このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2025年12月22日(冬至)〜2月4日(立春)の期間を『冬の薬膳』としてご案内しています。
山芋の種類
山芋は、ヤマノイモ科ヤマノイモ属に属するつる性の多年草です。
日本では、自然薯・長芋・いちょう芋・つくね芋など、いくつかの芋をまとめた総称として「山芋」と呼ばれています。
自然薯(じねんじょ)(学名:Dioscorea japonica)
「日本原産の山芋」として知られ、日本全国の山野に自生してきた在来種です。とても粘りが強く、まっすぐ・長く育った天然ものは特に価値が高いとされています。

長い間「栽培は不可能」とされていましたが、土に埋めたパイプの中で育てる方法が開発されたことで、近年では栽培された自然薯も市場に出回るようになりました。

①春に種芋を植えると、夏から秋にかけて地上部では蔓が伸び、細長いハート型の葉を茂らせます。地下では新たな地下茎が少しずつ伸びていきます。
※種芋は栄養源として消耗されていきます。
②秋になると、地上部では葉の付け根に「むかご」ができ、地下では地下茎が肥大化します。
※むかごとは、葉のわき芽が養分を蓄えて直径1〜2cmほどに肥大化したものです。
③晩秋〜初冬に地上部が枯れると、肥大化した地下茎(自然薯)が収穫期を迎えます。
地下に芋を残しておくと、その先から新たな芽が伸び、前年の芋は栄養源として消耗されます。次の年に肥大化する地下茎は前年のものより大きくなるため、三年目、五年目と年数を重ねるにつれて長くなり、その分価値も高くなっていきます。

自然薯の価値は「いかに長くて太いか」に関係するんだね

短く・塊状に栽培される短形品種もありますが、こちらは自然薯とはいえ比較的リーズナブルな価格で入手できます。
自然薯は、実はとても身近な場所にも生えています。私の身の回りでは家の近所の自然公園や、父が家庭菜園として借りている畑の隅でも、自然薯の葉を見つけることができます。父はそのむかごを、畑のオーナーさんと一緒に休憩時間のおやつとして楽しんでいました。

むかごは、そのままにしておくと茎についたまま地面に落ち、翌春に発芽します。そこから自然薯の苗として育ち、およそ2年ほどで種芋サイズに成長します。
長芋(学名:Dioscorea polystachya)
自然薯が野生由来の日本在来種であるのに対し、長芋は中国由来の栽培種と位置づけられます。同じ長芋系の仲間には、いちょう芋やつくね芋なども含まれます。
長芋の原産地は中国南部、特に雲南地方とされ、古くから薬用として知られてきました。中国最古の薬学書『神農本草経』には「薯預(しゅよ)」の名で登場し、唐代には「預」の字を避けて「薯薬」、宋代には「署」を避けて「山薬」と呼ばれるようになったと伝えられています。

古代中国では、公式な文章で皇帝の諱(いみな)と同じ字を用いることが禁じられていたのです。

その後、遣唐使によって平安時代に日本にもたらされたとする説が最も有力ですが、直接的な文献的根拠は確認されていません。日本文献に栽培種として明確に登場するのは江戸時代。初期に成立した軍記物語「清良記(せいりょうき)」に、中国由来の「つくね芋」が登場します。
いちょう芋(銀杏芋)・つくね芋
イチョウの葉のような形をした「いちょう芋」と、ゴツゴツした丸い形の「つくね芋」。どちらも長芋に比べて水分が少なく、ねっとりとした食感が特徴です。これらは「大和芋」として流通することもありますが、どうやら「粘りが強く、とろろに適した品種群」を「大和芋」と呼ぶ傾向があるようです。

産地としては、いちょう芋が千葉県・群馬県・茨城県など関東地方を中心に、つくね芋が兵庫県・三重県・奈良県・愛知県など近畿・関西地方を中心に栽培されているイメージがあります。
大薯(だいじょ)(学名:Dioscorea alata)
福岡では、いちょう芋やつくね芋はあまり見かけません。
「つくね芋」として売られている、形がよく似た大きな芋を目にすることがありますが、これは「大薯(だいじょ)」と呼ばれる別の品種です。
大薯も「山芋」の一種で、原産地は東南アジアとされています。主な産地は鹿児島県(とくに奄美大島)や沖縄県などの温暖な地域。鹿児島県では和菓子の”かるかん”、沖縄県ではウベアイスクリームの原料として使われることもあります。
おすすめのとろろ|外で食べる店・家で楽しむ商品
【外で食べる店】筥崎とろろ
私はとろろが大好きなのですが、自然薯は高価で手に入りにくいので、「外で食べるもの」という認識です。福岡市内でおすすめなのが【筥崎とろろ】さん。
箱崎宮の近くに築100年以上の古民家を利用した本店があるそうですが、そちらにはまだお伺いしたことがありません。いつも利用しているのは、野間にある高宮通り店です。14席のこぢんまりした空間で、落ち着いて過ごすことができます。

