光栄菊酒造

A table scene with Koueigiku “Sukai” sake and appetizers 日本酒

先日の昼下がり、ふらりと立ち寄った酒屋さんで、「超おすすめ」のポップに釣られて手に取った1本。それが「光栄菊酒造」さんの「光栄菊 Sukai(スカイ) 無濾過生原酒」でした。

光栄菊酒造

「光栄菊酒造」さんといえば、無濾過・生原酒・無加水。

華やかでフルーティな香りと、ジューシーで軽やかな甘酸っぱさといった味わいが、近年の日本酒のトレンドとしっかりリンクしています。また、一般的な日本酒のアルコール度数(15%前後)よりもやや低めの12~14%程度に設計された商品が多く、日本酒ビギナーにも飲みやすいのが特徴です。

最近は火入れにも積極的に取り組んでおり、 今回の「Sukai」のように“火入れでも軽快さを失わない系”も増えてきているようです。

気になって他のラベルも検索してみたところ、種類の豊富さにびっくり!ザッと一部だけでも、こんな個性派が揃っていました。

  • 月光(Gekko):やや落ち着いたタイプ
  • アナスタシア・グリーン:白ぶどうのような爽やかさ
  • スノウクレッセント:冬季限定、酸と甘みのバランスが絶妙な一本
  • Hello! KOUEIGIKU:入門編としておすすめ

どの銘柄も酒米を厳選して仕込んでおり、同じ銘柄名でも酒米を変えてリリースされることがあるそうです。酒米ごとに飲み比べしてみるのも楽しそうですね。

創業までの道のり

「光栄菊酒造」が創業したのは、2019年。酒蔵としてはかなり新しい存在です。
その立ち上げの背景には、まるで運命のような出会いと、いくつものドラマがあったのだとか。

はじまりは、NHKのテレビ番組制作。
「日本酒」をテーマに番組を制作していた日下さん(現光栄菊社長)と田下(取締役)さん。取材を重ねるうちに、「ただ報道するだけではなく、自分たちで酒を造りたい」という思いが生まれます。その想いはやがて本気となり、日下さんは長野県の酒蔵で修行を開始しました。

そんな中、2人の心を射止めたのが愛知県の「藤市酒造」さんが手がける「菊鷹」。
“酸のある旨みのしっかりした酒”として知られるこの一本に、2人は衝撃を受けたそうです。醸していたのは、伝説の杜氏・山本克明さん。「この杜氏と一緒に酒を造りたい」。そう強く願った2人は、山本さんとの出会いを果たし、新たな酒蔵の立ち上げを決意します。

しかし、現実は簡単ではありません。
新しく酒造免許を取得するのは困難であるため、休眠や廃業した蔵を探すも、なかなか縁がつながらない日々。

そんなとき、佐賀県小城市に、2016年に廃業した「光栄菊酒造」の蔵が使われずに残っているという話が舞い込みます。さっそく現地を訪ねてみたところ、建物の状態も良く、改修すれば使えそうだと判断。蔵を改修し、3年後の2019年に「新・光栄菊酒造」としての新たな一歩が踏み出されました。

銘柄名は、この地でもう一度「光栄菊」を飲んでもらいたいとの思いから、あえて旧名を継承されたそうです(「菊鷹」の“菊”とのご縁も込められています)。

ところが、いよいよ酒造りを…というタイミングで、九州北部豪雨が蔵を襲います。

試験醸造もできないまま、ぶっつけ本番で初仕込み。
伝説と呼ばれるほどの山本杜氏であっても「絞るまで胃が痛かった」と語るほどの状況でしたが、出来上がった新酒は期待を大きく上回るほどの仕上がりに。販売直後からかなりの反響を呼び、「新・光栄菊」は大きな注目を集める存在となったのだそうです。

酒蔵情報

住所 佐賀県小城市三日月町織島2602-3
電話 0952-97-6710
定休日・営業時間 公表なし(見学・販売は基本非対応)
酒蔵見学 不可
蔵開き 情報なし

光栄菊 Sukai(スカイ) 無濾過生原酒

今回購入した「Sukai」は、光栄菊シリーズの中でも特に“空のように澄んだ広がり”をイメージさせる、軽やかで清涼感のある一本。暑い季節にぴったりの味わいです。

まず驚かされたのが、シュワシュワと感じるガス感です。「火入れのはず…!?」とラベルを二度見してしまうほど、生酒に近いフレッシュな発泡感があります。

調べてみると、「Sukai」は火入れしてるのにもかかわらず微発泡が残るという、まさに“謎テクノロジー”な日本酒。これは山本杜氏による独自の技術と、瓶詰・管理工程の絶妙なバランスによって生まれるものだそうです。

推測されるメカニズム

・酵母の活動が完全には止まらない温度で、極めてソフトな火入れ
・そのまま瓶詰めして密閉
・冷蔵保管することで、火入れ後も瓶内で微弱な発酵が継続
・結果として、わずかなガスが発生&封じ込められる

つまり、「ギリギリ酵母がちょっとだけ生きてる状態での瓶内微発酵」というところでしょうか?

そして…とてつもなく香りが良い!!

普段なら「桃のようにフルーティー」とか「シトラス系の爽やかさ」といった例えをするところですが、あまりに香りが複雑で、既存のフルーツワードで言い表せません。語彙をなくすほど、ただただ「香り高い」としか言いようがない…。とにかく香り高い(笑)!!!!

