や「半助鍋」といった郷土料理にも使われます。鰻の頭からは良い出汁が出るため、素材を無駄なく活用する大阪らしい料理です。

福岡のうなぎの郷土料理

福岡では、うなぎの調理法は関西風が主流ですが、頭は切り落として調理されています。

また、福岡には「せいろ蒸し」という独自の調理方法も存在します。これは江戸時代の1681年、柳川(現在の福岡県柳川市)の料理人・元吉七郎兵衛が「柳川の人の口に合う料理を」と考案したのが始まりとされています。当時、柳川は天然うなぎの産地であり、藩の財源にもなっていました。

せいろ蒸しは背開き(当時は武家文化だったため)にしたうなぎを関西風に蒲焼きにし、錦糸卵とともにタレをまぶしたご飯の上にのせ、せいろで蒸し上げた料理です。ご飯もうなぎもふっくらと仕上がり、最後まで温かく食べられるため、漁師にも好まれた食べ方でした。

柳川市内には現在も約30軒のうなぎ屋があり、せいろ蒸しは観光客にも大人気の郷土料理となっています。

「筑後柳川屋(ちくごやながわや)けやき通り店」

今回お伺いしたのは、「せいろ蒸し」という名称を名付けたことで知られる「筑後柳川屋」さんです。昭和35年(1960年)、創業者の安永富士男さんが、当時「うなぎめし」と呼ばれていた柳川の郷土料理を「せいろ蒸し」と名付けました。この呼び名は柳川屋を通じて全国に広まり、現在では地元柳川でも一般的な名称として定着しています。

直営店は中洲本店、博多店、粕屋郡の「山椒の木」と「となりの山椒の木(テイクアウト専門店)」の4店舗。私がお伺いしたのは、グループ店のひとつ「けやき通り店」です。昼時になると、周辺に美味しそうなうなぎの香りが漂います。

Exterior of a traditional eel restaurant with a wooden sign and floral-patterned noren curtain
A warm welcome awaits with a time-honored wooden sign and a soft-colored noren curtain.

まずは「う巻き」と、私は「鍋島(冷や)」、同居人は瓶ビールを注文しました。
筑後柳川屋で提供されている鍋島の「鰻に合う酒」は、佐賀県の富久千代酒造が「うなぎ料理に合うように」と特別に造った日本酒です。柳川屋各店でしか飲めないオリジナル酒で、単体で飲むと「少し甘口かな?」という印象なのですが、うなぎと一緒にいただくと脂の旨みに負けない香りとコクがあり、なぜか後口がさっぱりします。

店内はあまり広くないのですが、お座敷、テーブル、カウンター席があり、家族連れからお一人様まで気軽に食事を楽しめます。今日は掘りごたつ席でした。土曜日でしたが、昼時を外して13時に予約したため、ゆっくりとくつろぐことができました。

A cozy Japanese-style room with a sunken kotatsu table and traditional decor
Relax and savor the traditional eel dishes in a peaceful room.

私は、せいろ蒸しのごはんと錦糸卵は大好きなのですが、うなぎがふっくらとやわらかすぎるため、パリッと香ばしいうな重の方が好みです。今日は「うな重(松)」をオーダーしました。「筑後柳川屋」さんはせいろ蒸しはもちろん、うな重も評判のお店です。好みでタレをかけつついただきます。

Grilled eel served in a lacquered box with steamed white rice topped with black sesame seeds
Fragrant grilled eel with glossy white rice — a simple yet luxurious meal.

同居人が「せいろ蒸し(竹)」をオーダーしたので、ごはんと錦糸卵を少し分けてもらいました。山椒をかけると、これだけでお酒がすすみます。

Grilled eel and shredded omelet served over steamed rice in a wooden seiro
Steamed eel rice with a gentle aroma of wood, topped with colorful shredded omelet.

美味しい肝吸いもいただいて、大満足の昼ご飯でした。

店舗情報

住所 福岡市中央区赤坂3-4-34(西鉄バス「赤坂三丁目」より徒歩1分)
電話 092-716-5350(予約可)
定休日 火曜日
営業時間 ランチ11:00〜15:00、ディナー17:00〜20:30

※変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗に確認してください。

本日のお会計

うな重(肝吸い、香の物付)「松」 3,780円
せいろ蒸し(肝吸い、香の物付)「竹」2,550円
う巻き 1,200円
鍋島「鰻に合う酒」一合 700円
瓶ビール 650円
合計 8,880円

うなぎの薬膳効能

A title image themed around seasonal herbal cuisine.

『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』元気幸房代表 竹内郁子編著:ブイツーソリューション出版より

うなぎは体力を回復する効果があると言われています。

中医学で詳しく解説すると…

「ニラ」の記事でも触れたように、『五臓』のひとつである『腎』は生命力の源とされており、『成長・発育・老化・生殖・精力』に深く関わっています。腎気が不足すると慢性的な疲労腎の機能が衰えると老化の加速や体力虚弱、精力減退につながると考えられています。

うなぎは中医学で『腎』を補う食材とされており、特に慢性的な疲労や加齢による体力低下、精力減退に効果が期待されます。ちなみに日本語でよく「精がつく」と表現される食材の多くは、『補腎』の作用を持っています。

また、うなぎには『肝』の『血』を補い、めぐらせる効能もあるとされています。

薬膳で「アンチエイジング効果がある」とされる食材の多くは、『補腎養肝』の作用を持つ傾向があります。腎を補う食材には老化や加齢に伴う諸症状(体力低下、筋力減退、骨の弱り、認知機能の衰えなど)を緩やかにする働きがありますし、肝を養うと血が身体のすみずみまでめぐり、白髪の予防や美しい肌、若々しくしなやかな肉体を保つのに役立つとされています。

うなぎはどちらかというと「若々しい美しさ」より「老化防止」向きの食材。特に高齢者や、体力が落ちている方の健康維持に適しており、筋肉や骨を強くする働きも期待されます。足腰の弱りや筋力低下、関節の痛みやしびれなどの症状が気になる方にもおすすめです。

栄養学的の観点から見ても、ビタミンB群(特にB1・B2)やタンパク質、エネルギー代謝に必要なミネラルが豊富で、疲労回復に効果があります。ビタミンB1はご飯などの糖質と一緒に摂ることでエネルギーに変換されやすくなるため、うな重は理にかなっています。

脂質も多く含みますが、その多くはDHA・EPAといったオメガ3系脂肪酸で、疲労感の軽減や集中力の維持、血液をサラサラにする効果も期待できます。
ただし胃腸が弱い方、消化不良気味の方は注意が必要です。

うな重には山椒がつきものですが、山椒にはうなぎの脂質の酸化を防ぎ、消化を促す作用があります。

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