名物は、福岡県那珂川市の自社農園で栽培した自然薯「九千部朱薯」を使った「とろろ飯」。ふんわり軽いのに濃厚で、本当においしい!赤出汁のお味噌汁との相性も抜群です。夜は豚の角煮や日替わりの一品料理とともに日本酒も楽しめるので、ひとりでゆっくり美味しいものを食べたい日にぴったりのお店です。
【家で楽しむ商品】株式会社OGURA 山の芋粉末
こちらは気軽に”とろろ欲”を満たせる心強いアイテム。株式会社OGURA(旧:おぐら製粉所)さんの「山の芋粉末」です。
JAあきた北農業協同組合と契約栽培した良質なつくね芋を、フリーズドライで粉末化しています。水を加えるだけで生のような粘りと風味が出るため、食べたい時にすぐ食べられるのが魅力。自宅はもちろん会社にも常備していて、お弁当を準備できなかった日にごはんや味噌汁にかけて重宝しています。
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長芋の旬と産地
家で食べるなら、私は長芋一択です。水分が多くシャキシャキとした食感で、あっさり軽く食べられるところが好み。スーパーでいつでも買えるところも魅力です。
福岡で出回る長芋は、北海道産か青森産がほとんど。全国的に見ても、この2道県で生産量のおよそ9割を占めているそうです。九州でも栽培されていますが、温暖な気候のため貯蔵に向かず、旬の走りの時期にしか手に入りません。
長芋の旬は秋(主に10〜11月)と春(3〜5月)の年2回あります。
秋掘り長芋は、10〜11月頃に収穫され、みずみずしくシャキシャキした食感が特徴。長芋短冊や漬物など、生でそのまま食べるのがおすすめです。収穫後は冷暗所で貯蔵され、12〜1月頃まで流通します。
一方、春掘り長芋は、秋に掘らず土中で越冬させたもの。寒冷地の低温環境で休眠状態に入り、新芽が出る前に収穫されるため、栄養源としてあまり消耗されず、むしろ旨み成分が凝縮されます。その結果甘みとねばりが強くなるため、春堀り長芋でとろろを作ると、ねっとり濃厚で一段とおいしく感じます。
長芋の下処理とおすすめレシピ
長芋の下処理と保存方法
秋掘り長芋は皮が薄いため、皮ごと食べるのに向いています。
長芋の栄養分は皮の近くに特に多く含まれており、薬膳でも長芋を扱う際は、基本的に皮ごと使用します。下処理としてよく紹介されるのが、「コンロの火でヒゲ根を焼く」方法ですが、私は農薬除去も兼ねてアルミホイルで全体の表面をこすり洗いしています(※たわしを持っていないため)。
長芋を扱うと手がかゆくなることがありますが、これは主に皮の近くに含まれるシュウ酸カルシウムが原因です。シュウ酸カルシウムは針のように尖った結晶で、手で触れたときだけでなく、食べる際にも皮膚に刺さり、刺激によってかゆみを引き起こします。
これはアレルギー反応ではなく、あくまで物理的な刺激によるもの。そのためゴム手袋を使えば防ぐことができます。私は使い捨てのニトリル手袋をまとめ買いし、家事の際によく使用しています。
ニトリル手袋は耐油性・耐化学薬品性が高く、薄手ながら強度があり、ラテックス(ゴム)アレルギーの方にも比較的安全。仕事では着脱しやすいパウダータイプを使っていますが、家では手荒れしにくいパウダーフリータイプを使用しています。その分着脱しにくくなるため、大きめのサイズを選んでいます。
長芋を切ってから保存すると、断面がピンクや茶色に変色し、えぐみが出ることがあります。これはポリフェノールの酸化によるものです。断面を酢水にくぐらせてからラップする方法もありますが、私のおすすめはキッチンペーパーで断面をしっかり覆い、その上からぴっちりとラップで包む方法。このやり方だと一週間以上は断面が白いまま保存できます。
また「山薬」のように干して乾燥させたり、とろろにして冷凍保存することも可能です。食べる際は、前もって冷蔵庫で自然解凍しておきます。

