菊美人酒造

Two bottles of Kikubijin sake in deep blue glass: “Summer Junmai - Fireflies Dancing in the Lapis Night” and “Suzunari”. 日本酒

「今夜は何を飲もうかな」と酒屋さんをブラブラしていたとき、ふと目に留まったのは蛍が描かれた一本のラベル。夏らしい爽やかなデザインはよく見かけますが、これは夏の始まりよりも少し手前、梅雨の夜を思わせるような、落ち着いた雰囲気のラベルでした。深い青色のボトルも涼しげで素敵。思わず“ジャケ買い”してしまいました。

菊美人酒造

福岡県みやま市瀬高町にある「菊美人酒造」は、創業約300年の歴史を持つ老舗酒蔵です。

6代蔵元・江崎喜三郎氏の妻である加代夫人は、詩人「北原白秋」の実姉として知られています(瀬高町は白秋の出身地・柳川市に隣接)。酒蔵には白秋直筆の「菊美人」の墨書が保存されており、酒瓶のラベルにも使用されています。

Calligraphy by Hakushu Kitahara on the label of Kikubijin “Suzunari” sake
The calligraphy of “Kikubijin” was written by poet Hakushu Kitahara, reflecting the deep connection between the brewery in Miyama and Kitahara’s hometown of Yanagawa.

酒蔵情報

住所 福岡県みやま市瀬高町上庄183(堀川バス「山門高校前」から徒歩1分
電話 0944-62-3001
定休日 土曜・日曜・祝日
営業時間 10:00~16:00
酒蔵見学 可能な場合あり(平日:要予約)
蔵開き 3月中旬頃

※変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。

新コンセプト「花を贈るように」

菊美人酒造は、伝統を守りつつ新しいことにも挑戦しています。

10代目となる江崎隆一郎さんが昨年末に行ったクラウドファンディングもその一例。「花を贈るように、日本酒を贈って欲しい」というコンセプトのもとに、スリーブ・桐箱・ボトル・ラベル・タグ全てを一新し、贈答用日本酒市場への本格参入を目指しました。

これが、本当に素敵なんです…!

従来の日本酒の選択基準は「純米吟醸」「磨き歩合」「9号酵母」といった、いわゆる“スペック”によるものでした。

新コンセプトでは、「移ひ菊(うつろいぎく)」「芽吹(めぶき)」「月映(つくばえ)」といった詩的な名前がつけられており、贈る相手や場面を思い浮かべながら、日本酒を「花のように」選ぶ楽しさがあります。

いずれも北原白秋の詩などに由来しており、ひとつひとつに物語が込められています。これ、文学好きにはたまらないんじゃないかしら…?ぜひこちらの【公式サイト】でご確認ください。

「菊美人」夏の純米 瑠璃色ノ夜ニ蛍舞フ

今回私が購入した蛍のラベルは、5月に発売されたばかりの限定酒。その名も「菊美人・夏の純米 瑠璃色ノ夜ニ蛍舞フ」です。なんて美しい名前でしょう!
七十二侯の「腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)」の頃(6月10日〜6月15日頃)、誰かに贈ってほしい一本です。私は自分でもう一本買う予定ですけど。

開栓すると、純米酒らしからぬフルーティな香り。福岡のオリジナル酵母「F44」を使用しているためだとか。ひとくち飲むと、涼やかでキレのある味わい。「きんきんに冷やしてお楽しみください」とのことでしたので、おつまみを準備して夜を待ちました。

“Kikubijin Summer Junmai” sake in a dark blue bottle, served with roast beef marinade and pumpkin salad.
Paired with the refreshing “Fireflies Dancing in the Lapis Night” summer sake are roast beef marinade and pumpkin salad with cream cheese—a luxurious home pairing.

用意したのは、クリームチーズ入りのかぼちゃサラダと、ローストビーフのマリネ。爽やかながらも米の旨味をしっかりと感じられる日本酒なので、コクのある食材を選びました。どちらもしっかりした味なのに、不思議と後味は軽やか。14度という低アルコールのためかもしれません。

「菊美人」 特別純米 鈴なり

「花を贈るように」シリーズから「鈴なり」も購入しました。シンプルなラベルが素敵な一本です。

菊美人酒造では、9代目の江崎俊介さんの時代に「やぶた(自動しぼり機)」を廃止し、すべての酒を伝統的な「雫しぼり」と「槽(ふね)しぼり」に切り替えました。大量生産や効率化を追求するのではなく、伝統的な手仕事の価値を重視しての決断でした。

瀬高町にはかつて40軒以上の酒蔵がありましたが、今では残るのは菊美人酒造ただ一軒。この地に酒の文化を残すための覚悟が伝わります。

「鈴なり」は酒袋に詰めたもろみを重ねて時間をかけてしぼる「槽しぼり」で造られています。時間と手間がかかるので少量しか生産できませんが、雑味の少ない奥深い味わいになるのだとか。

Label of Kikubijin “Suzunari” featuring the mark of traditional “Fune Shibori” pressing
“Fune Shibori” is a traditional sake pressing method using cloth bags and gravity. This seal marks the dedication to time-honored craftsmanship.

「冷や(常温)かぬる燗で」とのことでしたので、まずは冷やでひとくち。シンプルなラベルの印象通り、とても澄み切った味わいです。米の甘さも感じますが、ドライで何にでも合いそうな一本です。

公式サイトには「“鈴なり”(植物がたわわに実る様子)のように、このお酒が食卓を豊かに彩る存在であってほしい」との願いが込められていると書かれていました。食中酒におすすめです。

味の濃い料理とも合いそうだったので、福岡県北九州市発祥の唐揚げ専門店「唐十」の手羽唐揚げをあ購入。九州醤油を使用した甘辛い味付けで、これが「鈴なり」と驚くほどよく合いました。同居人の”つまみボックス”からこっそり拝借したセブンイレブンの「イカ天海苔天」も、これまた相性抜群。おつまみの半ばにして、一本空けてしまいました。四合瓶を買うべきだった…。

“Kikubijin Suzunari” sake paired with chicken wings, lettuce, and squid tempura snacks
Sweet soy-glazed chicken wings and crispy squid tempura pair perfectly with the crisp, slightly dry “Suzunari.” A surprisingly smooth and satisfying combination.

次は「雫しぼり」と「槽しぼり」の味の違いを比べてみたくなりました。父の日に「移ひ菊」を贈って、父と一緒に飲もうかな…。父のイメージだと、本当は「月映」なんですけどね。

こんなふうに“あの人に何を贈ろうか”と考える時間も、菊美人シリーズの魅力のひとつです。

本日の日本酒

「菊美人 夏の純米 瑠璃色ノ夜ニ蛍舞フ」
660円(税込) 300ml

「菊美人 特別純米 鈴なり」
650円(税込) 300ml

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