このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。
2026年8月7日(立秋)〜9月23日(秋分)の期間を『夏の薬膳』として、夏・残暑・秋におすすめの食材をご案内しています。詳しくは「季節ごとの養生」をご参照ください。
ミョウガの旬
ミョウガは食べられる時期が長く、その成長段階によって季語が変わる野菜です。

春のミョウガの季語は「茗荷竹(ミョウガタケ)」。
これはミョウガの地下茎から伸びる若芽で、葉の付け根が重なって茎のように見えるため「偽茎」とも呼ばれます。以前住んでいた家の庭には前の住人が植えていたミョウガが残っており、ゴールデンウィークを過ぎる頃になると、物置の陰でひょろ長く成長した偽茎を見かけました。
偽茎を太く軟白栽培すると食用になるそうです。市販であまり流通しない高級食材なので、引っ越す前に食べてみればよかったと後悔しています(家庭では、芽が出る頃にバケツなどをかぶせて遮光する方法があるようです)。
夏(晩夏)のミョウガの季語は「茗荷の子」。
これは市販でよく見かける形のミョウガです。7月から9月頃になると、50cmほどに成長した偽茎の下に、土に埋もれていつのまにかミョウガができています。これは地下茎から出てくる花序(花穂)の部分なので花茗荷とも呼ばれます。
秋(初秋)のミョウガの季語は「茗荷の花」。
ミョウガの子を収穫せず放っておくと花穂から淡黄色〜白っぽい花が顔を出します。これも食用にできますが、花はすぐにしぼんでしまうため、花が開く前に収穫して食べるのが一般的です。
春・夏・秋それぞれにミョウガの季語があるということから、古くから日本で愛されている食材であることがうかがえます。
ミョウガの雑学
ミョウガの中国史
ミョウガの原産地については諸説ありますが、日本を含む東アジアの暖温帯に古くから分布していたと考えられています。日本(倭国)について記された中国の歴史書『魏志倭人伝』には「蘘荷(じょうか)」というミョウガにあたるとされる植物が登場し、少なくとも弥生時代末〜古墳時代初頭の日本に、ミョウガらしき植物が存在していたことがうかがえます。
日本でミョウガが当時どのように扱われていたのか詳しいことは分かっていませんが、中国では漢代にはすでに「蘘荷=食用可能な芳香植物」として認識されていたようです。6世紀の農学書『斉民要術』には栽培方法だけでなく、酢などを使った保存方法も記されています。

古くから薬用としての利用もあり、歴代の本草書の記述をまとめた『本草綱目(明代)』では「蠱毒(こどく)※毒虫・毒物・呪術などが入り混じった古代の病因概念」や「瘧(おこり)※マラリアなどに相当すると考えられる周期的な発熱」などへの利用が記されています。

本草とは、植物を中心に、動物や鉱物など自然界にあるものの性質や薬効、食用としての利用法などを調べた、古代中国の学問です。このブログでは簡単に「本草書=薬学書」と表現することもあります。
『本草綱目』を含めミョウガに関する記述そのものは数多く残っていますが、時代が下るにつれて利用が途絶え、実物が分からなくなった地域もあったようです。後世の専門家たちが「これは本当に蘘荷なのか?」と古い記述をたどりながら検討を重ねる様子も伝えられており、なかなか一筋縄ではいかない植物であることが分かります(笑)。用途も「蠱毒」など、今の効能からかけ離れているものも散見されますし…。
現在の薬膳で見られる「気血のめぐりをよくする」といった捉え方には、歴代の本草書に加え、各地に伝わる民間療法などが影響していると思われます。
ミョウガの日本史
日本では平安時代の薬物辞典『本草和名』に「白蘘荷」が収載され、和名として「女加(めが)」が記されています。ショウガとミョウガを「兄香(せのか)」「妹香(めのか)」と呼び、それが「しょうが」「みょうが」へ変化したという説もありますが、語源については諸説あり定かではありません。
日本にも中国本草の「蘘荷」に関する薬用知識は伝わっていましたが、日本では薬としてよりも食材としての利用が広がっていきました。平安時代にはすでに栽培され、漬物などにして食べられていた記録があり、古くから香味野菜として人々の暮らしに根づいていたようです。
江戸時代に本草学が発達すると、「体内の滞りを解消して食欲を促す」といった働きが整理され、現在の薬膳につながるような捉え方もみられるようになりました。

独特の香りや辛味をつくる成分が科学的に詳しく分かってきたのはごく最近のことです。
判明が遅れた理由のひとつとして考えられるのが、ミョウガが世界的にはかなりローカルな食材であること。東アジアに分布する植物ですが、野菜として栽培し、日常的に食べる文化はほぼ日本に限られています。そのため生姜などの世界中で利用される香辛料に比べると、研究対象として注目されにくかったのかもしれません。
また、ミョウガの独特な風味はごく微量の成分が複雑に組み合わさって生まれるため、その正体を突き止めるには高度な分析技術が必要でした。分析技術の進歩とともに研究が進み、1990年代には香りの、2000年代になってようやく辛味成分の詳しい分析が進みました(【ミョウガの薬膳効能】で触れてます)。
ミョウガの保存方法と活用レシピ
ミョウガの保存方法
ミョウガの芳香成分は揮発しやすいため、独特の香りを存分に味わうなら加熱せず生で食べるのがおすすめです。また、辛味成分は茹でたり炒めたりすると半分近く減少してしまうため、加熱するなら仕上げ段階で加え、サッと火を通す程度に。そうするとシャキシャキ食感も残りやすくなります。
食べきれない分は、食べやすい形に切ってから酢漬けにしておくと、冷蔵で10日間ほど保存できます。私は千切りかみじん切りの状態で保存し、アントシアニンが酢に反応してピンク色になった漬け酢ごと、酢飯やドレッシングとして活用します。

