このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2026年3月20日(春分)〜5月5日(立夏)の期間を『春の薬膳』として、早春・春・初夏におすすめの食材をご案内しています。詳しくは「季節ごとの養生」をご参照ください。
桑の雑学
桑の原産地
桑は、3,000〜4,000万年前にはすでに存在していたことが確認されている、非常に古い歴史をもつ植物です。起源地については中国〜ヒマラヤ周辺説とアメリカ大陸説の2つが有力とされていますが、現在もなお研究が続いており、解明には至っていません。長い時間をかけて各地で枝分かれ・分化し、現在では主に以下のような種類が知られています。
- マグワ(Morus alba)/中国原産
- ヤマグワ(Morus australis)/日本・朝鮮半島を含む東アジアに分布
- ブラックマルベリー(Morus nigra)/西アジア〜中東原産
- レッドマルベリー(Morus rubra)/北米原産

桑の中国史
桑といえば、切り離せないのが養蚕です。
アジアには古くから、蚕(カイコ)を育てて繭から絹糸を生産する養蚕の文化がありました。その起源は定かではありませんが、中国では約5,000年前からカイコの飼育のためにマグワを栽培していたとされています。考古学的にも紀元前3,000年の文化層から繭が発見されており、甲骨文字にも「蚕」「桑」「絹」の文字が確認されています。
絹はもともと、皇族や貴族など一部の特権階級だけに許された素材であり、その製法は国家機密として厳重に守られていました。やがて漢代になると絹の交易が本格化し、シルクロードの発展につながっていきます。紀元前4〜3世紀頃には地中海諸国にも絹が届くようになりましたが、6世紀に蚕の卵が持ち出されて製法が伝わるまで、ヨーロッパでは何から作られているのかさえ知られていませんでした。
桑の薬用としての記録は、養蚕より少し遅れて登場します。中国最古の薬学書『神農本草経』には、桑の根皮(桑根白皮=そうこんはくひ)の解熱・咳止め・去痰の効能が記載されています。

桑の日本史
日本にはもともとヤマグワが自生していたと考えられています。縄文時代の遺跡からは種子が出土しており、実を食用にしたり木材として活用するなど、当時から身近な植物として人々の暮らしに根づいていたことがうかがえます。
弥生時代になると中国から養蚕の技術が伝わり、『魏志倭人伝』には桑栽培や養蚕に関する記述が見られます。中国語では桑を「sāng(サン)」と読みますが、日本では「カイコが食べる葉」という意味から「食う葉」「蚕葉(こは)」が転じて「くわ」と呼ばれるようになりました。
養蚕に主に使われたのは、自生のヤマグワではなく中国から伝わったマグワです。ヤマグワの葉はマグワより硬くカイコの成長が遅れてしまうため、よほどの緊急時を除いてマグワが使われてきました。
養蚕は温暖湿潤な日本の気候と相性がよく、やがて日本全国に広がっていきました。かつては各家庭でも養蚕が行われており、春になると農家では「おかいこさま」のために畳をあげて目棚(めだな、おかいこ棚)を組みあげ、繁忙期には子どもも学校を休んで家の手伝いに駆り出されたといいます。

明治5年には官営の富岡製糸場が設立され、日本は世界一の生糸輸出国へと成長していきました。桑は近代日本の産業を支えた植物でもあったのです。
欧米の桑の活用
養蚕は中国や日本、中央アジア(ウズベキスタンをはじめとするシルクロードの要衝地)で特に盛んに行われてきました。一方、それ以外の地域では気候や風土が合わずに失敗が相次ぎ、それがかえって絹の希少価値を高める一因にもなりました。なお、マグワ(場合によってはヤマグワ)以外の桑の葉でもカイコを育てることはできますが、発育不良になったり繭の質が落ちたりするため養蚕には向かないとされています。
欧米では、葉よりも果実の収穫を目的としてブラックマルベリーやレッドマルベリーといった西洋種が広く栽培されてきました。古くからジャムやシロップ、お酒やお菓子作りなどに活用されており、その土地の食文化に深く根付いています。

