このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2026年5月5日(立夏)〜6月11日(入梅)の期間を『初夏の薬膳』として、春・初夏・梅雨におすすめの食材をご案内しています。詳しくは「季節ごとの養生」をご参照ください。
緑茶の雑学
立春から数えて88日目にあたる5月2日は、雑節のひとつ「八十八夜」です。 日本では4月上旬に一番茶の茶摘みが始まり、八十八夜を過ぎた頃に最盛期を迎えます。

お茶の原産国
チャノキ(茶の木、学名:Camellia sinensis)はツバキ科ツバキ属の常緑樹で、緑茶・紅茶・ウーロン茶など世界中で飲まれるあらゆる「お茶」の原料となる植物です。大きく中国種とアッサム種の2種に分けられ、緑茶は主に中国種から加工されます。
中国種は比較的耐寒性が高く、野生状態では3〜5m前後に育ちます。一方、アッサム種は野生状態では8〜15mにも達しますが、寒さや乾燥には弱い性質があります。

原産地は中国西南部(雲南省)を中心とした地域とされていますが、詳細は今も解明されていません。今でも野生化した個体が熱帯から暖帯にかけてのアジア各地に広く分布しています。
「緑茶=日本茶」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、国別の消費量トップは中国です。烏龍茶のイメージが強い中国ですが、世界の緑茶消費量の半数以上を占めており、中国国内で生産されるお茶の約6割は緑茶として消費されているそうです。
緑茶は多くの国々で親しまれていますが、実は何も加えずそのまま飲むという日本人にとってごく当たり前な飲み方は、世界的に見ると少数派といえます。中国でも一部の地域では緑茶に砂糖を入れる文化がありますし、北アフリカのモロッコでは緑茶に砂糖とミントを加えたミントティーが定番です。ベトナムやタイなどの東南アジアでも、緑茶に砂糖を加えるのはごく一般的なことです。

近年では欧米でも健康志向の高まりとともに緑茶の人気が高まっていますが、抹茶ラテや抹茶スイーツのように砂糖を加えた状態で楽しまれることがほとんどです。
お茶の中国史
「黒大豆」の記事でもご紹介しましたが、中国最古の薬学書『神農本草経』のタイトルにある「神農」は中国神話に登場する伝説的な帝王です。さまざまな草木を自ら試食して薬効や毒性を調べ、何度も毒にあたっては茶の力で解毒したと言われています。こうして発見した薬の効能によって多くの民衆が救われ、神農は薬祖神として祀られるようになったとされています。
お茶ははじめ、薬としてそのまま葉を食べたり、煎じたりするものでした。飲用の習慣は四川省近辺の茶産地から始まったとされ、やがて上流階級の嗜好品となり、唐の時代には庶民の間にも広く普及していきました。

この頃のお茶は、茶葉を蒸して固めた餅状のもの。飲む時は削って粉砕し、塩を入れた湯で煮ていました。宋代になると、削った茶葉をさらに粉状にすり、抹茶のように点てて飲むスタイルへと変わります。
大きな転機が訪れたのは明代です。茶葉を固める固形茶(団茶)は製造に手間がかかるとして禁止令が出され、バラバラの茶葉(散茶)にお湯を注いで飲む、今と同じスタイルが定着しました。固形にする必要がなくなったことで蒸す工程も不要となり、かわりに釜炒り製法が広まります。これが、現代の中国緑茶につながる製法の原型となりました。

お茶の日本史・抹茶
お茶が日本に伝わったのは、遣唐使が往来していた奈良・平安時代のことです。最澄や空海といった留学僧が唐からお茶と種子を持ち帰ったのが始まりとされており、平安初期の歴史書『日本後紀』に喫茶の最古の記述が残っています。当時の茶はごく限られた上流階級だけが口にできる貴重なものでした。
鎌倉時代になると、日本臨済宗の開祖・栄西が宋に渡って禅宗を学び、帰国後にお茶の効能を説いた養生書・医学書『喫茶養生記』を著しました。そこには「碾茶(てんちゃ:抹茶の原型のようなもの)」についての記述があります。