肝心のお味はというと、辛口で爽やかな飲み口でありながら、米の旨みがたっぷり。淡麗辛口と芳醇旨口の”いいとこ取り”のような、絶妙なバランスの味わいです。そんな唯一無二の味わいながら、ペアリングの可能性は無限大…。どんなおつまみにも合いそうで、味見しながらワクワクしました。

そのままスイスイッと1本空けてしまえそうでしたが、「光栄菊」はどれも「冷蔵保管が必須」で、開栓後も冷蔵で少しずつ味の変化が楽しめるとのこと。せっかくなので変化とペアリングをじっくり楽しむべく、3日に分けて味わってみることにしました。

1日目

まずは夏らしくさっぱりと、「いりこの南蛮漬け」と「山形のだしかけとろろ」を合わせてみました。

Namban-style marinated dried sardines and Yamagata-style chilled grated yam with vegetable relish
Sweet vinegar marinade, herbaceous veggie relish, and mellow grated yam—each element harmonizes beautifully with the fragrance of Sukai.

甘酢をしっかり吸い込んだいりこの旨み、夏野菜の青っぽさを楽しむ山形の「だし」、そしてねっとりまろやかなとろろ。それぞれ個性の強いおつまみですが、すべて相性抜群です。

食べながら、「逆に合わないものってあるのかな?」と考えてみましたが、まったく思い浮かばず。和・洋・中・エスニック、すべて網羅できそうな懐の深さを感じました。

あまりに美味しくて、食後も「あと一口だけ…」「もう一口だけ…」と、なかなかグラスを置けません。3日間は持たせなければならないので、名残惜しさを感じつつも、なんとか自制して切り上げました。
おつまみがなくても、お酒単体で十分に満足できる味わいです。

2日目

昨日があっさりした夏野菜メニューだったので、2日目は少し冒険して、こってり&ガツン系の炒め物を合わせてみました。

Stir-fried eggplant, bell pepper, and beef with miso; marinated dried tomatoes and cheese
Bold miso and rich dried tomatoes—Sukai’s crisp dryness holds its own against the hearty flavors.

メインは「茄子とピーマンと牛肉の味噌炒め」。副菜は「ドライトマトのマリネとフレッシュチーズ 」です。「Sukai」の酸味や香りを押しのけてしまうかな?と少し不安でしたが…。

意外や意外!昨日のさっぱりメニューに対しては”米の旨み”や”芳醇な香り”が際立っていたのに対し、今日のようなこってりメニューに対しては、逆に”辛口の軽快さ”が前面に出てきます。 

本来なら、ガス感やフレッシュさが落ち着いた分、熟成された酸味や丸みのある旨みが出てくるはずの2日目。なのに、このキレキレのドライ感…!

ペアリングによってここまで印象が変わる日本酒に出会ったのは初めてです。あっさり料理には芳醇さが、コクのある料理には軽快さが引き立ち、どんな料理と合わせても、偏らず「ちょうどよく中和」してくれる感じ。これこそ、真の“食中酒”なのかもしれません。

3日目

3日目は、お酒の味わいがよりマイルドになっているだろうと予想し、料理はあえてシンプルに。「長芋のオリーブオイルソテー」と、「トマトとたまごの炒め物(ノンオイル・テフロン使用)」を用意しました。どちらも味付けは塩のみです。

Tomato and scrambled egg stir-fry with sautéed yam. Koueigiku “Sukai” sake bottle in the background.
On day three, the sake’s mellow flavor is paired with simply seasoned dishes: tomato scrambled eggs and sautéed yam, highlighting the rich umami of Koueigiku’s rice.

結果は予想通り。シンプルな味付けの料理に対しては、芳醇な米の旨みが前面に出てきます。
ほんとうに、絶妙なバランス…。

お酒自体も、初日のジューシー&フレッシュから、「なめらかな米酒」へと変化した印象です。

三夜にわたって飲み進めた「光栄菊Sukai」。フレッシュさ、軽快さ、熟成感、芳醇な旨み————毎日違う顔を見せてくれたのに、どこを切り取っても“ちょうどいい”。料理を主役にもしすぎないし、脇役にもなりきらない、絶妙な立ち位置で食卓を彩ってくれる最高の日本酒でした。

オマケ:理想の4日間

もう一度手に入れることができれば、こんなふうに楽しみたいと思っています。

 【1日目】
フレッシュな感度とガス感を存分に味合うため、おつまみはシンプルに。
板わさやわさび芋のような“静かな名脇役”で。

 【2日目】
ガス感が少し落ち着き、本来の軽快さや辛口の喉越しが際立つ頃。
焼き鳥(塩)のような、ちょっとパンチのあるおつまみと一緒に。

【3日目】
米の旨みがじわりと全面に出てくるタイミング。
今こそ発酵系でしょう!味噌漬けの焼き魚や、具沢山の豚汁に。 

【4日目】
あえてコップ一杯分だけ残しておいた光栄菊を、ぬる燗で。寝る前にしみじみと味わう一杯…。

購入できるショップ

佐賀県小城市に位置する「光栄菊酒造」さんでは、一般向けの蔵見学や直売は行っておらず、購入は特約店を通じた販売のみとなっています。

特約店の数は全国に100店舗弱と限られており、生産量の少なさと相まって、入荷→即完売というケースも少なくありません。とくに限定商品は、発売日をチェックしていないと手に入りにくいほどの人気ぶり。現在は海外でも注目が高まっており、今後ますます入手困難になることが予想されます。

もしオンラインなどで購入できるチャンスがあれば、迷わず手に入れるのが正解です!
以下のショップでは、光栄菊シリーズの一部を取り扱っています。気になる方は、ぜひ覗いてみてください。



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