さつまいも

秋の薬膳

このブログでは、季節に応じた薬膳食材をご紹介しています。

2026年9月23日(秋分)〜11月7日(立冬)の期間を『秋の薬膳』として、残暑・秋・初冬におすすめの食材をご案内しています。詳しくは「季節ごとの養生」をご参照ください。

さつまいもの雑学

さつまいもの世界史

さつまいもの原産地は、中南米の熱帯地域と考えられています。現在のメキシコからペルー・エクアドルなど、南米北西部にかけての地域です。

15世紀末にコロンブスによってスペインへ持ち帰られたとされていますが、実はそれよりずっと前から、太平洋に島が点在するポリネシアにはサツマイモが存在していました。

遠く離れた中南米から、どうやって太平洋の島へ渡ったのかーー人が海を渡って運んだのか、それとも種子などが自然に海を渡ったのか――。現在も研究が続いており、その伝播の経緯については議論があります。

ちなみにコロンブスによってスペインへ持ち帰られたサツマイモは、冷涼な気候に栽培が適さず大きく普及することはありませんでした。しかしその後、大航海時代に乗じて、スペインやポルトガルの船によってアフリカ・インド・東南アジアへと持ち込まれ、世界中に広まる大きなきっかけとなりました。

An illustrated guide to Peruvian picarones, showing ring-shaped dough frying in oil alongside a map highlighting Central and South America.
Our sweet potato journey begins in Central and South America, with a stop for picarones at a Peruvian street stall.

さつまいもの中国史

この大航海時代の波に乗り、さつまいもは16世紀後半に中国にも伝わりました。スペイン統治下のフィリピンなど、いくつかの東南アジア方面のルートから持ち込まれたと考えられています。

その中でもよく知られているのが、1593年(明代)、福建省の商人・陳振龍がフィリピンのルソン島から持ち帰ったという説です。当時の福建省では干ばつによる食糧不足が問題となっていました。やせた土地でも育てやすく、収量の多いさつまいもは救荒作物として広まり、さらに陳振龍の子孫によって、浙江や河南、山東など各地へ栽培が広められたという記録が残っています。

An illustrated guide to Fujian fanshuwan, showing filled dumplings in soup alongside a map marking Fujian Province.
Sweet potatoes found a place in regional Chinese cooking, with Fujian’s fansshuwan offering one delicious example.

中国に伝わったのは16世紀後半と比較的新しい食材ですが、清代に趙学敏がまとめた『本草綱目拾遺』には、すでにさつまいもについての詳しい記載があります。

「氣味甘平無毒」――現在の薬膳でいう「食味=甘、食性=平」という性質に加え、「脾を補い、胃を温め、五臓を養う」といった働きが記されています。また、皮も果肉も白いさつまいも(現在の日本でデン粉原料用となっている「シロユタカ」など)については、「肺の気を補い、身体に潤いを生み出す」といった働きも紹介されています。

さつまいもの日本史

中国から少し遅れて、さつまいもは日本にも伝わりました。

1605年、琉球王国(現在の沖縄県)の野國總管(のぐにそうかん)が、中国・福建省からさつまいもの苗を持ち帰ったと言われています。その後、さつまいもの名前の由来でもある薩摩(現在の鹿児島県)へ伝わった経緯には諸説ありますが、なかでも有名なのが、1705年に指宿市山川の船乗り・前田利右衛門が琉球から持ち帰ったという話です。

前田利右衛門はさつまいもの栽培方法を地域の人々に伝えて普及に貢献し、その功績から「甘藷翁(からいもおんじょ)」と呼ばれていたそう。なんと現在も指宿市山川の徳光神社に祀られており、別名「からいも神社」と呼ばれています。

🍠徳光神社の詳しい情報はこちら → 鹿児島県神社庁「徳光神社」

さつまいもが関東へ広まる大きなきっかけとなったのは、1732年の享保の大飢饉。八代将軍・徳川吉宗が食糧不足の対策を進めるなか、蘭学者・青木昆陽(あおきこんよう)が江戸の小石川や現在の千葉県などで試験栽培を実施し、成功を収めました。青木昆陽もまた、さつまいもの普及に貢献した人物として、現在の千葉市幕張にある「昆陽神社」に祀られています。