栄西の影響で禅寺に喫茶の文化が広まると、やがて社交の道具として武士階級にも浸透し、室町時代から安土桃山時代にかけて「侘茶(わびちゃ:わびさびの精神性を重んじる茶の湯の様式)」が完成されていきました。この茶の湯で用いられたのが、碾茶を石臼で挽いて粉末にした抹茶です。侘茶は、後の表千家・裏千家・武者小路千家の三千家に受け継がれ、現在の茶道の核心となっています。
お茶の日本史・煎茶
上流階級が茶道で抹茶を楽しむ一方、庶民が口にできたのは碾茶を製茶する際に出る茶葉の残りかす(折物)を鍋で煮出した、黄色〜茶色の粗末なお茶でした。製茶されたお茶も存在していましたが、蒸した後にそのまま乾燥させるだけだったため色が黒っぽく、味も良くないものでした。
蒸した後に「揉む」工程を加え、現在のような美しい緑色の「煎茶」を考案したのは江戸中期の永谷宗円(ながたにそうえん)。宗円は15年もの歳月をかけてこの「青製煎茶製法」を確立し、お茶を美しい緑色に変えただけでなく、香りも味も格段に優れた高品質の煎茶をつくり出しました。その後、1858年の日米修好通商条約の締結を機に貿易が本格化すると、煎茶は生糸とともに重要な輸出品として海外へと渡るようになります。

煎茶は明治中期まで輸出の花形でしたが、紅茶の台頭とともに輸出が衰退。その流れのなかで国内消費が拡大し、やがて庶民の日常に根付いていきます。それ以前の庶民にとって日常の飲み物といえば水や白湯が基本で、茶はながらく贅沢品・薬の位置づけでした。煎茶が「当たり前の飲み物」になったのは大正末期から昭和初期のことで、実はそれほど昔のことではないのです。
緑茶の種類
緑茶の成分
緑茶の味を構成する主な成分は、カフェイン・カテキン・テアニンです。
🍵カフェイン=緑茶の苦味の主成分
🍵カテキン=緑茶の渋み・苦味の主成分
🍵テアニン=緑茶の旨味・甘みの主成分
その年の一番最初の新芽を用いて作られるお茶が「新茶」、新芽を刈ったあとに育ってきた芽を用いて作られるのが「二番茶」、その次の芽で作られるのが「三番茶」。若い芽ほどカフェインとテアニンを多く含みますが、テアニンは太陽光に照らされることでカテキンに変化するため、二番・三番茶はテアニンが減り、カテキンが増加します。
- テアニン・カフェイン:初期の若い芽 > 一番茶 > 二・三番茶
- カテキン:二・三番茶 > 一番茶
カフェイン・カテキンが多いと渋みと苦みが合わさったスッキリした味わい、少ないとゴクゴク飲めるようなさっぱりした味わいになります。また玉露など、テアニンが多いお茶は甘みと旨味が豊かで芳醇な味わいになります。
緑茶の種類
日本の緑茶は、「栽培時に覆いをするかしないか」によって大きく2つに分類されます。お茶の旨み成分であるテアニンは日光を浴びて渋み成分のカテキンに変わるため、栽培時に茶樹に覆いを掛けて日光を遮る「被覆(ひふく)」を行うことで、カテキンの生成を防ぎ、甘みと旨味を残すことができます。また日光が遮られた環境で育てられた茶葉は、葉緑素(クロロフィル)が分解されにくいため緑色が濃く、深みのある青みがかった色になります。

- テアニン(旨味):玉露 > かぶせ茶 > 煎茶 > 番茶
- カテキン(渋み・苦味):煎茶・番茶 > かぶせ茶 > 玉露
- カフェイン(苦味):玉露 > 煎茶 > 番茶・ほうじ茶