【おすすめレシピ】博多名物”山芋鉄板”
とろろを作るときにはフードプロセッサーの擦り下ろし機能を使っていますが、正直「今日は出すのも洗うのも面倒…」って日もあるので(笑)、そんなときは乱切りにした長芋をポリ袋に入れて、袋の上からバンバン叩き潰します。
とろろを鉄板で焼いた「山芋鉄板」は、福岡の居酒屋で定番の一品。屋台発祥ともいわれますが、どこの屋台なのかはハッキリしていません。福岡のスーパーでは家庭で簡単に作れる「山芋鉄板の素」が売られているほど、暮らしに馴染んだメニューです。
居酒屋では小さめの鉄板で出てくるのが定番スタイル。わが家では直径20cmくらいの小さめのフライパンで焼いて、そのまま食卓に出します。お店によってはキャベツやネギが入っていたり、お好み焼き風にソースをかけたり、明太子やチーズをトッピングしたり…アレンジもいろいろ。ここでは基本の生地をご紹介します。

① 下処理した長芋250gを乱切りにしてポリ袋に入れ、袋の上から叩き潰します。
② 溶きたまご1個、くばらあごだしつゆ大さじ1、薄力粉大さじ2を加えて混ぜ合わせます。
③ フライパンに多めの油を入れて生地を流し込み、蓋をして中火で4分。ひっくり返して少し火を弱め、蓋をせずさらに4分焼きます。
④ わが家ではかつおぶしをたっぷりかけ、味付け海苔で巻きながら食べるのが定番です。ポン酢にもよく合います。
山芋の薬膳効能

山芋には「加齢や体力の衰えによるトラブルに役立つ」作用があるとされています。
山芋は『腎精』を補う働きがあるとされています。
「冬の薬膳」でご紹介したように、『精』とは成長や発育に関わる”生命の源”のようなもの。これが不足すると「疲れやすい」「体調を崩しやすい」といった、いわゆる「元気がない」状態になるだけでなく、子どもなら発育不良、成人なら老化の促進や生殖機能の低下にもつながると考えられています。
『精』には父母から受け継いだ「先天の精」と、日々の食事から得られる「後天の精」があります。『腎精』は先天の精を土台にしつつ、後天の精によって養われる、というイメージです。 先天の精は広い意味では「体質」に近く、基本的には変えることができませんが、「後天の精」によって補い、強めることはできるとされます。
『補血』によって腎精を支えるプルーンや鶏レバー、抗酸化作用によりエイジングケアにつながるブロッコリーやキャベツなど、間接的に『腎精』をサポートする食材はいろいろありますが、直接的に『腎精』を補う食材は、うなぎやすっぽん、豚肉、烏骨鶏のたまごなど数少ない印象です。そんな中で、山芋は肉や魚に比べ消化しやすく、しかも手に入りやすい。
そのため昔から食材としてだけでなく、生薬(山薬)としても使われてきました。腎の働きを整える代表的な処方である「六味地黄丸(陰=うるおいを養う作用)」や「八味地黄丸(陽=あたためる機能を補強する作用)」にも配合されています。
エイジングケアとして『腎精』を補うなら、「少量ずつ・コツコツと」食べるのが大切。私も45歳を超えたあたりから、意識して山芋を食べるようになりました。
また『腎精』は過労や久病(長期間の病気)で減りやすいとされているため、繁忙期や病み上がりの回復食にもおすすめです。ごはんを作る気力がないときは、インスタントのお粥に水で戻したOGURAの山芋をかけ、レンジで温めて食べています。
栄養素的には
山芋のネバネバ成分は、「ムチレージ」と呼ばれる水に溶けやすい植物由来の粘性物質です。胃腸の粘膜を保護し、消化を助ける働きがあります。アミラーゼなどの消化酵素も含まれているため、全体として消化に優れた食材と言えます。栄養素の消化吸収をサポートすることから、疲労回復に役立つとされています。
ポリフェノールも含まれますが、主成分は酸化酵素と反応して自己酸化しやすいドーパミン類と呼ばれる物質です。そのため一般的な抗酸化作用についてはあまり期待はできません。
また、本文中で解説したシュウ酸カルシウムによる物理的刺激以外に、稀ではありますが「IgE依存型アレルギー」が報告されています。摂取後に紅斑、蕁麻疹、浮腫、呼吸器症状(咳・喘鳴)などを引き起こす可能性もありますので、とくに年齢が低いうちは注意が必要です。様子を見て少量からお試しください。
おすすめの薬膳書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。

先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版



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