さつまいもの生産地と種類

さつまいもの生産地

現在でも、さつまいもは南九州と関東地方で栽培が盛んです。全国の収穫量は鹿児島県が1位、茨城県が2位。千葉県、宮崎県と続きます。

飢饉の際に人々を支えた救荒作物であることからも分かるように、さつまいもは比較的やせた土地でも育ち、水はけの良い土壌を好みます。鹿児島県に広く分布する「シラス台地」は、火山噴出物が堆積してできた水はけが良く、養分の少ない土壌。ほかの作物には厳しいこの土地の性質が、さつまいもの栽培には適していました。

A sweet potato field in Kagoshima, with green leaves stretching toward a mountain beneath a blue sky.
Sweet Potatoes Thrive in Kagoshima

芋焼酎に使用される品種

鹿児島県・宮崎県といえば、芋焼酎も有名です。焼酎の原料には、普段の料理で使う青果用とは異なる品種が主に使われています。その代表が「コガネセンガン(黄金千貫)」。皮も果肉も淡い黄白色で、デン粉を多く含む品種です。

Koganesengan sweet potatoes with pale yellow-white skin and cut pieces revealing the flesh.
With its pale skin and flesh, Koganesengan is a familiar sweet potato variety in shochu making.

宮崎県のなかでも鹿児島県に近い都城市には、芋焼酎「黒霧島」で有名な霧島酒造の「KIRISHIMA FACTORY GARDEN」があります。焼酎の製造工程を見学できるほか、香りの体験やさつまいもの試食など、大人から子どもまで楽しめる施設なのだそう。いつか行ってみたいと思っています。

施設の詳しい情報はこちら → 霧島酒造公式「KIRISHIMA FACTORY GARDEN」

さつまいもの種類

青果用のさつまいもも、昔に比べてずいぶん種類が増えました。私が若い頃は、焼き芋といえば「ほくほく」一辺倒でしたが、安納芋が注目されるようになってからは「ねっとり」が人気を集めています。

この「ほくほく」「ねっとり・しっとり」という食感の違いは、主にさつまいもの品種によるものです。

粉質系(ほくほく)

加熱すると粉を吹いたようにほぐれ、栗に似た食感になるタイプ。

🍠べにあずま
関東地方を中心に広く栽培されてきた、「昔ながらの焼き芋」を代表する品種。

🍠高系14号系統
「高系14号」と、そこから選抜された系統。徳島県の「なると金時」や宮崎県の「宮崎紅」などが知られています。

粘質系(ねっとり・しっとり)

加熱すると、なめらかで粘りのある食感になるタイプ。

🍠安納芋
種子島で古くから栽培されてきたさつまいもで、1998年に「安納紅」「安納こがね」が品種登録されました。焼き芋にすると蜜が出るほど甘く、「蜜芋」としても知られています。

🍠べにはるか
2010年に品種登録された品種。強い甘みとねっとりした食感が特徴です。

🍠シルクスイート
2018年に「HE306」の名称で品種登録された、比較的新しい品種。名前のとおり、絹のようになめらかな舌触りが特徴です。

さつまいもの加熱方法と低温調理器

ねっとり系のさつまいもを蒸かしたのに、思ったほどねっとりしなかった……そんな経験はありませんか?
さつまいもの食感は、品種だけで決まるわけではありません。収穫後の貯蔵期間や加熱方法によっても変化します。
貯蔵状態は購入する時点でどうしようもありませんが、加熱方法を工夫することで、甘みや食感を引き出すことができます。

A diagram linking starch gelatinization, maltose production by beta-amylase, and changes in pectin to sweet potato sweetness and texture.
Changes in starch and plant cells help shape sweetness and tenderness, with cooking temperature and time guiding the result.

生のさつまいもには、粒状のデンプンと、デンプンを分解する酵素「β-アミラーゼ」が含まれています。

加熱すると、デンプンは水を吸って膨らみ、構造が崩れる「糊化」が始まります。するとβ-アミラーゼが作用しやすくなり、デンプンが分解されて、甘みのもととなる麦芽糖(マルトース)が作られます。

ここで重要となるのが加熱する温度。デンプンを糊化させるには十分な熱が必要ですが、温度が高すぎるとβ-アミラーゼは働かなくなります。そこで芋の内部が70~80℃になるあたりをゆっくり通過させることが、甘みを引き出すポイントとなります。

またこのように加熱することで、食感にも変化が現れます。β-アミラーゼによる分解が進むと、デンプンが減って麦芽糖などの水溶性成分が増え、粉っぽい「ほくほく」感が弱まり、ねっとりとした食感に近づきます。

こうして甘み・ねっとり感を引き出したあと、最後は温度を90℃以上に上げ、芋全体をやわらかくします。
植物の細胞は細胞壁に囲まれ、細胞同士の接着にはペクチン(食物繊維)が重要な役割を果たしています。高温で加熱するとペクチン質が変化し、細胞同士が離れやすくなって、芋全体がやわらかくなります。

Skin-on steamed sweet potatoes in a bamboo steamer, with broken pieces in front revealing their golden flesh.
Break open a skin-on steamed sweet potato to reveal its golden flesh—a simple way to enjoy its natural sweetness.