冷凍するとシャキシャキ感は落ちるものの、1ヶ月ほどの長期保存が可能になります。わが家では、ミョウガの花穂の下部や切れ端を集めた「もったい茎」を購入することが多いので、すべてフードプロセッサーでみじん切りにし、冷凍用保存袋に平らにならして保存しています。凍ったままポキポキと必要な分だけ折って、汁物やそうめんつゆに使えるのでとても便利です。
酢漬けに使用するのは福岡県大川市の老舗「庄分酢(しょうぶんす)」さんの「美味酢(うます)」です。昨年購入して以来、わが家の定番調味料になりました。酢玉ねぎとミョウガの酢漬けを半々に合わせたものにごま油をたらすと、肉・魚・野菜・豆腐など何にでも合う万能調味料になります。
【おすすめレシピ】山形だし
夏場は火を使わない簡単レシピが重宝します。時間のある週末、よく作るのが山形の郷土料理「だし」。基本は「きゅうりなどの水気を多く含む夏野菜と、香味野菜を刻んで和えたもの」ですが、100軒の家があれば100種類の味があるといわれているとおり、決まったレシピはありません。

私のレシピはラズウェル細木さん著『酒のほそ道(31巻)』で主人公の友達(山形県出身)が作るレシピが土台となっています。
- 基本の野菜はナスときゅうり。竹股はこれにミョウガと青紫蘇をプラス。
- できるだけ細かく刻む。ナスときゅうりはみじん切りではなく、細かい角切りにしたほうが食感が良い。
- エグみや青臭さも味のうちなので水にはさらさない。
- 生醤油をかけ、ザックリかき混ぜて味がなじんだら完成。
- 生っぽさが身上なので、作りたてからせいぜい半日くらいまでに食べきること。
ミョウガの薬膳効能

ミョウガには「お腹を温め、気血をめぐらせる」作用があるとされています。
本文中でご紹介したように、古代中国ではミョウガに該当する「蘘荷」が薬用として用いられた記録が残っていますが、これは主に根茎を利用したもの。私たちが普段「ミョウガ」と呼んで食べているのは、地面から顔を出す花穂です。現在、ミョウガを日常的に食べる文化はほぼ日本に限られており、現行の『中国薬典』にも「蘘荷」は収載されていません(2026年8月時点)。
ミョウガの代表的な効能は「温中理気(お腹を温めながら気のめぐりを整える作用)」と「活血調経(血のめぐりをよくして月経を整える作用)」。薬膳では、冷えによる胃腸の不調や月経不順などによいとされます。
私自身、冷えると生理痛がひどくなることもあり、残暑に入った頃から少しずつ「冬病夏治(冬に起こりやすい不調を、夏のうちから整えておく考え方)」を意識して過ごします。本来は陽気がもっとも盛んになる真夏の時期を利用して、冬に備えて身体を整えておく考え方ですが、近年の日本の夏は暑過ぎます(笑)!真夏に体を温める食材を積極的に取り入れると、私の場合はかえって不調を招く原因にもなりかねないため、だいたいお盆を過ぎる頃を目安にして、ミョウガや生姜・紫蘇など辛味や香りを持つ温性の食材を増やしていきます。
栄養学の観点から
ミョウガは約96%が水分で、栄養成分だけを見ると、それほど目立った特徴のある野菜ではありません。それなのに、口に入れた瞬間に広がる香りと味はかなり強烈。あの独特の風味は、ごくわずかに含まれる個性的な成分によるものです。
ミョウガの香りには多くの揮発性成分が含まれています。主成分となるβ-フェランドレンやβ-エレメンをはじめ、α-ピネンなど多くの成分が報告されており、これらが複雑に混ざり合うことで独特な香りを放っています。薬膳では芳香性のある食材に『理気(気のめぐりを整える)』作用を持つものが多く存在し、ミョウガもそのひとつに挙げられます。
そして、ミョウガの主な辛味成分は「ミョウガジアール」と、とくに葉に多く含まれる「ミョウガナール」。また「ミョウガトリアール」という辛味を持たない成分も発見されています。このうちミョウガジアールとミョウガトリアールには、血小板の凝集を抑える(血液を固まりにくくする)作用が試験管内実験で報告されています。
ミョウガにはアントシアニンをはじめとするポリフェノール類も含まれており、こうしたさまざまな成分が『活血(血のめぐりをよくする)』の働きに関連しているのかもしれません。
おすすめの薬膳書籍
薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。

先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版


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