被覆しないもの(露天栽培)
煎茶
茶葉を「蒸す」「揉む」「乾燥させる」工程で作られるお茶。
日本の緑茶の中で最も生産量が多く、私たちが日常的に飲んでいる緑茶のほとんどがこれにあたります。露天栽培のため日光をたっぷり浴びて育つことから、テアニンの多くがカテキンへと変換され、旨味よりも渋みが際立つスッキリとした味わいになります。カフェインも比較的多く含まれているため、朝の目覚めや集中したいときにおすすめです。
番茶
新芽を刈ったあとに育つ芽を用いて作られるお茶。
新茶に比べてカフェインは少なめです。太陽光に照らされる時間が長いため旨味成分であるテアニンがカテキンに変化し、さっぱりとした味わいになります。カフェインを控えたい方や、食事中の飲み物としても向いています。
ほうじ茶
煎茶や番茶を約200℃以上の高温で焙じた二次加工品。
関西ではほうじ茶を「番茶」と呼ぶこともあります。
番茶ベースのものはカフェインが少なく、また焙煎の熱によってカテキンが変性・減少するため渋みが抑えられ、まろやかな味わいになります。焙煎によって生まれる香り成分「ピラジン」には血行促進・リラックス効果があるとされており、夜のリラックスタイムや食後のお茶としてもおすすめです。
玄米茶
煎茶や番茶に炒った玄米を混ぜ合わせた二次加工品。玄米を使うと風味が強すぎるため、最近では炒った白米を使用するのが一般的です。
炒り米の香ばしさとお茶の風味がバランスよく合わさった、あっさりとした飲みやすい味わいです。
被覆するもの(覆下栽培)
覆下栽培は栽培に手間がかかるため、露天栽培に比べ価格が高くなり高級品扱いとなります。
玉露
収穫の約20日前から被覆して栽培されるお茶。
日光を遮ることでテアニンがカテキンに変換されるのが抑えられるため、甘みと旨味が豊富です。カフェインも多く含まれていますが、テアニンがカフェインの作用をやわらげるため、覚醒作用が強く出にくく、穏やかな集中状態をもたらすとされています。
旨味を最大限に引き出すには、50〜60℃のぬるめのお湯でゆっくりと2〜4分かけて抽出するのがポイント。大切な方へのおもてなしや、落ち着いて物事に向き合いたいときにもおすすめです。
かぶせ茶
収穫の1週間〜10日前から被覆して栽培されるお茶。玉露より被覆期間が短いため、テアニンとカテキンのバランスが玉露と煎茶の中間となり、玉露のような旨みと煎茶の爽やかな渋みを両方楽しむことができます。
旨味も渋みもほどよく楽しめるため、低温(60℃程度)で淹れると旨味が際立ち、高温(80℃程度)で淹れると爽やかな渋みが引き立つなど、淹れ方によって異なる表情を見せてくれます。
碾茶・抹茶
碾茶は蒸した後に揉まずに乾燥させたもの。これを粉末状にしたものが抹茶です。玉露と同じく被覆栽培のため、テアニンが豊富で旨味が強く、カテキンが少ないため渋みが抑えられています。また粉末をそのまま点てて飲む抹茶は、茶葉をまるごと摂取できるため、カテキンやテアニンなどの成分を他の緑茶よりも効率よく摂ることができます。
日本のお茶の産地
お茶の栽培については、もともと日本の山間部に自生していた「山茶(さんちゃ)」を飲んでいたという説もありますが、一般的には、栄西が中国から持ち帰った種子を脊振山(現・佐賀県と福岡県の県境)に植えたのが日本における茶栽培の始まりとされています。その後、京都の明恵上人が栄西から種子を譲り受け、京都・栂尾(とがのお)の高山寺に蒔いたことで日本最古とされる茶園が生まれ、宇治茶の礎を築くとともに全国へと広まっていきました。
かつてお茶は山間部での栽培が中心でしたが、明治初期には静岡県の牧之原台地などの平坦地に大規模な集団茶園が形成されるようになります。開拓の先陣を切った士族たちは徐々に離散していきましたが、農民がその跡を継いで流通の整備や製茶機械の発明・普及へとつなげていきました。

鹿児島産緑茶
現在も静岡県・京都府は日本を代表するお茶の産地として知られていますが、2025年2月、ついに鹿児島県が統計開始以来初めて荒茶生産量で全国一位を達成しました。
鹿児島県は本格的な茶栽培の歴史が浅く、かつては知名度の低さから単独では市場に受け入れられず、もっぱら他県産とのブレンド用やペットボトル飲料用として生産されていました。県内では荒茶を安定的に大量生産して出荷する技術が発達し、静岡や京都へ輸送され「仕上げ茶の原料」として利用されました。
しかし近年、知覧茶をはじめとする産地ブランド化が進み、仕上げ茶や自社販売に力を入れる生産者も増えています。