おすすめの桑の実
日本でも桑の実は身近な存在です。
在来のヤマグワや、かつて養蚕用に植えられたマグワが今も各地に残っており、6月ごろになると近所の庭や公園でたわわに実をつけているのを見かけます。桑の実は熟すにつれて赤から黒へと色が変わっていきますが、赤い状態では酸味が強すぎるため、しっかり黒くなってから収穫します。

こんなに身近な植物なのに、「食べたことがない」という方も多いのではないでしょうか。
その理由のひとつは、スーパーに美味しい果物が並ぶようになったこと。かつてはザクロやアケビと同じように「その辺で採れるおやつ」として親しまれていましたが、今ではそれも難しくなりましたね。それ以上に大きな理由は、果肉が非常にやわらかくて傷みやすく、生の状態では流通に乗せにくいこと。福岡では5月ごろから赤い実を見かけるようになり、6月半ばにはもう萎れはじめてしまいます。
桑の実を味わうなら、加工品がおすすめです!
【桑の専門店・峯樹木園】桑の実ジャム
熊本の峯樹木園さんは、阿蘇を望む自然豊かな土地で昭和42年に創業。樹木医である園主が農薬・化学肥料を一切使わず、自社農園で桑の葉と桑の実を手摘みで収穫しています。炭づくりの際に生まれる天然の木酢液を活用した循環型農業を実践し、GAP認証も取得。安心・安全へのこだわりが隅々まで行き届いた会社です。
つぶつぶ桑の実ジャム
峯樹木園さんの桑の実ジャムは、自社農園で手摘みした熊本産の桑の実を、北海道産のてんさい糖だけで仕上げた完全無添加のジャムです。収穫期間はわずか年1回・約2週間。貴重な実を一粒ずつ丁寧に手摘みし、他のジャムの約2倍の時間をかけた特殊製法で作られているそうです。甘さ控えめなので、私はパンよりもヨーグルトの酸味と合わせる方が断然好みです。
【峯樹木園】発酵桑の実ジャム 100g
てんさい糖ではなく、独自の共生発酵で生まれたブドウ糖を組み合わせて仕上げた「発酵ジャム」もあるそうです。100g880円と少しお高めなのでまだ試したことはないのですが、いつか食べてみたいと思っています。
【ナッツとドライフルーツの専門店・小島屋】
こちらは上野アメ横に実店舗を構える、1956年創業の老舗です。現在は三代目の小島靖久さんが経営。世界中の農園や生産者とつながり、素材の品質にとことんこだわっています。東京に行く機会があると、必ず立ち寄りたくなるお気に入りのひとつ。普段は楽天市場を利用していますが、オンラインでも実店舗と変わらない丁寧さが伝わってきます。
小島屋さんのホワイトマルベリーは、イラン産・標高3,000m以上の高地で育った無農薬の大粒マルベリーを、完全天日乾燥で仕上げたドライフルーツです。人工的な熱を加えない天日乾燥だからこそ、熱に弱いビタミンが残りやすいのもうれしいポイントです。
私のおすすめの食べ方は、ナッツやほかのドライフルーツと合わせてジップ付きの袋に入れて持ち歩くこと。薬膳の先生が「適食薬おやつ」と名付けて実践されていたのを参考に始めました。季節や体調に合わせて配合を変えていますが、45歳を過ぎてからはエイジングケア重視で、マルベリーかクコの実は必ず入れるようにしています。とくにマルベリーはキャラメルのような甘みがあるので、おやつとしての満足感も高く、配合に欠かせない存在です。

桑茶と民間療法
中医学では、桑は葉・根皮・枝・実のすべてが生薬として活用されてきた植物です。
🌿桑白皮(そうはくひ)|根皮/寒性・甘味/帰経:肺
肺の熱を冷まし、咳止めや去痰に用いられます。
🌿桑葉(そうよう)|葉/寒性・苦味と甘味/帰経:肺・肝
感冒による発熱・頭痛や、肝の亢進(リンク)による目の腫れ・充血に用いられます。
🌿桑枝(そうし)|若枝/平性・苦味/帰経:肝
手足の痺れや麻痺、関節の痛みに用いられます。
一方、日本薬局方に収載されているのは桑白皮のみで、桑の葉を乾燥させてすり潰した「桑茶」は健康食品として扱われています。ただし「生姜」の記事でも触れたように、中医学(薬膳)と民間療法は切っても切れない関係にあります。桑茶の効果としてうたわれているものも、元をたどれば中医学の知識に基づくものが少なくありません。