ただし、同じように加熱しても、すべてのさつまいもが同じように甘くなるわけではありません。でんぷんの性質やβ-アミラーゼの活性には品種差があるためです。

「べにはるか」のように、デンプンの分解が進んで麦芽糖が多く作られる品種は、甘みが強くねっとりした食感になりやすくなります。一方、「高系14号」などは加熱後にもデンプンが比較的多く残るため、ほくほくとした食感になります。

低温スチーミング

低温でじっくり加熱する方法のひとつが、「低温スチーミング」です。その研究で知られるのが、別府市出身の平山一政さん。幼いころから温泉の蒸気を利用した「地獄蒸し」に親しんできた、蒸気・熱技術の専門家です。

私は温泉を目的に数年に一度は別府を訪れるのですが、その際に必ず立ち寄るのが『地獄蒸し工房 鉄輪』。別府・鉄輪には、温泉から噴き出す蒸気で食材を加熱する「地獄釜」があり、古くから家庭料理や湯治客の食事に利用されてきました。
『地獄蒸し工房 鉄輪』は、この地獄蒸しを観光客でも気軽に体験できる施設。野菜や卵、お肉、海鮮など、好きな食材を選んで(もしくは持ち込んで)自分で蒸すことができます。

施設情報

住所:大分県別府市風呂本5組(いでゆ坂沿い)
電話番号:0977-66-3775(予約はできません)
営業時間:10時〜19時(L.O18時)
定休日:第3水曜日(祝日の場合は翌日)

※変更となる場合がございますので、ご来店前に施設情報をご確認ください。

A person wearing red gloves handles a basket holding ingredients above a steaming jigoku-mushi cooking pit.
Steam billows up as the lid opens, bringing Kannawa’s hot spring cooking tradition to life.

地獄釜の蓋を開けると、ものすごい量の蒸気が立ち上ります。

通常の蒸し調理では100℃前後の蒸気を使いますが、平山さんが研究されたのは、蒸す温度をあえて低くすること。40~95℃に温度を調節した蒸気で食材をじっくり加熱する「低温スチーミング」です。

食材に合わせて温度と時間を調節することで、甘みやうまみを引き出したり、鮮やかな色や歯ごたえを残すことができるだけでなく、加熱条件によってはビタミンCなどの栄養成分が多く残ることも報告されています。

家庭で低温調理をするなら

蒸し物調理をする場合、仕事では「スチームコンベクションオーブン」という業務用の調理機器を使っています。温度と時間を細かく設定できるので、茶碗蒸しやプリンなど、温度管理が難しい料理も簡単に仕上がります。

でも、自宅で愛用しているのは昔ながらのせいろの蒸し器(笑)。長年の経験と勘を頼りに、箸置きや菜箸を使って蓋の隙間を調節し、火加減を見ながらだいたいの温度を保っていますが、とてもレシピとしてお伝えできる方法ではありません。

Illustrations showing a bamboo steamer lid propped open with chopsticks and chopstick rests, alongside bagged sweet potatoes in a sous vide water bath.
I reach for a bamboo steamer for shorter cooking and sous vide for longer sessions, choosing what suits each dish.

炊飯器の保温機能を使う方法もありますが、炊飯以外の調理に対応しているかは機種によって異なります(使用前に取扱説明書を確認してください)。

私は30分程度の蒸し物ならせいろを使いますが、長時間となると途中で水を足すのも面倒なので、「たまご」の記事でご紹介した「低温調理器」を使用しています。蒸すのではなく湯煎調理になりますが、さつまいももすごく甘ーく仕上がります!

低温調理でさつまいもを加熱する

A step-by-step guide with photos and illustrations showing washing, bagging, sous vide cooking, cooling, and freezing sweet potatoes.
Cook gently in a sealed bag, then raise the temperature for a tender finish. The article shares the temperatures and timing I tried.