【お茶とグルメの杜・山麓園】鹿児島・知覧 粉末煎茶
私が日常的に愛飲しているのも鹿児島・知覧の粉末煎茶。熊本の日本茶専門店【お茶とグルメの杜・山麓園】から購入しています。熊本・鹿児島・うれしの・八女など、九州の有名な緑茶産地を中心に日常使いしやすい価格帯で取り扱っており、楽天市場やYahoo!ショッピングでは数種類から茶葉を選べる「福袋」も用意されています。
私が粉末煎茶を選ぶ理由は、茶殻の栄養成分もまるごと摂取したいから。急須で淹れるお茶では多くの栄養成分が茶殻に残ったまま捨てられてしまいます。午前中の集中作業のお供に一杯、食後の眠気覚まし兼胃薬代わりに一杯。仕事のスイッチになっています。
緑茶の薬膳効能

緑茶には「熱を冷まし、頭をスッキリさせる」作用があるとされています。
『神農本草経』には「苦味があり、思考を深め、眠気を払い、体を軽くし、目を明るくする」という記述があります。覚醒作用があるため、一日のスタート時に飲むと頭をスッキリさせてくれます。
ただしお茶の性質は「寒性(涼性)・苦味」。身体を冷やす作用が強く、生薬では清熱薬のひとつとして分類されます。発熱時の頭痛・めまい・目の充血や、アルコールや暴飲暴食で胃に熱がこもったときに処方されてきました。
身体を冷やす作用をやわらげるため、中国では緑茶を飲む際はマグカップなどの器に茶葉を入れてお湯を注ぎ、浮いている茶葉を避けながら飲むのが定番スタイル。温かい状態で飲みます。
日本では手軽なペットボトルで緑茶を楽しむ方も多いのですが、冷えた状態の緑茶は身体を冷やしやすいため、とくに代謝が落ちる30〜40代からは温かい状態で少量ずつ飲むのがおすすめです。
私自身、栄養成分の多い粉末煎茶を選んでいることもあり、かならず以下の条件を守っていただくようにしています。厳しく感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、緑茶は古くから生薬としても用いられてきたほど効果の強い食材。知らないうちに冷えや湿の原因となることもあるため、慎重に摂取しています。
- 温かい状態
- 一度にいただくのは湯呑み一杯分まで
- 一日にいただくのは湯呑み二杯分まで(午前中に一杯、昼食後に一杯)
- 空きっ腹で飲まない(胃に負担をかけやすいため)
- 気温が低い時期は控える(かわりにヨモギ茶をいただいています)
栄養学の観点から
緑茶味を構成する主な成分は、カフェイン・カテキン・テアニンです。
🍵カフェイン
アルカロイドの一種で、緑茶の苦味の主成分。
覚醒・集中作用があり、眠気を覚ましたいときや集中力を高めたいときに効果的とされています。一方で、就寝前や敏感な方には摂りすぎに注意が必要です。
🍵カテキン
ポリフェノールの一種で、緑茶の渋み・苦みの主成分。
非常に酸化しやすい物質ですが、緑茶は製造工程で酸化酵素の働きが抑えられるためほとんど酸化しません。
強い抗酸化作用を持ち、エイジングケアや生活習慣病の予防への効果が期待されています。また抗菌・抗ウイルス作用もあるため、緑茶でうがいをすると風邪や口臭予防に良いといわれています。

近年ではカフェインやカテキンの脂肪燃焼効果も報告されており、カテキン成分を濃く抽出して体脂肪の分解・消費を助けるお茶にはトクホ(特定保健用食品)マークがつけられています。運動や入浴の30分〜1時間前に湯呑み一杯程度の熱い緑茶を飲むことで効果が高まるという研究もあります。
🍵テアニン
お茶に特有のアミノ酸で、緑茶の旨味・甘みの主成分。
リラックス効果や睡眠の質を高める作用があるとされており、カフェインの過剰な覚醒作用をやわらげる働きもあると考えられています。

緑茶を水出しするとカフェインやカテキンの抽出を抑えながらテアニンを引き出すことができ、熱に弱いビタミンCもより効率よく摂取することができます。
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