このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2026年6月11日(入梅)〜7月15日(追い山笠)の期間を『梅雨の薬膳』として、初夏・梅雨・夏・におすすめの食材をご案内しています。詳しくは「季節ごとの養生」をご参照ください。
博多祇園山笠と「胡瓜断ち」
6月に入ると、博多の街にちらほらと、久留米絣の法被をまとった男性が目につくようになります。これは「長法被(当番法被)」と呼ばれる博多祇園山笠の衣装。着用が許されるのは6月1日から7月15日の祭り納めまでと決まっていて、期間中はなんと冠婚葬祭でも正装として扱われるほど特別なものです。

舁き棒(かきぼう)を海水で洗い清める「棒洗い」、神さまを迎える山小屋を建てるための地鎮祭——6月の博多では町のあちこちで、祭りへの準備が静かに進んでいきます。
そして7月1日からは、いよいよ「博多祇園山笠」がスタート。15日のクライマックス「追い山笠(おいやま)」に向けて、以下のような日程で神事が行われます。
- 7月1日 注連下ろし・御神入れ・飾り山笠公開
- 7月9日 全流お汐井とり(箱崎浜でお汐井(清めの砂)をいただく神事)
- 7月10日 流舁き(舁き山笠が動き出す)
- 7月11日 朝山笠・他流舁き
- 7月12日 追い山笠ならし(本番の予行演習)
- 7月13日 集団山笠見せ
- 7月14日 流舁き
- 7月15日 追い山笠(早朝4:59〜・クライマックス)

上記のスケジュール期間中、山笠に携わる人はきゅうりを食べない「胡瓜断ち」を行う習わしがあります。輪切りにしたきゅうりの断面が、山笠の祭神・須佐之男命(スサノオノミコト)の御神紋である「木瓜紋(もっこうもん)」に似ていることから、「御神紋を口に入れるのは畏れ多い」と氏子が食べることを遠慮したのが由来すると伝えられています。

梅雨ときゅうり
山笠ではタブーとされるきゅうりですが、薬膳の視点で見ると、この時期にぜひ取り入れたい食材のひとつです。
梅雨の真っ只中であるこの季節を元気に乗り切る養生のポイントは、身体にたまる余分な水分=『水湿(すいしつ)』をしっかり排出することです。雨が続くと部屋に湿気がこもるように、私たちの身体のなかにも余分な水分がたまります。これが『水湿』となると、むくみ・体の重だるさ・食欲不振といった不調につながると考えられています。
そこで大切になるのが、余分な水分が『水湿』となる前に尿として外に出す『利水(りすい)』の効能を持つ食材。きゅうりや冬瓜をはじめとする一部のウリ科の野菜には『利水』作用があるとされ、じめじめした梅雨時期にぴったりの薬膳食材といえます。

もうひとつ、梅雨どきに気をつけたいのが「冷え」の要素。この時期の身体はまだ夏の暑さに慣れておらず、つい冷たい飲み物に手が伸びたり、エアコンの効いた部屋で薄着になったりしがちです。しかし外から急に身体を冷やすと、水分の代謝を担う『脾』の働きが弱り、身体の内側からも『湿』を生み出す『水湿内停』の状態を招きやすくなってしまいます。

脾の苦手なものは「過剰な水分」と「冷え」です。詳しくは「梅雨の薬膳」をご参照ください。
きゅうりには熱を冷ます『清熱(せいねつ)』の働きもあるとされ、体の内にこもった余分な熱を穏やかに逃がしてくれます。ただし、冷え性の方や胃腸の弱い方が生でたくさん食べると、今度は冷やしすぎてしまうことも。そんなときは、生姜やネギといった温性の食材と合わせたり、火を通したりすると、冷やす力がやわらいでぐっと食べやすくなります。
きゅうりの雑学
きゅうりの原産国はインド北部からヒマラヤの山麓あたりとされています。中国へ伝わったのは、漢の時代(紀元前2世紀ごろ)のこと。シルクロードを切り開いた使者・張騫(ちょうけん)が、西域から持ち帰ったと伝えられています。「胡瓜」という漢字は、この「胡(こ)=西域の異民族」を指す言葉に由来し、「胡(西域)からやってきた瓜」という意味だとされています。
6世紀の農業書『斉民要術(せいみんようじゅつ)』にはすでに「種胡瓜法」というきゅうりの栽培法が記されており、暮らしのなかに根づいていたことがうかがえます。

薬としての性質もすでに唐の時代の医学書に散見され、のちに明代(16世紀)に編纂された『本草綱目(ほんぞうこうもく)』では「熱を冷まし、渇きをいやし、水はけをよくする」といった効能も記されています。
一方で「少し毒があるので、多く食べてはいけない」という戒めも添えられています。ここでいう「毒」は、現代でいう有毒という意味ではなく、体質や摂り方によっては身体に負担となる偏った性質を表していると考えられています。つまり「冷やす力が強いので、摂りすぎには注意」ということですね。寒涼性のきゅうりを「ほどほどに」という感覚は、千年以上前から変わらないのかもしれません。