鎌倉時代の医学書『喫茶養生記(栄西)』の下巻は、まるごと桑の薬効にあてられています。飲水病(糖尿病)・中風(脳梗塞の後遺症)・不食(食べられない状態)・瘡病(皮膚疾患)・脚気への活用法が記されており、室町時代にはこの書が「茶桑経」と呼ばれるほど、茶と桑はセットで重視されていました。
このうち「中風」は、中医学の考え方に基づくものです。中医学では、動かせるはずの筋肉をコントロールできなくなった状態を「中風(風にあたる)」といい、その原因は肝の亢進にあるとされてきました(桑茶に実際に中風への効果があるかどうかは定かではありません)。

ちなみに、桑の葉に含まれるDNJ(デオキシノジリマイシン)という成分には血糖値の上昇を抑える効果があることが確認されており、「飲水病(糖尿病)」については現代科学的に理にかなっていると思われます。
峯樹木園さんで取り扱いがあるため、ジャムのついでに購入を検討中。甘いものを食べる時に一緒に飲むことを習慣にすれば、血糖値対策に良いかもしれません。
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※本来の旬はフレッシュな実が食べ頃になる梅雨の時期ですが、梅雨は「湿」の邪気が多く脾が疲れやすい季節。私は湿をため込みやすい体質なので、梅雨〜残暑にかけては身体を潤す食材は控えめにしています。そのため乾燥による症状が出やすい春〜初夏におすすめの食材として分類していますが、体質に合う方はぜひ旬の時期のフレッシュな桑の実もお楽しみください!

桑の実には「身体を潤し、エイジングケアに役立つ」作用があるとされています。
桑の実は生薬では「桑椹(そうじん)」と呼ばれ、「補陰薬」に分類されます。『陰』とは『血・津液・精』など身体の水分の総称です。
「黒ごま」の記事でもご紹介したように、中医学では『肝・腎』を養うことがエイジングケアにつながると考えられています。とくに桑の実のような『肝血』を養う力が強い食材は、肌のツヤやハリコシのある黒髪など、見た目の美しさにつながるイメージです(黒ごまは『腎精』を養う力が強く、白髪や抜け毛・足腰の衰えなど老化防止につながるイメージです)。
また中医学では『血』と『精』はお互いに補い合う関係にあるとされているため、コツコツ継続することで『腎精』も養われ、老化防止にもつながります。老化にともなって現れやすくなる症状(不眠、耳鳴り、物忘れ、神経痛など)にも効果が期待でき、『喫茶養生記』に「桑椹の服用で無病になる」という記述があるほどです。
桑の実は寒性で身体を冷ます効果もあるため、5月頃から増え始める夏日のおやつにぴったり。運動の前後や夏バテにも良いとされているため、この時期は常に「適食薬おやつ」に桑のドライフルーツを加え、カバンに入れて持ち歩いています。
栄養学の観点から
桑の実はセレブやモデルがこぞってスーパーフードとして発信したことで、世界的に注目を集めるようになりました。ビタミンCやミネラル(鉄分やカリウム)のほか、レスベラトロール(ポリフェノールの一種)による抗酸化作用も期待でき、エイジングケアに役立つとされています。
またアントシアニンやゼアキサンチンなどのファイトケミカルも豊富。とくに黒実品種は目の健康に役立つとされています。
さらに桑の実にも、桑茶の項目でご紹介した成分「DNJ(デオキシノジリマイシン)」が含まれており、血糖値の上昇を抑える効果が期待できます。ただしこの成分は実よりも葉のほうがずっと多く含まれるため、血糖値対策を目的に桑を摂取するのであれば、食前や食中に桑茶を飲む方がより効果的と考えられます。
おすすめの薬膳書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
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