1️⃣さつまいもを皮ごとよく洗う
私は50℃のお湯に5分程度浸したあと、流水でこすり洗いしています。この「50℃洗い」を提唱したのも平山一政さんです。

2️⃣低温調理に対応した耐熱袋に入れ、空気を抜いて密封する
空気が入ると袋が浮いてしまうため、アイラップなどに入れてしっかりと空気を抜き、袋の口をギュッと縛って余分な部分をカットします。

3️⃣低温調理器を75℃に設定し、さつまいもを入れて2時間加熱。そのまま温度を90℃に上げ、さらに1時間加熱する。
今回使ったさつまいもは、直径約7cm・重さ約250gです。加熱時間は大きさや太さによって調節してください。また、低温で長く加熱しすぎると、やわらかくなりにくくなることがあります。75℃で2時間を目安に調整してください。

3️⃣まで済ませたさつまいもは、速やかに冷却して冷凍保存することもできます。使うときは冷蔵庫で解凍し、中心まで十分に加熱してください。スイートポテトやシチュー、グラタン、天ぷらなど、さまざまな料理に活用できます。

A photo collage showing sweet potatoes with salmon in cream sauce, steamed sweet potatoes with lotus root and pork, and a toaster-baked sweet potato.
Enjoy sweet potatoes baked, steamed, or paired with a creamy sauce, bringing their gentle sweetness to everyday meals.

焼き芋にするなら、冷蔵庫で解凍したさつまいもを袋から取り出して水気をよく拭き取り、アルミホイルに包まずにオーブントースターへ。200℃で20分、続いて250℃で10分焼きます(それぞれ途中で上下を返してください)。75℃で引き上げたものでも、90℃まで加熱したものでも、どちらもおいしく仕上がります(75℃のものは200℃の時間を15分程度伸ばします)。レシピを参考に、温度や時間をいろいろ試しながら、自分だけのベストな食感を追求してみるのも楽しいかもしれません。

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さつまいもの薬膳効能

さつまいもには、「胃腸の働きを健やかに保つ」作用があるとされています。

中医学で詳しく解説すると…

10月も半ばだというのに、福岡では日中30℃近くまで気温が上がる日が続いています。かと思えば、朝晩は肌寒くなる日も……近年の秋は本当に不安定ですね。

最近、私の周囲でも体調を崩す人が増えています。頭痛、鼻水、吐き気、めまい、不眠、焦燥感、無気力など症状は人それぞれですが、検査では特に異常が見つからないという話も。中医学でいう「未病」を思わせるような不調です。

「秋の薬膳」でもご紹介しましたが、中医学では秋は「肺」と関わりの深い季節。乾燥や冷たい空気にそなえる養生が大切にされています。一方、秋の終わりには、冬への季節の変わり目にあたる「土用」があります。2026年の秋土用は10月20日~11月6日の18日間。「土用」は五臓の「脾」と深い関わりがあるため、この時期は脾胃をいたわる養生も大切にしたいところです。

さつまいもには脾胃の働きを健やかに保つ「健脾」、気を補う「補気」の働きがあるとされています。食べすぎるとお腹が張りやすくなりますが、適量であれば腸内環境や便通を整える助けにもなります。

栄養学の観点から

この時期、私の昼ごはんや夜ごはんは、焼き芋か蒸かし芋に具だくさんのスープを組み合わせることが多くなります。

さつまいもにはエネルギーとなる炭水化物のほか、食物繊維やビタミンC、カリウムなどが豊富に含まれています。

腹持ちも良いのですが、さつまいもだけで食事を済ませると、たんぱく質や鉄、カルシウムなどが不足しがち。豚肉や大豆製品、乳製品、きのこ、青菜などを使ったスープと合わせることで、不足しがちな栄養を補い、バランスの良い食事になります。

赤紫色の皮にはアントシアニンなどのポリフェノールが含まれ、抗酸化作用も期待できます。また、果肉がオレンジ色の品種(安納芋など)にはβ-カロテン、紫芋にはアントシアニンが多く含まれているなど、品種によっても特徴があります。

おすすめの薬膳書籍

薬膳の効能は、書籍によって記載内容が異なることがよくあります。これは薬膳が、数千年にわたる人々の実践と経験の積み重ねで発展してきた学問だからこそ。そんなとき頼りになるのが『先人に学ぶ 食品群別・効能別 どちらからも引ける 性味表大事典 改訂増補版』。
複数の古典書をもとに、1184種類の食材が掲載されており、薬膳を実践するならぜひ手元に置いておきたい一冊です。


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