民間では、のどの腫れや目の充血、やけどなどの際にも利用されてきたと伝えられています。
きゅうりの食べ方とおすすめレシピ
日本・中国のきゅうりの一般的な食べ方
日本ではサラダやぬか漬けなど、生のまま食べるのが一般的ですが、中国では加熱して食べるのも定番です。卵と一緒に炒める「黄瓜炒鸡蛋(きゅうりとたまごの炒め物)」がその代表格。ほかにも肉やエビと炒めたり、シンプルにきゅうりだけをにんにく・生姜と炒めたりなど、火を通す食べ方が暮らしに根づいています。

私は『脾』が弱く『湿』をためやすい体質で、梅雨の時期は油ものを控えているので、炒めるより温かいスープにすることが多いです(脂っこいもの・甘いもの・冷たいものは『脾』を傷つけやすいとされます)。

生で食べるとビタミンCやカリウムをそのまま摂ることができ、みずみずしさも楽しめます。ぬか漬けにすると、水分が抜けて水溶性の栄養は多少減りますが、ぬか床由来のビタミンB群が補われます。

加熱するとかさが減ってたくさん食べられるようになるし、スープにすると煮汁に溶け出したカリウムなどの成分も汁ごと取り入れることができるね。
きゅうりとたまごのスープ
すりながしや冷や汁など、日本にもきゅうりを使った汁物は数多くありますが、冷たいメニューがポピュラーです。私は以前「きょうの料理」でみた小林カツ代さんの温かい”きゅうりとたまごのスープ”を参考に繰り返し作るうち、いつのまにか自分のレシピができあがりました。ポリポリ食感を残すため、火を止めてからきゅうりを加えるのがポイントです。

①きゅうりは縦半分に切って種を取り除き(青臭さを防ぐため)5mm程度の薄切りにします。
②鍋に水300cc、鶏ガラスープの素小さじ2を入れて煮立てます。
③片栗粉小さじ1を同量の水で溶いて②に加え、とろみがついて煮立ったら溶きたまごを流し入れます。
※今回は片栗粉を入れず、かわりにハトムギでとろみをつけました。ハトムギにも『湿』を除く効能があるとされます。
④火を止めてきゅうりを加え、器に注いで梅干しをのせ、くずしながらいただきます。
きゅうりのサンドイッチ
『脾』にとくに気をつけたい梅雨や長夏、それに冬をのぞけば、生のきゅうりもいただきます。最近はきゅうりだけのサンドイッチのレシピが流行っていますが、私もよく作ります。江國香織さん著「落下する夕方」で主人公がきゅうりのサンドイッチにディルを加える描写を読んで以来、私もかならずディルを混ぜるようになりました。

① ディルは洗ってしっかり水気を拭き取り、細かく刻んでおきます(冷凍用保存袋に入れて冷凍保存も可能)。
② きゅうりは薄切りにして塩をふり、しんなりしたらしっかり水気を絞ります。
③ パンにマヨネーズと粒マスタードを塗ります(ベチャッとするのを防ぐため)。
④ ②のきゅうりをサワークリームとディルで和え、③のパンにギュウギュウに挟みます。
きゅうりの薬膳効能

きゅうりには「熱を冷まし、余分な水分を尿として排泄する」作用があるとされています。
きゅうりには身体にこもった余分な熱を冷ます力があるとされ、暑い盛りに火照りをとりたいときに向いています。また古くは喉の痛みにも用いられてきたように、炎症をやわらげる効能もあるとされます。こうした『清熱』を目的とするときは、生の状態がおすすめです。ただし、もともと冷えやすい人や胃腸の弱い人は、生姜・ねぎといった温性の薬味と合わせたり、火を通したりして、冷やす力をやわらげた食べ方が向いています。
また、きゅうりには利尿作用もあるとされます。体内に余分な水分がたまると『水湿』となって、むくみや身体の重だるさを招きますが、きゅうりは尿として排泄し、たまる前に処理してくれると考えられています。
その一方で、身体を潤す作用もあります。水分を出すのに潤すというと、一見矛盾しているようですが、「プールの汚れた水を抜いて、きれいな水で満たす」ようなイメージです。とくに水分が蒸発しやすい(=体内の水分が減りやすい)夏のあいだ、私はよくおやつがわりにきゅうりを丸かじりしています。
栄養学の観点から
きゅうりは「世界一栄養がない」と言われることがありますが、これは誤解。正しくは「世界一カロリーが低い」です。でもたしかに、栄養素はほかの野菜に比べると多くはありません(ビタミンCやカリウム、β-カロテンなどを含みますが、豊富といえる量ではありません)。
そのため、「水分にしては、お腹がふくれるし栄養もある」という感覚で食べると良いかもしれません。ダイエット中の間食にも向いています。ただし身体を冷やす性質があるため、体質やその日の体調に合わせて食べる量を調整することが大切です。
おすすめの薬膳書籍
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